受け入れ側の20項目チェック ——点検するのは職員ではなく、施設のほう
点検するのは、職員ではありません。施設のほうです。 外国人職員が増える施設で起きる事故の多くは、本人の能力ではなく、受け入れる体制の不足から起きています。
第10章の20項目を、5つのまとまりに分けて載せました。年1回、管理者とリーダーで。 □が15個に届かなければ、事故が起きたとき「教えていなかった」ことになる——これが第10章の言い方です。
なぜ、職員ではなく施設を点検するのか
外国人職員が関わる事故のあと、施設の中で出てくる言葉は、たいてい決まっています。 「日本語が分かっていなかった」「何度も言ったのに」「文化が違う」。 どれも、本人に原因を置く言い方です。そして、この言い方をしている限り、次の事故も起きます。
本人を点検しても、体制の穴は見つかりません。穴は、施設の側にあります。
連絡先の図が壁にない。夜勤の手順書が文章だけ。面談が入職後に一度もない。——本人が努力しても、埋まらない穴です。
20項目は、そのための表です。「あの職員はできているか」ではなく、「この施設は用意しているか」を、1つずつ見ます。 外国人職員のために作られた表ですが、埋まっていない項目は、日本人の新人にも同じように穴になっています。
20項目 — 5つのまとまり
第10章の20項目を、点検しやすいように5つに分けました。番号は第10章の並びのままです。 それぞれの項目に、くわしい記事へのリンクをつけています。
A. 初日に、具体例で教えたか
- 1 入職時に、身体拘束の11項目と3要件を、具体例で説明した
「身体拘束はだめ」ではなく、「柵で囲む・ミトン・つなぎ服」まで言ったか。→ 身体拘束にあたる11の行為 - 2 入職時に、写真・SNS・守秘義務を、具体例で説明した
「制服の自撮りもだめ」まで言ったか。→ 写真とSNS — 辞めたあとも守秘義務は続く - 3 入職時に、虐待の5類型と、通報の権利を説明した
「疑いで通報していい」「通報者は守られる」まで言ったか。→ 虐待を見たとき — 疑いだけで通報していい - 4 記録の書き方(書き換え禁止・事実と推測を分ける)を教えた
記録は法的な文書です。「特変なし」だけを書かないことも。→ 事故報告書に「特変なし」と書いてはいけない
1〜3は、初日の中身そのものです。初日に伝えるべき4つのことに、「ここまで言う」の線を書きました。
B. 現場に「物」があるか
- 5 緊急時の連絡系統図が、電話番号入りで、壁に貼ってある
名前と番号が入っていて、夜間・休日の行があるか。→ 様式のダウンロードの様式5 - 6 夜勤の手順書が、写真つき・ふりがなつきで存在する
文章だけの手順書は、日本人の新人にも読まれません - 7 外部の相談窓口の一覧を、母語で配布・掲示している
施設の中で解決しないことは、外に相談してよい。その窓口を、本人が知っているか。→ 外国人職員が相談できる窓口 - 17 ヒヤリハット・事故報告書が、短く簡単に書ける様式になっている
3行で出せるか。丸をつけるだけの紙があるか。→ ヒヤリハットは3行でいい
C. 話し方が、チームのルールになっているか
- 9 申し送りで、略語・方言を使わないルールがある
「トランス」「バイタル」「ラウンド」。→ 申し送りが速くて聞き取れないとき - 10 指示を数字で出すことが、チームで共有されている
「早めに」ではなく「10時までに」。「少し」ではなく「2人で」 - 11 「分かった?」ではなく「今から何をする?」で確認している
「はい」しか返ってこない聞き方を、やめているか。→ 「わかりました」と言うのに、できていない - 19 「前も言ったよね」を言わない、がチームのルールになっている
この一言で、その人は二度と質問しなくなります
D. 面談と、教える人が決まっているか
- 8 宗教・食習慣・服装の希望を、入職時に、こちらから聞いた
本人が言い出すのを待たない。→ 宗教・食習慣・服装への配慮 - 12 入職後3か月は、月1回の個別面談を行っている
詰所の立ち話ではなく、他の職員に聞こえない場所で - 13 面談に、通訳を手配できる体制がある
込み入った話は母語で。監理団体・登録支援機関に頼めるか - 20 教育担当者が決まっていて、その人の業務時間に、教育の時間が入っている
「手が空いたら教える」は、教えないのと同じです
E. 報告が、本人の損にならないか
- 14 利用者・家族からのハラスメントの報告ルートがある
誰に言えばいいか、本人が知っているか。→ 利用者・ご家族からの差別的な言動 - 15 ハラスメントがあったとき、担当を替える判断を、施設が行っている
「我慢して」と本人に返していないか。判断するのは施設です - 16 家族対応を、いきなり一人でやらせていない
ご家族への説明・謝罪は、最初は同席で - 18 報告した職員に、「ありがとう」と言えている
ヒヤリハットが出ないのは、日本語力の問題ではありません。→ 外国人職員がヒヤリハットを書かないのは、日本語力の問題ではない
20項目のうち、紙で解決するものが4つあります——5の連絡先の図、6の手順書、7の窓口一覧、17の様式。 残りの16は、「言い方」と「決めごと」です。お金はかかりません。かかるのは、決めることだけです。
数の読み方 — 15個の線
第10章は、「□が15個未満なら、事故が起きたとき『教えていなかった』ことになります」と書いています。 15という数字は目安です。ただ、この線の意味は、はっきりしています。
| □がついていない項目 | 起きやすいこと |
|---|---|
| 1〜3(初日の3つ) | 本人が違反者になる事故。柵4本、写真1枚、見て黙る |
| 5(連絡系統図) | 急変のとき、電話が遅れる。夜勤で一人のとき、いちばん起きます |
| 9〜11・19(話し方) | 「わかりました」のあとに、できていない。指示が半分だけ伝わる |
| 12・13・20(面談・教育担当) | 困りごとが、誰にも言えないまま3か月たつ。「言えなかった困りごと」がいちばん危ない |
| 14〜16・18(報告) | ヒヤリハットが0件。ハラスメントを一人で抱える。辞める |
数を増やすことが目的ではありません。□のない項目を1つ選んで、来月までに直す。翌年、もう一度数える。 それだけで、20項目は「点検の表」から「施設の体制」になります。
答え合わせは、本人にも聞きます。「教わっていないと思うことはありますか」—— 施設が「教えた」と思っている項目と、本人が「教わった」と思っている項目は、ずれています。 そのずれが、事故の場所です。
いつ、誰が、どうやるか
| 項目 | 一例 |
|---|---|
| いつ | 年1回。外国人職員が新しく入る前の月にすると、初日の準備と重なって無駄がありません |
| 誰が | 管理者とリーダー。現場のリーダーが入らないと、「あるはず」の項目が「実はない」ことに気づけません |
| どうやって | 20項目を紙に印刷して、1つずつ「ある/ない」。「たぶんある」は「ない」と数えます |
| 残すもの | 点検した日・□の数・選んだ1項目・担当・期限。翌年、この紙を横に置いて数えます |
| 本人への確認 | 面談で「教わっていないと思うこと」を聞く。責める場にしない |
カンファレンスで使うなら、30分の一例があります。5分で困りごとの地図を見る、10分で本人に「教わっていないこと」を聞く、10分で20項目から□のないものを1つ選んで対策を決める、5分で先月の対策の確認。 進行の紙は様式のダウンロードの様式6にあります。
制度が求めていることとの関係
20項目は、当研究所が作った現場の表であって、法令の点検表ではありません。 ただ、運営基準が施設に求めていることと、重なる項目が多くあります。指定介護老人福祉施設の基準を例に、対応を書きます。他のサービスにも、同じ趣旨の規定があります。
| 運営基準が求めていること | 20項目のどれに当たるか |
|---|---|
| 身体的拘束等の適正化のための委員会(3か月に1回以上)・指針・定期的な研修(第11条第6項) | 1。研修を「定期的に」行う中で、入職時の説明が抜けやすい |
| 従業者への研修の機会の確保(第24条第3項) | 1〜4・20。「機会の確保」に、教える人の時間が含まれているか |
| 職場のハラスメントを防止するための方針の明確化等の措置(第24条第4項) | 14・15。利用者・ご家族からのハラスメントについては、2026年10月施行の法改正で、事業主の対策が義務づけられました |
| 事故発生の防止のための指針・報告の体制・委員会と定期的な研修・担当者(第35条第1項) | 4・5・17・18。「報告される体制」に、報告した人が損をしない仕組みが含まれているか |
特定技能の職員がいる施設では、支援計画に定期的な面談が入っています。支援責任者などが行う、暮らしの側の面談です。 20項目の12の面談は、それとは別に、現場のリーダーが、仕事の困りごとを聞く面談です。 片方があるから片方は要らない、とはなりません。
訪問系のサービスで外国人職員を受け入れる事業所には、研修・同行・キャリアアップ計画・ハラスメント相談窓口・連絡の仕組みの5つが、遵守事項として求められています。 20項目の5・14・20と重なります。くわしくは2025年4月から訪問介護ができるようになりましたの「事業所の方へ」の段に。 訪問系のハラスメントの数字は訪問系は精神的暴力がいちばん多いに書きました。
まとめ
- 点検するのは職員ではなく、施設。「あの職員はできているか」ではなく「この施設は用意しているか」
- 20項目は5つのまとまり:初日に教えたか/物があるか/話し方のルール/面談と教育担当/報告が損にならないか
- □が15個に届かなければ、「教えていなかった」ことになる——第10章の言い方です
- 数を増やすことが目的ではない。□のない項目を1つ選んで、来月までに直す
- 年1回、管理者とリーダーで。「たぶんある」は「ない」と数える
- 答え合わせは本人に。「教わっていないと思うことはありますか」
やさしい 日本語(にほんご)
1 この ページは だれの ため?
この ページは、あなたを 受(う)け入(い)れる 事業所(じぎょうしょ)の 人(ひと)に 書(か)きました。
事業所が、じぶんを 点検(てんけん)するための 20の 項目(こうもく)です。
◎ 点検されるのは、あなたでは ありません。事業所です。
2 あなたは、これを もらいましたか
- 連絡先(れんらくさき)の 紙(かみ):急(きゅう)な とき、だれに 電話(でんわ)するか。名前(なまえ)と 番号(ばんごう)が 書いて ある。壁(かべ)に はって ある
- 夜勤(やきん)の 手順書(てじゅんしょ):写真(しゃしん)と ふりがなが ついて いる
- 外(そと)の 相談窓口(そうだんまどぐち)の 紙:あなたの ことばで 書いて ある
- 教(おし)えて くれる 人の 名前:「わからないとき、この 人に 聞(き)く」が 決(き)まって いる
3 もらって いなければ、言(い)って いいです
◎ 面談(めんだん)の とき、「教わって いないことが あります」と 言って いいです。
◎ 「教わって いません」は、わるいことでは ありません。事業所が、じぶんの 穴(あな)を 見つける ための ことばです。
⚠ 「わからない」を 言えない まま 3か月(さんかげつ)たつことが、いちばん あぶないです。
Bạn có thể nói trong buổi phỏng vấn định kỳ: "Có những việc tôi chưa được hướng dẫn." Nói như vậy không phải là điều xấu.
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、現場(げんば)の きまりに ついて 書(か)いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
ふりがなと やさしい 日本語は、この 研究所(けんきゅうじょ)が つけた ものです。ベトナム語は 参考訳(さんこうやく)です。まちがいが あれば、教(おし)えて ください。
あわせて読む
連絡先の図(様式5)、3行のヒヤリハット(様式1)、丸をつけるだけの紙(様式2)、カンファレンスの進行の紙(様式6)。PDFとWordを置いています。登録は要りません。
様式を見る → 外国人職員のために — 一覧根拠にした資料
- 『介護事故防止 実務マニュアル』第10章 日本の介護現場で特に注意すること(⑤ 受け入れる側の20項目点検/定着のためのサイクルと、カンファレンスでの使い方/教え方の4ステップと、面談の記録)全文公開しています
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第11条第6項(身体的拘束等の適正化のための委員会・指針・研修)、第24条第3項(研修の機会の確保)・第4項(ハラスメント防止のための措置)、第35条第1項(事故発生の防止のための指針・報告の体制・委員会と研修・担当者)。施設の基準を例に挙げました
- 厚生労働省「介護分野における特定技能外国人の受入れについて」(1号特定技能外国人支援計画・協議会への加入)
- 社会保障審議会介護給付費分科会 第245回(2025年3月24日)資料「外国人介護人材の訪問系サービスへの従事について(報告)」(事業所の遵守事項5つ)
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(利用者・ご家族からのハラスメントの報告ルート・担当を替える判断)
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。