初日に伝えるべき4つのこと ——「あとで教える」が、事故になる
外国人職員の初日に、何を伝えるか。多くの施設で、これは決まっていません。 住まいや役所の手続きなど、暮らしの支援は制度で項目が決まっています。けれど現場の安全を、初日に、誰が、何を伝えるかは、制度の項目には出てきません。
第10章は、初日に伝えることを4つに絞っています。身体拘束、写真とSNS、虐待の通報、緊急連絡。 知らないと本人が違反者になる3つと、知らないと命に関わる1つです。
なぜ「初日」なのか
職員に研修の機会を確保することは、施設の義務として運営基準に書かれています。身体拘束の適正化のための研修も、事故防止のための研修も、「定期的に行うこと」になっています。 ただし、「初日に何を」は、どこにも書いていません。だから、多くの施設で「そのうち研修で」になります。
「そのうち教える」の「そのうち」は、たいてい最初の事故のあとに来ます。
1週目に起きることは、悪意ではなく「知らなかった」から起きます。そして事故のあと、施設は「教えていなかった」ことになります。
1週目に、実際に起きることです。危ないと思って、ベッドの柵を4本立てる。利用者さんと一緒に写った写真を、母国の家族に送る。 先輩の乱暴な言葉を見て、黙っている。夜、急に具合の悪くなった人を見つけて、誰に電話すればいいか分からないまま、時間が過ぎる。 どれも、本人の能力の問題ではありません。初日に、誰も言わなかったのです。
「登録支援機関がやってくれる」と思っていると、誰もやっていない、が起きます。 特定技能の支援計画に並ぶのは、事前ガイダンス、生活オリエンテーション、日本語学習の機会、相談・苦情への対応、定期的な面談など——暮らしを支える項目です。 介護の現場で「柵は何本まで」「写真は撮ってよいか」を初日に誰が教えるかは、そこには書いてありません。それは、受け入れる施設の仕事です。
4つの中身 — どこまで言うか
「身体拘束はしないでください」「個人情報に気をつけて」では、伝わりません。 具体例で、「ここまで言う」と決めておくのが、この記事のいちばんの中身です。
| 初日に伝えること | なぜ、初日か |
|---|---|
| ① 身体拘束にあたる行為 | 善意でやってしまいます。知らないと、本人が違反者になります |
| ② 写真・SNS・守秘義務 | 仕事を失う人が、いちばん多いところです。悪気のない1枚で起きます |
| ③ 虐待を見たときの通報 | 「先輩のやり方だから」で黙ります。施設で働く人が虐待を見つけたら、通報は義務です |
| ④ 緊急のとき、誰に電話するか | 知らないと、命に関わります。夜勤で一人になる前に、必ず |
① 身体拘束 — 11の行為を、具体例で
「危ないから柵を4本」「手が動かないようにミトン」「車いすからずり落ちないようにベルト」。 どれも、利用者さんを守ろうとしてやります。だから、「してはいけない」と言われなければ、します。
- 11の行為を、物を見せながら言う。柵・ミトン・ベルト・つなぎ服・テーブルで押さえる——「これが身体拘束です」と、現物の前で
- 「緊急やむを得ない場合」は、本人が判断することではないと言う。3つの要件と、記録が要ることは、「そういう仕組みがある」までで十分です
- 危ないと思ったら、柵を足すのではなく、〇〇さんを呼ぶ。——「〇〇さん」の名前まで言います
「身体拘束はしないでください」
「利用者さんの尊厳を大事に」
→ 何が身体拘束か、分かりません。柵4本が身体拘束だとは、言われなければ気づけません。
「ベッドの柵は3本まで。4本で囲むと身体拘束です」
「危ないと思ったら、柵を足さないで、〇〇さんを呼んでください」
→ 何をして、何をしないかが、その場で決まります。
11の行為の一覧は、身体拘束にあたる11の行為にあります。ふりがなつきのやさしい日本語もついているので、初日に渡す紙としてそのまま使えます。
② 写真・SNS・守秘義務 — 「制服の自撮りもダメ」まで
- 利用者さんが写った写真は、撮らない・送らない・話さない。母国の家族に送るのも、同じです
- 制服が写った自撮りもダメ、寮で利用者さんの話をするのもダメ、と言葉にします。「個人情報」の一語では、ここまで届きません
- 辞めたあとも続く、と言います。仕事を失うだけでなく、法律に触れることがある、と
くわしくは写真とSNS — 辞めたあとも守秘義務は続くに。 「迷ったら、撮らない・送らない・話さない」——この一文だけ、初日に覚えてもらえば足ります。
③ 虐待を見たときの通報 — 疑いだけで、していい
- 虐待には5つの種類があると、例を1つずつ言う。たたく・どなる・放っておく・お金・性的なこと
- 見たら、疑いだけで、通報していい。調べる必要はない。通報した人は法律で守られる
- 施設の中の報告先(誰)と、外の窓口(市町村)の両方を言う。「先輩のやり方だから」で黙る人が、いちばん多いからです
「あなたが見たことを言うのは、告げ口ではありません」——ここまで言わないと、伝わりません。 くわしくは虐待を見たとき — 疑いだけで通報していいに。
④ 緊急連絡 — 誰に、何番に
- 名前と電話番号の入った連絡先の図を、壁に貼って、指さして説明する。「夜はこの人、休日はこの人」まで
- 先に119を呼ぶ基準を言う。返事がない・息がおかしい・血が止まらない——このときは、施設への電話より、119が先
- 電話で言うことは5つだけと言う。誰が・何が・いまどう・何をした・どうすればいいか。紙にして、電話のそばに
言い方は第一報の言い方 — 5つだけ言えば伝わるに。 連絡先を書き込んで貼る紙は、様式のダウンロードの様式5にあります。空欄のまま貼らないでください。
4つに共通するのは、「本人が判断してよいことではない」と伝えることです。
柵を足すか。写真を撮ってよいか。通報するか。119を呼ぶか。——迷ったら、する前に、この人に聞く。
その「この人」の名前まで決めておくのが、初日の仕事です。
「言った」と「伝わった」は違う
初日は、本人にとって情報がいちばん多い日です。言ったことの多くは、残りません。 だから、言い方と、確かめ方を変えます。
| やること | 中身 |
|---|---|
| やって見せる | 柵の本数も、電話のかけ方も、まず1回やって見せる。言葉での説明は、そのあと |
| 短い文で、数字を入れる | 「柵は3本まで」「電話で言うのは5つ」。専門用語は言い換える |
| 確認は「今から何をする?」 | 「分かった?」には、誰でも「はい」と答えます。「柵は何本まで?」「写真はどうする?」「夜、誰に電話する?」と聞く |
| 紙で渡す | 4つを1枚にして渡す。ふりがなつき。母語の資料を添えるなら、参考訳であることを書いておく |
| 通訳を頼む | 初日のこの4つは、込み入った話です。監理団体・登録支援機関に、同席を頼んでよい場面です |
「わかりました」と返ってきても、伝わったとは限りません。 その仕組みは「わかりました」と言うのに、できていないに書きました。 初日から「前も言ったよね」を言わない——これも、初日の仕事です。
初日に言わなくていいこと
初日に全部を詰め込むと、4つが埋もれます。施設の沿革、理念、加算の話、すべての手順書、全利用者さんの名前。 これらは初日でなくていい。第10章は、時期を分けています。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 入職前 | 宗教・食習慣・住まい・通院の希望を聞く。連絡先の一覧を母語で用意する |
| 初日 | 身体拘束の11項目/写真・SNS・守秘義務/虐待の通報/緊急連絡。この4つは初日に |
| 1週間 | 教育担当を1人決める。「誰に聞けばいいか」をはっきりさせる |
| 1か月 | 1回目の面談。「先週、いちばん大変だったのはいつ?」から始める |
| 3か月 | 夜勤に入る前に、写真つきの手順書で確認。最初の夜勤は2人で |
宗教・食習慣・服装は、初日ではなく入職前に、こちらから聞くことになっています。 聞き方は宗教・食習慣・服装への配慮に。 申し送りの速さや略語のことは、1週目に教育担当が扱う中身です——申し送りが速くて聞き取れないとき。
「伝えた」を残す
事故が起きたとき、問われるのは「教えていたか」です。 署名だけの受講票では、「伝わった」は示せません。残すなら、次の形です。
- 日時・内容・誰が・誰に。「初日に4項目を説明した」ではなく、「柵3本まで、4本で身体拘束、と現物で説明」と、中身を書く
- 本人の復唱を、本人の言葉で。「柵は3本。危ないときは〇〇さんを呼ぶ」——本人がそう言った、と書く。書き換えない
- 渡した紙を控える。何を渡したか、どの言語か。母語の資料は、参考訳であることも
- 1か月後の面談で、もう一度聞く。「柵は何本まで?」——覚えていなければ、教え方を変えます。本人を責めることではありません
受け入れる側が年に1回点検する20項目のうち、最初の3つは、この初日の中身そのものです。 受け入れ側の20項目チェックに載せました。
外国人職員が増える施設で起きる事故の多くは、本人の能力ではなく、受け入れる体制の不足から起きています。
初日の4つは、職員を守ると同時に、施設を守ります。
まとめ
- 暮らしの支援は制度で決まっています。現場の安全を初日に誰が伝えるかは、決まっていません。受け入れる施設の仕事です
- 初日の4つ:身体拘束・写真とSNS・虐待の通報・緊急連絡
- 「ここまで言う」を決める。「柵は3本まで」「制服の自撮りもダメ」「疑いで通報していい」「返事がなければ119が先」
- 迷ったら、する前に聞く。その「誰」の名前まで決める
- 確認は「分かった?」ではなく「柵は何本まで?」。復唱を、本人の言葉で記録に残す
- 4つ以外は、初日でなくていい
やさしい 日本語(にほんご)
1 この ページは だれの ため?
この ページは、あなたを 受(う)け入(い)れる 事業所(じぎょうしょ)の 人(ひと)に 書(か)きました。
でも、あなたも つかえます。
2 はじめの 日(ひ)に、この 4つを 教(おそ)わりましたか
- 柵(さく):ベッドの 柵は 何本(なんぼん)まで いいですか。
——4本で かこむと「身体拘束(しんたいこうそく)」に なります。 - 写真(しゃしん):利用者(りようしゃ)さんの 写真は、撮(と)りません。送(おく)りません。
——制服(せいふく)で じぶんを 撮るのも、しません。 - 虐待(ぎゃくたい):たたく・どなる・放(ほう)って おく——見(み)たら、だれに 言(い)いますか。
——「たぶん」でも 言って いいです。あなたは 法律(ほうりつ)で 守(まも)られます。 - 電話(でんわ):利用者さんが 急(きゅう)に わるく なったら、だれに 電話 しますか。番号(ばんごう)は どこに ありますか。
3 教わって いなければ、聞(き)いて ください
◎ 「これは、教わって いません。教えて ください」と 言って いいです。
◎ まよったら、する 前(まえ)に、聞きます。柵を 足(た)す 前。写真を 撮る 前。
⚠ 「だれに 聞くか」が わからないときは、「わからないとき、だれに 聞けば いいですか」と 聞いて ください。
Nếu chưa được dạy, bạn có thể nói: "Tôi chưa được hướng dẫn việc này. Xin hãy chỉ cho tôi."
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、現場(げんば)の きまりに ついて 書(か)いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
ふりがなと やさしい 日本語は、この 研究所(けんきゅうじょ)が つけた ものです。ベトナム語は 参考訳(さんこうやく)です。まちがいが あれば、教(おし)えて ください。
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ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。