訪問系は精神的暴力がいちばん多い(施設は身体的暴力)
施設でいちばん多いハラスメントは、身体的暴力。訪問介護でいちばん多いのは、精神的暴力です。
厚生労働省の調査では、訪問介護の職員のうち、この1年に利用者からハラスメントを受けた人の81%が「精神的暴力」を挙げました。怒鳴られる、人格を否定される、「この程度できて当然」と理不尽な要求をされる。手は出ていないから、けがはない。だから、報告されにくい。
この記事は、数字で「あなただけではない」を確かめ、何がハラスメントで何がそうでないかを分け、事業所に何が求められているかを整理したものです。2026年10月からは、利用者やご家族からのハラスメント(カスタマーハラスメント)への対策が、事業主の義務になります。
もくじ
数字で見る ——訪問介護は「精神的暴力」が81%
平成30年度に、厚生労働省の事業として、介護現場のハラスメントの実態調査が行われました(職員票の回答 10,112人)。訪問介護の職員で、この1年に利用者からハラスメントを受けた人(840人)の内訳はこうでした。
| 受けた内容(複数回答) | 訪問介護 |
|---|---|
| 精神的暴力 | 81.0% |
| 身体的暴力 | 41.8% |
| セクシュアルハラスメント | 36.8% |
同じ調査で、介護老人福祉施設(特養)は身体的暴力 90.3%、精神的暴力 70.6%。並び方が逆です。訪問看護・訪問リハビリ・通所介護・居宅介護支援も、訪問介護と同じく「精神的暴力」が最多でした。
| ハラスメントを受けたことのある職員(訪問介護) | 割合 |
|---|---|
| これまでに(利用者から) | 50% |
| この1年間に(利用者から) | 33% |
3人に1人が、この1年に受けています。あなたが受けたことがあるなら、それは珍しいことではなく、この仕事の構造の中にあることです。
◎ この調査の「ハラスメント」には、認知症などの病気や障害の症状として現れた言動も含まれています。厚生労働省のマニュアル本体は、症状としての言動を「ハラスメント」から外して定義しています(→§2)。数字を読むときは、その違いを知っておいてください。
何がハラスメントで、何がそうでないか
厚生労働省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」は、利用者やご家族からの行為を、3つに分けています。
| 区分 | 例(マニュアルから) |
|---|---|
| 身体的暴力 | コップを投げつける/蹴られる/唾を吐く |
| 精神的暴力 | 大声を発する/怒鳴る/特定の職員にいやがらせをする/「この程度できて当然」と理不尽なサービスを要求する |
| セクシュアルハラスメント | 必要もなく手や腕を触る/抱きしめる/入浴介助中、あからさまに性的な話をする |
そして、次のものは「ハラスメント」ではないと書いています。
- 認知症などの病気や障害の症状として現れた言動(BPSDなど)。——ただし、マニュアルは「症状であっても、職員の安全に配慮する必要があることは変わらない」と続けています。組織で対応することは同じです
- 利用料金の滞納(不払いのときの言動がハラスメントになることはある)
- 苦情の申し立て
「苦情」はハラスメントではありません。「怒鳴りながらの苦情」は、苦情の中身と、怒鳴ることを分けて考えます。
中身には事業所が答えます。怒鳴ることは、中身とは別に、止めてもらうことです。この2つを混ぜると、「苦情だから我慢するしかない」になります。
⚠ 「症状かどうか」を、その場であなたが判定する必要はありません。判定はあとで、事業所と医師とケアマネジャーがします。その場であなたがするのは、安全を確保して、事業所に伝えること。症状であっても、そうでなくても、そこは同じです。
なぜ訪問では、精神的暴力が多いのか
| 構造 | 中身 |
|---|---|
| 相手の家である | 施設は事業所の場所。訪問先は相手の場所です。そこでは、相手が「主」で、あなたが「客」のように扱われることがあります。「うちのやり方で」が強く出ます |
| 1対1で、見ている人がいない | 施設なら、他の職員や他の利用者の目があります。訪問では、言った・言わないが、あなたと相手の2人にしか分からない。だから言う側は言いやすく、受けた側は証明しにくい |
| ご家族が「当事者」 | 施設のご家族は面会に来る人。訪問のご家族はそこで暮らしている人です。介護の疲れ、経済の不安、ご本人との関係——それが、いちばん近くにいるあなたに向きます。マニュアルの事例集にも、「事故後の対応から、家族の責任追及が高まり、暴言に至った」訪問系の事例が載っています |
| サービスの範囲が誤解されている | 調査で管理者が挙げた発生要因の上位に、「利用者・家族等がサービスの範囲を理解していないから」「サービスへ過剰な期待をしているから」があります。「これもやって」を断ると、怒りになる(→断り方の記事) |
つまり、訪問介護の精神的暴力は、あなたの対応が悪いから起きるのではありません。場所・人数・関係・説明——構造がそうなっています。構造の問題は、構造で(事業所で)対応するものです。
その場で ——3つの原則
その場での動き方は、一人で入る家の備えに詳しく書きました。ここでは原則だけ。
| 原則 | 中身 |
|---|---|
| ① 言い返さない、謝り続けない | 反論は火に油。謝り続けるのは「あなたが悪い」を認める形になります。「事業所から改めてご連絡します」——この一文で、相手をあなたから事業所に移します |
| ② 体は離す | 出口に近づく。触られたら「やめてください」と1回はっきり。止まらなければ作業を止めて出る。手が出たら、迷わず出る |
| ③ その日のうちに、事業所へ | 「たいしたことじゃないかも」と思っても言う。言われた言葉は「 」で、そのまま記録する。あなたの評価(「怒りっぽい人」)ではなく、言葉と行動を書く |
Quấy rối tinh thần (la mắng, đòi hỏi vô lý) là loại nhiều nhất trong chăm sóc tại nhà: 81%. Không phải lỗi của bạn. Không cãi lại, không xin lỗi mãi — nói "Cơ sở sẽ liên lạc lại", giữ khoảng cách, báo cơ sở trong ngày.
事業所に求められていること ——2026年10月から義務に
ここは、あなたが事業所に「何を求めていいか」を知るための節です。
いま(介護保険の決まりとして)
- 基準省令には、事業者が職場のハラスメントを防ぐための方針の明確化などの必要な措置を講じることが定められています(令和3年4月から)
- 解釈通知は、セクシュアルハラスメントについて「上司や同僚に限らず、利用者やその家族等から受けるものも含まれる」と明記しています
- 利用者・ご家族からのカスタマーハラスメントの防止について、①相談に応じる体制 ②被害者への配慮 ③被害防止の取組が望ましいこととして書かれています
- 厚生労働省のマニュアルは、訪問系サービスに定時・随時の電話連絡体制、警報機付きブザー、管理者の同行や複数人派遣の検討を挙げています
2026年(令和8年)10月1日から(労働の決まりとして)
労働施策総合推進法が改正され、カスタマーハラスメントの防止のための措置が、事業主の義務になります。厚生労働省のリーフレットは、事業主が必ず講じなければならない措置として、次を挙げています。
| 義務になる措置(要点) | 訪問介護で言うと |
|---|---|
| 「毅然とした態度で対応し、労働者を保護する」方針を明確にして周知 | 「ヘルパーは我慢するもの」ではない、と事業所が言葉にすること |
| あらかじめ定めた対処の内容を周知——例として「管理監督者に指示を仰ぐ」「可能な限り労働者を一人で対応させない」「犯罪に該当し得る言動は警察へ通報」 | ⚠ 訪問介護は、構造として一人です。だから「一人で対応させない」をどう実現するか(電話でつなぐ・2人訪問・担当変更)を、事業所が決めておく必要があります |
| 相談窓口を定めて周知し、担当者が対応できるようにする | 誰に言えばいいかが、決まっていて、知らされていること |
| 事実確認、被害者への配慮、再発防止 | 言ったあとに、事業所が動くこと。「気にしすぎ」で終わらせないこと |
| 特に悪質なものへの対処方針をあらかじめ定めて体制を整える | 契約の解除・警察・弁護士など、最後の手順が決まっていること(→§6) |
| 相談したことで不利益な扱いをしないと定めて周知 | 「言ったら担当を外された、シフトを減らされた」が起きないこと |
リーフレットは、カスタマーハラスメントの「顧客等」に「施設の利用者」を明記しています。介護の利用者・ご家族は、この決まりの対象です。
◎ 「事業所は何をしてくれるのか」と聞くとき、この表を持っていってください。あなたの要望ではなく、決まりです。「10月から義務になる措置について、うちの事業所ではどう決まっていますか」——この聞き方なら、角が立ちません。
契約を終えることは、できるのか
ハラスメントが続くとき、「もう行かなくていいのでは」と思うのは自然です。ここは、事業所の判断の枝です。あなたが決めることではありませんが、どういう枝があるかは知っておいてください。
- 基準省令では、事業者は正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないとされています。事業所の側から契約を終えるには「正当な理由」が要ります
- マニュアルは、正当な理由の判断で考えることとして、結果の重大性、再発の可能性、契約解除以外の防止方法があるか、解除による利用者の不利益の程度を挙げています
- マニュアルが「正当な理由が肯定される可能性のある場合」として挙げている例は、身体的暴力があり、関係機関と一緒に話し合っても再発の可能性があり、複数名訪問などの提案も拒否されたとき、予告期間を置き、後任の事業所を紹介して解除した場合です
- 逆に、職員の不適切な言動に立腹したご家族の暴言に対し、話し合いも担当変更も後任の紹介もせず、直ちに解除した場合は、正当な理由が否定される可能性があるとしています
- その前の段階として、担当の変更、2人訪問、ケアマネジャー・地域包括支援センター・市町村との連携、契約書にハラスメント時の解除条項を具体的に書いておくことが、マニュアルの実践例に挙がっています
つまり、「我慢し続ける」と「すぐやめる」の間に、たくさんの段階があります。その段階を進めるのは事業所とケアマネジャーですが、進めるための材料は、あなたの記録です。
あなたにできること ——書く・言う・つなぐ
- 書く。日時・場所・誰から・言われた言葉(「 」で)・されたこと・自分がしたこと・そのとき誰がいたか。1回1枚。10回あれば10枚。回数が分かることに意味があります
- 言う。その日のうちに、サービス提供責任者か管理者へ。「たいしたことではないかもしれませんが」と前置きしていい。マニュアルの調査では、管理者の課題の最多が「ハラスメントかどうかの判断が難しい」でした。判断は管理者の仕事です。あなたは材料を渡す
- つなぐ。事業所の中で止まるなら、外があります。都道府県が介護職員向けの悩み相談窓口を設けている場合があります(マニュアルにも記載)。労働の相談は労働局・労働基準監督署の総合労働相談コーナー。事業所に相談したことで不利益を受けたと感じたときも、そこです
- 一人で抱えない。調査では、ハラスメントを受けてけがや病気になった職員が1〜2割、仕事を辞めたいと思った職員が2〜4割。マニュアルは「自分さえ我慢すれば」「自分が未熟だから」と抱え込む傾向を課題として書いています。そう思ったとき、それは書く合図です
怒鳴られたことを書くのは、告げ口ではありません。次に行くヘルパーが、同じ玄関で同じ言葉を聞かないための、申し送りです。
あなたの1枚が、担当の変更や2人訪問や、ご家族への説明の根拠になります。書かれなければ、事業所には「何も起きていない家」に見えます。
まとめ
- 訪問介護でハラスメントを受けた職員の81.0%が精神的暴力(身体的41.8%、セクハラ36.8%)。特養は身体的90.3%で、並びが逆
- 訪問介護ではこの1年に3人に1人(33%)、これまでに50%が利用者からハラスメントを受けている
- マニュアルの定義:身体的暴力・精神的暴力・セクハラ。症状としての言動・滞納・苦情はハラスメントではない——ただし安全への配慮は同じ
- 訪問で精神的暴力が多いのは相手の家・1対1・家族が当事者・範囲の誤解という構造。あなたの対応のせいではない
- その場では言い返さない・謝り続けない/体は離す/その日のうちに事業所へ
- 事業者にはハラスメント防止の措置が基準省令で求められ、2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策が事業主の義務になる(方針・対処の周知、相談窓口、事実確認と配慮、悪質なものへの対処方針、不利益な扱いの禁止)
- 契約の解除には正当な理由が要る。その前に担当変更・2人訪問・関係機関との連携の段階がある。進める材料はあなたの記録
- 書く・言う・つなぐ。一人で抱えない
やさしい 日本語(にほんご)
1 ⚠ 訪問介護(ほうもんかいご)で いちばん 多(おお)いのは、ことばの 暴力(ぼうりょく)です
◎ どなる。ばかに する。むりな ことを 言(い)う。国(くに)の 調査(ちょうさ)で、ハラスメントを 受(う)けた 訪問介護の 職員(しょくいん)の 81%が これでした。3人(にん)に 1人が、この 1年(ねん)に 受けて います。あなた だけでは ありません。
2 ◎ ハラスメントは、3つ
- 体(からだ)の 暴力——たたく。物(もの)を なげる
- ことばの 暴力——どなる。「できて 当然(とうぜん)だ」と むりを 言う
- セクハラ——体を さわる。だきしめる。性的(せいてき)な 話(はなし)
◎ びょうきの 症状(しょうじょう)(認知症(にんちしょう)など)で 出(で)る ことばは、ハラスメントとは 分(わ)けて 考(かんが)えます。⚠ でも、あなたの 安全(あんぜん)は 同(おな)じように 守(まも)ります。その場(ば)で あなたが 「びょうきか どうか」を きめる 必要(ひつよう)は ありません。
3 ◎ なぜ 訪問で 多いか
◎ 相手(あいて)の 家(いえ)で、1対(たい)1で、ご家族(かぞく)も つかれて いる。それは あなたの せいでは ありません。しくみの 問題(もんだい)です。
4 ◎ その場で
- 言(い)い返(かえ)さない。あやまり続(つづ)けない。「じぎょうしょから れんらく します」
- 体を はなす。さわられたら「やめて ください」と 1回。止(と)まらなければ 出(で)る
- その日(ひ)の うちに、じぎょうしょに 言う。言われた ことばを、そのまま 書(か)く
5 ◎ じぎょうしょが しなければ ならない こと
◎ 2026年10月1日から、法律(ほうりつ)で きまります。「職員を 守る」と はっきり 言う。相談(そうだん)する 場所(ばしょ)を きめる。できるだけ 1人で 対応(たいおう)させない。相談した 人に わるい ことを しない。
◎ 「10月からの きまりで、うちの じぎょうしょは どう なって いますか」と 聞(き)いて いいです。
6 ◎ あなたが できる こと
- 書く——いつ・どこで・だれが・何(なに)を 言ったか。1回に 1枚(まい)
- 言う——サービス提供責任者(ていきょうせきにんしゃ)か 管理者(かんりしゃ)に。「たいした ことでは ないかも」と 思(おも)っても
- つなぐ——じぎょうしょで 止まったら、都道府県(とどうふけん)の 相談窓口(そうだんまどぐち)や 労働局(ろうどうきょく)にも 相談できます
◎ 「わたしが がまんすれば いい」と 思った とき——それが、書く 合図(あいず)です。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、現場(げんば)の きまりに ついて 書(か)いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
ふりがなと やさしい 日本語は、この 研究所(けんきゅうじょ)が つけた ものです。まちがいが あれば、教(おし)えて ください。
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「どなられた」「さわられた」「一人で行きたくない」から入れます。いずれも一例です。事業所の規程と市町村の要領に合わせて読み替えてお使いください。
困りごとから調べる → 困りごとから調べる根拠にした資料
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」令和4年3月改訂版 および同「介護現場におけるハラスメント事例集」令和4年3月(平成30年度老人保健健康増進等事業「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究」の実態調査を含む) ——ハラスメントの定義と例、「ハラスメントではないもの」、実態調査(職員票10,112人。訪問介護で利用者からハラスメントを受けた職員840人の内訳=精神的暴力81.0%・身体的暴力41.8%・セクシュアルハラスメント36.8%。介護老人福祉施設=身体的90.3%・精神的70.6%。訪問介護で受けたことのある職員=これまで50%・この1年33%。けが・病気1〜2割、辞めたいと思った2〜4割。管理者の課題の最多「ハラスメントかどうかの判断が難しい」)、契約解除の「正当な理由」の考え方、訪問系サービスの備え
- 厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます! カスタマーハラスメント対策の義務化【改正労働施策総合推進法・指針の内容】」 ——「顧客等」に施設の利用者を含むこと、事業主が必ず講じなければならない措置
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号) 第9条(提供拒否の禁止)・第30条第4項(職場におけるハラスメント防止のための必要な措置)
- 厚生労働省「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」平成11年9月17日 老企第25号(解釈通知) ——セクシュアルハラスメントは利用者やその家族等から受けるものも含む、カスタマーハラスメント防止の望ましい取組
- 厚生労働大臣が定める基準に適合する利用者等(平成27年厚生労働省告示第94号)第3号 ——暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等が認められる場合の2人の訪問介護員等による訪問介護
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。