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看護師の側から

なぜ「数値だけ報告して」と言われ、判断は求められないのか

まず、これだけ

「38度2分です」と言うと「うん」で終わる。「熱がありそうなので冷やしますか」と言うと止められる。

測ることと、決めることの間に、線が引かれているからです。その線は国の通知が引いたもので、看護師が決めたものではありません。

⚠ ただし、「判断しない」と「気づいたことを言わない」は別のことです。気づいたことは言っていい。むしろ、いつもと違う数字は伝えるべきだと、同じ通知に書かれています。

やさしい日本語で読むくわしい根拠を見る

最終更新:2026年9月 / 高齢者支援実務研究所

もくじ

  1. 「測る」と「決める」は、通知の中で分かれています
  2. 「事前に示された数値の範囲」——これは、あらかじめ決めておくものです
  3. 令和4年で広がったのは「確認する」までです
  4. 準備と片付けはよくて、開始と停止はだめな理由
  5. 数値だけでは足りません。「いつもとの違い」は、あなたにしか書けません
  6. だから、こう言えば通ります
  7. ここから先は、本当に無理です
  8. 記録にどう残すか
  9. まとめ

「測る」と「決める」は、通知の中で分かれています

根拠は平成17年7月26日 医政発第0726005号です。「原則として医行為ではないと考えられるもの」として、次の3つが挙げられています。

できること条件
体温をはかる水銀・電子体温計で腋の下。耳式電子体温計で外耳道
血圧をはかる自動血圧測定器で(令和4年に半自動血圧測定器が追加されました)
パルスオキシメーターをつける新生児以外で、入院して治療する必要がない方

そして、そのすぐ後ろの注2に、こう書かれています。

上記1から3までに掲げる行為によって測定された数値を基に、投薬の要否など医学的な判断を行うことは医行為であり、事前に示された数値の範囲外の異常値が測定された場合には医師、歯科医師又は看護職員に報告するべきものである。

1文の中に、2つのことが書かれています。

前半後半
判断は医行為=介護職はできない異常値は報告するべき=介護職がやること

「判断するな」と「報告しろ」は、同じ一文に書かれています。

片方だけ覚えると、片方が抜けます。「判断するな」だけ覚えると報告が遅れ、「報告しろ」だけ覚えると判断まで背負ってしまいます。

「事前に示された数値の範囲」——これは、あらかじめ決めておくものです

注2の後半に、さらっと「事前に示された数値の範囲」という言葉が入っています。ここが実務では、いちばん効きます。

通知は「異常値なら報告」と書いていますが、何が異常値かは、通知には書かれていません。「事前に示された」と書いてあるだけです。つまり——

その方ごとの「この範囲を外れたら報告」を、あらかじめ決めておくことが前提の書き方になっています。
決まっていないと、その場で介護職が判断することになります。それは、通知が「医行為」と書いているほうの側です。

だから、いちばん効く一手は、現場で悩むことではなく、事前に範囲を決めてもらうことです。

その場で悩む

「37.6度って、報告したほうがいいのかな……この前は『それくらいで呼ばないで』と言われたし……」

事前に決めてある

「〇〇さんは37.5度以上で報告、と決まっている。37.6度なので報告する」

この「事前の範囲」は、あなたを守ります。報告しても「そんなことで呼ぶな」にはなりませんし、報告しなくても「なぜ言わなかった」にはなりません。そして、範囲を決めたのは看護職員なので、判断の責任もそちらにあります。 Hãy xin quyết định trước "vượt số nào thì báo". Như vậy bạn không bị trách vì báo, cũng không bị trách vì không báo. Và trách nhiệm phán đoán thuộc về người đã đặt ra mức đó.

令和4年で広がったのは「確認する」までです

令和4年12月1日の通知(医政発1201第4号)で、いくつか動きました。ただし、動いたのは「確認する」までです。

番号中身
2患者が血糖測定と血糖値の確認を行った後に、介護職員が、当該血糖値があらかじめ医師から指示されたインスリン注射を実施する血糖値の範囲と合致しているかを確認すること
3患者が準備したインスリン注射器の目盛りが、あらかじめ医師から指示されたインスリンの単位数と合っているかを読み取ること
4持続血糖測定器のセンサーの貼付や、当該測定器の測定値の読み取りといった、血糖値の確認を行うこと
16パルスオキシメーターを装着し、動脈血酸素飽和度を確認すること
17半自動血圧測定器(ポンプ式を含む)を用いて血圧を測定すること

並んでいる動詞を見てください。「確認する」「読み取る」「合致しているかを確認する」。

どれも「あらかじめ医師から指示された範囲」と照らし合わせる作業です。範囲を決めるところは、こちら側に来ていません。

16は、平成17年の3を書き換えたものです。平成17年は「パルスオキシメータを装着すること」でした。令和4年で「動脈血酸素飽和度を確認すること」まで進みました。つけるだけ、から、数字を読むところまで。——それでも「その数字でどうするか」は入っていません。

準備と片付けはよくて、開始と停止はだめな理由

同じ令和4年の通知には、この線引きがいちばんはっきり出る例があります。

場面線がどこに引かれているか
経管栄養できる=準備と片付け
できない=栄養等を注入する行為注入を停止する行為は除かれています。さらに、①経鼻の場合にチューブが胃に入っているかの確認 ②胃ろう・腸ろうの状態に問題がないことの確認 ③内容物をひいて状態を判断し、注入内容と量を予定どおりとするかを判断すること——この3点は医師又は看護職員が行うと明記されています
在宅酸素療法できる=あらかじめ指示された流量の設定、装着の準備、離脱後の片付け
できない=酸素吸入の開始と停止は、医師、看護職員又は患者本人が行うこと
インスリンできる=声かけ、見守り、未使用の注射器の手渡し、使い終わった注射器の片付け、記録
できない=注射器の針を抜き、処分する行為は除かれています

線が引かれているのは「体に効きはじめる瞬間」です。準備までは体に何も起きていません。開始した瞬間から、体の中で何かが変わります。その瞬間の判断を持つ人が、責任を持つ人だという構造になっています。
「なぜ準備はよくて、開始はだめなのか」——理由はこれ以上でも以下でもありません。通知が線をそこに引いたからです。

令和7年12月26日の通知(その3)にも、同じ形の線があります。膀胱留置カテーテルの蓄尿バッグについて、破損や尿漏れを確認したときの接続は介護職員にも開かれました。しかし注6に、はっきりこう書かれています。
定期的な交換においては、医師又は看護職員が膀胱留置カテーテル・蓄尿バッグの両方を交換すること
——開いたのは突発事象への対処だけです。定期交換は、いまも医師か看護職員の仕事です。

数値だけでは足りません。「いつもとの違い」は、あなたにしか書けません

ここまで読むと「数字だけ言えばいいのか」と思えますが、それは違います。

看護職員が数値を求めるのは、数値が判断の材料だからです。しかし材料は数値だけではありません。そして、数値以外の材料を持っているのは、その時間そばにいた人だけです。

誰が持っているか材料
誰でも測れば分かる体温、血圧、脈拍、SpO2
その時間そばにいた人だけいつもと違うところ。食べる量、声のはり、話しかけへの反応、動きの速さ、姿勢、表情、いつもならしないこと、いつもならすることをしないこと

「判断しない」と「気づいたことを言わない」は、まったく別のことです。

「肺炎だと思います」は判断です。「昨日は完食でしたが、今日は3口で止まりました」は事実です。事実は、いくら言っても医行為にはなりません。そして看護職員が本当に欲しいのは、そちらです。

「いつもと違う」を言うのに、資格は要りません。むしろ、いつもを知っている人にしか言えません。これは介護職員にしか出せない材料です。数字は誰でも測れます。

だから、こう言えば通ります

型は1つです。「数値」+「いつもとの違い」+「相手が答えられる質問」。

通りにくい

「〇〇さん、なんか調子が悪そうなので、見てもらえませんか」
——材料がないので、相手は判定できません

通りやすい

「14時、37.8度。朝は36.5度でした。昼食は3口で止まり、声かけへの返事がいつもより遅いです。報告の範囲に入りますか」

場面言い方の型(いずれも一例です)
ふだんの報告「〇時、〇〇(数値)。前回は〇〇でした。いつもと違うのは〇〇です。
=時刻・数値・前回・違い。この4つがそろうと、相手はすぐ判定できます
範囲が決まっていない〇〇さんは、どの数字を超えたら報告しますか。決めておいていただけると、迷わず動けます」
=いちばん効きます。通知の「事前に示された数値の範囲」そのものです
数値は範囲内だが、気になる数字は範囲内です。ただ、いつもと違うので伝えておきます。〇〇です」
=判断していません。事実を渡しているだけです
「で、どう思う?」と聞かれた見えたことだけお伝えします。〇〇と〇〇が、いつもと違いました」
=見立てを求められても、事実に戻して答えてよいです

ここから先は、本当に無理です

中身
法令上の線
(言い方では動きません)
測定した数値をもとに投薬の要否など医学的な判断を行うこと(通知 注2)。薬を足す・抜く・変える、受診するかを決める、注入や酸素吸入を開始・停止すること。
「病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には、医行為であるとされる場合もあり得る」(注2の前段)。測定そのものが医行為になる場面もあります
事業所で変わる線
(話し合いで動きます)
その方ごとの報告する数値の範囲/測定の頻度と時間帯/記録の様式/夜間の連絡経路/「範囲内だが気になる」ときの扱い
通知が「事前に示された」と書いている以上、決めておくのは事業所側の仕事です

そして、3本の通知すべてに同じ注があります。「今回の整理はあくまでも……解釈に関するものであり、事故が起きた場合の刑法、民法等の法律の規定による刑事上・民事上の責任は別途判断されるべきものである」。
——「通知にあるから測ってよい」は、「何かあっても責任がない」という意味ではありません。

記録にどう残すか

範囲内だが、いつもと違ったとき
14:00 体温37.2度(朝36.5度)。報告基準の37.5度は超えていないが、昼食が3口で止まり、声かけへの返事がいつもより遅いため、看護職員〇〇へ口頭で伝える。「16時に再検、37.5度を超えたら連絡」との指示。
16:00 体温37.4度。昼食後よりは反応あり。夕食時に再度確認する。

範囲を超えたとき
14:00 体温37.9度(報告基準37.5度以上)。朝36.5度。昼食3口。声かけへの返事が遅い。ふだんは自分から話しかけられる方だが、今日は発語なし。看護職員〇〇へ報告。

「基準は超えていないが、いつもと違うので伝えた」という一行が、いちばん強い記録です。数字だけの記録は、あとから読んでも何も分かりません。いつもを知っている人が書いた「違い」は、次に読む人の判断材料になります。そして、あなたが基準を超えて見ていた証拠にもなります。

まとめ

やさしい 日本語(にほんご)

1 なにが おきますか

あなたが 体温(たいおん)を はかりました。
看護師(かんごし)に 言(い)います。
看護師は「数字(すうじ)だけ 教(おし)えて」と 言います。
あなたの 考(かんが)えは 聞(き)いて くれません。

2 なぜ そう 言(い)いますか

国(くに)の 紙(かみ)に こう 書(か)いて あります。
はかる こと → 介護(かいご)の 人も できます。
その 数字で 薬(くすり)を どうするか 決(き)める こと → 医療(いりょう)の 仕事(しごと)です。
いつもと ちがう 数字の とき → 報告(ほうこく)します。

だから 看護師は 数字を 聞きます。あなたを 信(しん)じて いないのでは ありません。

3 あなたは どう 言(い)いますか

数字だけでは ありません。「いつもと ちがう ところ」も 言って ください。
それは あなたしか 知(し)りません。

4 これは できません

◇ 数字を 見(み)て 薬を 変(か)えること。
病院(びょういん)に 行くか 決めること。
◇ 栄養(えいよう)や 酸素(さんそ)を はじめる・とめること。

でも 「いつもと ちがう」と 言うのは、いつでも できます。
それは 判断(はんだん)では ありません。見た ことです。

※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)に ついて 書いて います。あなたの 施設(しせつ)の きまりも、かならず 見て ください。

「いつもと違う」を、その場で書き出せます

数値のほかに何を見るか、その方ごとに書き出す形にしています。いずれも一例です。項目は事業所に合わせて書き換えてお使いください。

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根拠にした資料

個人の経験ではなく、公開されている資料をもとに整理しています。
  • 厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」平成17年7月26日 医政発第0726005号(別紙1〜3・注2・注4)
  • 同(その2)令和4年12月1日 医政発1201第4号(別紙 2・3・4・6・8・16・17)
  • 同(その3)令和7年12月26日 医政発1226第12号(別紙 2・注6)
  • 保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第5条・第31条第1項・第37条
  • 当研究所『介護事故防止 実務マニュアル』第9章「報告」 ——第一報の伝え方について
この記事について 一般的な情報提供を目的としています。法令や通知の解釈を最終的に行うのは、所管の行政庁と裁判所です。医療・介護の判断を代替するものではありません。 通知の一覧に載っていることが、その方に対してやってよいことを意味しません。病状が不安定であるなど専門的な管理が必要な場合は、医行為とされることがあります。 事業所によって、利用者さんによって、正しいやり方は変わります。 ここで書いているのは、法令上の枠組みです。特定の誰かの考えや意図を書いたものではありません。 実際の対応は、所属事業所の規程および、医師・看護師の指示に従ってください。制度・通知・法令は改正されることがあります。
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。