なぜ看護師は記録にこだわるのか
そこまで書くのか、と思う。同じことを二度書かされているように見えることもあります。
⚠ 介護施設の決まりに、「看護記録」という言葉はひとつも出てきません。つまり看護師は、いまの職場が求めていない形の記録を、資格のほうから背負って現場に来ています。
土台にあるのは、看護の世界の指針にある一文です。「書いていない看護は、実際に行われていても、事実と認められないことがある」。だから、書き方にこだわります。
もくじ
介護施設に「看護記録」という法定文書はありません
まず、意外に思われるかもしれない事実からです。
指定介護老人福祉施設の基準(平成11年厚生省令第39号)と、介護老人保健施設の基準(平成11年厚生省令第40号)の全文を検索しても、「看護記録」という語は 0 件です。「診療録」も 0 件です。
⚠ だから「看護記録を書きなさい」という条文は、介護施設には存在しません。これは、看護師の要求が不当だという意味ではありません。要求の根っこが、介護保険の法令の外側にあるという意味です。
では、法令が求めているのは何か
介護施設に課されているのは、名前のついた文書ではなく、内容です。
第八条第2項(サービスの提供の記録) 指定介護老人福祉施設は、指定介護福祉施設サービスを提供した際には、提供した具体的なサービスの内容等を記録しなければならない。
そして、その記録を含む7種類を「整備し、保存する」条文が別にあります。
| 第37条第2項 | 中身 |
|---|---|
| 第1号 | 施設サービス計画 |
| 第2号 | 第8条第2項による、提供した具体的なサービスの内容等の記録 |
| 第3号 | 身体的拘束等の態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由の記録 |
| 第4号 | 市町村への通知に係る記録 |
| 第5号 | 苦情の内容等の記録 |
| 第6号 | 事故の状況及び事故に際して採った処置についての記録 |
| 保存 | その完結の日から二年間 |
ここが実務の要です。法令は「誰が書くか」を決めていません。「提供した具体的なサービスの内容等」が残っていればよいのです。だから、介護職員が書いた記録も、法令が求める記録そのものになります。「看護師が書くもの」ではありません。
⚠ 保存年限は「二年間」ですが、そのまま信じないでください。
人員・設備・運営の基準は、都道府県や市町村の条例で定められます(介護保険法第88条ほか)。条例で5年としている自治体が多くあります。事業所の規程を見てください。
看護師は、どこで記録を習ってきたのか
病院のほうには、条文があります。医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第20条第10号です。
診療に関する諸記録は、過去二年間の病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、入院患者及び外来患者の数を明らかにする帳簿並びに入院診療計画書とする。
「看護記録」が、病院の法定の備え付け記録として名指しで並んでいます。地域医療支援病院(第21条の5第2号)でも、特定機能病院(第22条の3第2号)でも同じです。
病院では法定文書。介護施設では条文に無い。同じ人が、同じ習慣で書いています。
看護師が「記録が薄い」と言うとき、比べている基準が病院のものであることがあります。それは間違いではなく、そこで免許を守る訓練を受けてきたということです。
指針が置いている第一の目的は「看護実践を証明する」
日本看護協会「看護記録に関する指針」(平成30年5月)の 2-2「看護記録の目的」は、こう始まります。
看護記録の目的は、「看護実践を証明する」こと、「看護実践の継続性と一貫性を担保する」こと、「看護実践の評価及び質の向上を図る」ことである。
1)看護実践を証明する
看護実践の一連の過程を記録することにより、専門的な判断をもとに行われた看護実践を明示する。
⚠ 1番目が「証明する」です。「引き継ぐ」でも「振り返る」でもありません。記録を、自分がやったことの証明として書く——この順番が、看護師の記録観の土台にあります。
決定的な一文
同じ指針の 5-1-1「法的証拠としての看護記録」に、こう書かれています。
看護記録は診療録と同様に法的証拠となり得る。看護記録に記載がない看護実践については、実際にはそのような看護実践が行われていたとしても、裁判所において、そのような看護実践の事実があったと認定されないことがある。また、看護実践を行った時間や処置の記載内容と、他職種の記載内容との整合性が問題となることがあるため、正確な記載が求められる。
この一文を、看護師は学生のうちから何度も読んでいます。だから「言いましたよね」ではなく「書いてありますか」になります。言った・言わないは、あとから守ってくれないからです。
これは、介護職員にとっても同じです。あなたが気づいて、伝えて、確かめたことも、書いていなければ「気づかなかった」と読まれます。記録は看護師のためのものではなく、その場にいたあなた自身を守るものです。 Điều bạn đã nhận thấy, đã báo cáo, đã xác nhận — nếu KHÔNG ghi lại thì sau này sẽ bị đọc thành "đã không nhận ra". Ghi chép là để bảo vệ chính bạn.
だから「時間」と「事実」を求めてきます
同じ指針の 3-1「看護記録記載の基本」2)適時に記録するには、こうあります。
看護実践の一連の過程を時間の経過とともに記載する。……さらに、時間は正確に記載する。
特に、予期せぬ事態や医療事故と思われる事態が発生した場合には、記録が重要になる。この場合、経時的に記載するが、行われた処置と時間だけでなく、発見・発生の状況、観察したこと、対処後の結果・反応等も正確な時間とともに記載する。
そして 3-2-1「正確性の確保」には、直しかたまで書いてあります。
- 事実を正確に記載する
- 記載した日時と記載した個人の名前を残す
- 訂正する場合、訂正した者・内容・日時がわかるように行う。訂正する前の記載は読み取れる形で残しておく
- 追記をする場合は、いつの、どの箇所への追記であるかがわかるようにする
同じ項に、こうも書かれています。「記録の改ざんとは、記録の全部又は一部を意図的に、事実と異なる内容に書き換えることをいう。……看護記録の改ざんを行った場合、法的には刑事責任が問われ、処罰の対象となる可能性がある」
⚠ だから看護師は、消して書き直すことを強く嫌います。二重線で消して、日付と名前を入れるよう言われるのは、これが理由です。
介護職員が代わりに書くとき
◎ ここは、知っておくと立場が守れます。同じ指針の 3-2-3「看護記録記載の代行」です。
看護補助者や事務職員が看護記録の記載の一部を代行する場合も、記録の主体は看護職にある。代行にあたっては、代行する者に対する教育を行うことを前提とし、また、看護職はその内容を確認する必要がある。さらに、確認した看護職は、記載内容を承認したことを示すために署名する。
代わりに書いても、責任はそちらに残ります。そして、教育と確認と署名は看護職の側の仕事だと書かれています。
「書いておいて」と言われたときに使えます。「書きます。確認と署名をお願いします」——これは押し返しではなく、指針どおりの手続きです。
だから、こう言えば通ります
| 場面 | 言い方の型(いずれも一例です) |
|---|---|
| 記録が薄いと言われた | 「どこが足りませんか。時間ですか、観察した中身ですか、対処後の反応ですか。」 =指針が挙げている3つです。この3つで聞くと、抽象論になりません |
| 口頭で伝えたのに、また聞かれた | 「〇時〇分に、〇〇とお伝えしました。記録にも入れておきます。」 =「言いました」ではなく、時刻をつけて言い直す。相手が探せる形にする |
| 代わりに書いてと言われた | 「書きます。確認と署名をお願いします。」 =指針3-2-3 のとおりの手続きです |
| 書き間違えた | 「二重線で消して、訂正した日時と名前を入れます。元の記載は読める形で残します」 =指針3-2-1 のとおり。消しゴムや修正液を使わない理由がここです |
ここから先は、本当に無理です
| 線 | 中身 |
|---|---|
| 法令上の線 (言い方では動きません) | 記録の改ざん(あとから事実と違う内容に書き換えること)。⚠ 「まだ書いていなかったぶんをあとから書く」のは改ざんではありません。指針も「後から記載する場合も、できるだけ速やかに記載する」と認めています。違うのは、事実と違う内容に書き換えることです また、記録の整備と保存(完結の日から二年間、条例でより長い場合あり)は施設の義務です |
| 事業所で変わる線 (話し合いで動きます) | 記録の様式/どこまで介護職員が書くか/看護職員の確認と署名の運用/申し送りと記録の役割分担/記録の時間をいつ取るか ⚠ 「看護記録」という名前の様式を使うかどうかも、事業所が決めることです。法令に定めはありません |
記録にどう残すか
指針が挙げている4点——発見・発生の状況/観察したこと/行われた処置と時間/対処後の結果・反応——をそのまま並べると、こうなります。
予期せぬことが起きたとき
14:20 【発見】居室で床に座り込んでいるところを発見。訪室の直前、10分前の巡回時は臥床していた。
【観察】右ひじに擦過傷。頭部に外傷なし。ご本人は「立とうとしたら座った」と話される。痛みの訴えなし。
【処置】14:25 看護職員〇〇へ報告。指示により臥床のうえ経過観察。
【結果・反応】15:00 体温36.7度、いつもどおりの受け答え。右ひじの発赤に変化なし。
⚠ 「特変なし」とだけ書かない。読んだ人が何も判断できません。何を見て、そう書いたのかを1つでも足してください。→ 事故報告書に「特変なし」と書いてはいけない
まとめ
- ⚠ 介護施設の基準省令に「看護記録」という語は 0 件。特養も老健も、条文に無い
- 法令が求めているのは「提供した具体的なサービスの内容等」の記録(省令39 第8条2項)と、7種類の整備・二年間保存(第37条2項)
- 誰が書くかは、法令が決めていません。介護職員が書いた記録も、法令が求める記録そのものです
- 病院では医療法施行規則第20条第10号で「看護記録」が法定の備え付け記録。看護師は、そこで訓練を受けてきています
- 日看協の指針が置く第一の目的は「看護実践を証明する」(2-2)
- ⚠ 決定的な一文=「記載がない看護実践は、実際に行われていても、裁判所で事実と認定されないことがある」(5-1-1)
- だから求められるのは正確な時間と、発見の状況・観察・処置・結果と反応の4点(3-1 2))
- 訂正は二重線・日時・名前・元の記載は読める形で(3-2-1)。改ざんは刑事責任もあり得る
- ◎ 代行して書いても記録の主体は看護職。確認と署名は看護職の仕事(3-2-3)
- 記録は看護師のためではなく、その場にいたあなたを守るもの
やさしい 日本語(にほんご)
1 なにが おきますか
看護師(かんごし)が 言(い)います。
「ノートに 書(か)いて ください」
「これ、書いて ありますか」
あなたは 話(はな)したのに、また 聞(き)かれます。
2 なぜ そう 言(い)いますか
看護師の 本(ほん)に、こう 書いて あります。
「ノートに ない ことは、やって いない ことに なります」
ほんとうに やって いても、です。
だから 看護師は 「言(い)った」より「書いた」を 見(み)ます。
あなたを 信(しん)じて いないのでは ありません。
3 あなたは どう 言(い)いますか
- 「〇時〇分に、〇〇と 言いました。ノートにも 書きます」
——「言いました」だけでは よわいです。時間(じかん)を つけます。 - 「どこが たりませんか。時間ですか。見た ことですか。そのあと どうなったか、ですか」
- 「書きます。確認(かくにん)と サインを おねがいします」
——あなたが 書いても、責任(せきにん)は 看護師です。
4 これは できません
◇ ノートを 書(か)きかえること。
まちがえたら、2本(ほん)の 線(せん)で 消(け)します。
そして 日(ひ)にちと 名前(なまえ)を 書きます。
前(まえ)に 書いた 字(じ)が 読(よ)める ように します。
消しゴムや 修正(しゅうせい)テープは つかいません。
◎ あとで 書くのは、だいじょうぶです。
いそがしくて あとに なっても、できるだけ 早(はや)く 書いて ください。
だめなのは 「うそを 書く」ことだけです。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、看護師の 本に ついて 書いて います。あなたの 施設(しせつ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
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- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第8条第2項/第37条第2項
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第9条第2項/第38条第2項
- 医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第20条第10号/第21条の5第2号/第22条の3第2号
- 公益社団法人日本看護協会「看護記録に関する指針」平成30年5月(2-2/2-3/3-1/3-2-1/3-2-3/5-1-1)
- 同「看護業務基準(2021年改訂版)」1-3-5
- 当研究所『介護事故防止 実務マニュアル』第9章「報告」
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。