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看護師の側から

なぜ看護師は「医師の指示がないとできない」と言うのか

まず、これだけ

報告したのに、「先生に聞かないと」と返ってくる。急いでいるときほど、遠く感じます。

看護師が守っているのは、施設のルールではありません。破ったときに罰を受けるのが、施設ではなくその看護師本人だと決められています。だから「今回だけ」が効きません。

指示がなくても動ける例外は、その場の応急手当ひとつだけです。だから看護師は、まず手を当てて、すぐ医師に連絡します。順番を変えているのではなく、その順番しか残されていません。

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最終更新:2026年9月 / 高齢者支援実務研究所

もくじ

  1. 看護師が背負っているのは、たった1本の決まりです
  2. 罰を受けるのは、施設ではなく、その看護師です
  3. 「臨時応急の手当」——指示なしで動ける、ただ1つの例外
  4. 「療養上の世話」なら、なぜ話が早いのか
  5. 介護職が「同じことをしている」ように見える場面
  6. だから、こう言えば通ります
  7. ここから先は、本当に無理です
  8. 記録にどう残すか
  9. まとめ

看護師が背負っているのは、たった1本の決まりです

保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)の第37条です。原文はこうなっています。

第三十七条 保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、浣かん腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない。

読みにくい条文なので、3つに分けます。

条文の部分中身
原則医師の指示がなければ、してはならない
対象診療機械を使う/医薬品を与える/医薬品について指示をする/その他、医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為
例外臨時応急の手当(助産師にだけ、もう1つ別の例外があります)

ここで大事なのは、対象の最後にある「その他、医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為」という書き方です。行為の名前が列挙されているわけではありません。その場のその方にとって危害のおそれがあるかどうかで決まります。

だから看護師は、行為の名前ではなく「その方の状態」を聞いてきます。
「熱は」「いつから」「食べているか」「顔色は」——あれは詮索ではありません。その行為が第37条の対象になるかどうかを、看護師が自分で判定しているところです。判定に必要な材料が足りないと、看護師は動けません。

罰を受けるのは、施設ではなく、その看護師です

第37条に違反したときの罰則は、同じ法律の第44条の3第2号にあります。

六月以下の拘禁刑若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

(第35条から第37条まで及び第38条の規定に違反した者)

免許を持っている人にかかる罰則です。施設が罰せられるのではありません。そして罰金だけではなく、免許そのものにも影響しうる話になります。

さらに、公益社団法人日本看護協会の「看護職の倫理綱領」(2021年3月)本文7には、こう書かれています。

看護職の業務は保健師助産師看護師法に規定されている。看護職は関連する法令を遵守し、自己の責任と能力の範囲内で看護を実践する。

つまり看護師にとって「第37条を守る」ことは、法律上の義務であると同時に、職業倫理の柱でもあるという二重構造になっています。ここを緩める言い方は、看護師の側からは出てきません。

「融通がきかない」のではなく、融通をきかせられる立場に置かれていません。

これは、こちらが不利益をかぶってよいという意味ではありません。相手が動ける形に、こちらが言い換えられるという意味です(→§6)。

「臨時応急の手当」——指示なしで動ける、ただ1つの例外

第37条のただし書に書かれている例外は、看護師については「臨時応急の手当」の1つだけです(もう1つはへその緒を切るなど、助産師に固有のものです)。

だから急変の場面で、看護師の動き方はこうなります。

順番していること
1その場でできる手当てをする(ここがただし書の範囲)
2すぐに医師へ連絡する(ただし書は「臨時応急」までなので、そこから先には指示が要る)
3指示を受けて続きを行う/救急要請する/協力医療機関につなぐ

「とりあえず様子を見て」と言われるのは、多くの場合、2で止まっているからです。
看護師が独断で先に進めないので、医師につながるまでのあいだ、ただし書の範囲でできることだけをしている状態です。このとき看護師がいちばん欲しいのは、時刻の入った、いつもとの違いです。 Y tá không thể tự quyết định. Điều họ cần nhất lúc đó là "khác với thường ngày như thế nào, vào lúc mấy giờ".

手順書という、もう1つの形

第37条の2に「特定行為研修」という仕組みがあります。医師があらかじめ作った手順書に基づいて、研修を修了した看護師が判断して実施できるものです。

研修を修了した看護師がいる事業所と、いない事業所では、夜間に医師へ連絡する回数そのものが構造的に変わります。「前の職場ではもっと早く動いてくれた」と感じることがあるなら、この差かもしれません。目の前の看護師の姿勢の差ではありません。

「療養上の世話」なら、なぜ話が早いのか

同じ法律の第5条に、看護師の仕事は2つと書かれています。

第五条 この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。

この2つを定義した条文は、法律のどこにもありません。区別は解釈にゆだねられています。ただし、条文の並びから確実に言えることがあります。

2つの柱条文の並びから言えること
療養上の世話第37条(医師の指示)は直接はかかりません。介護の一部として、介護職の仕事と重なります
診療の補助第37条が実質的にかかります。そして介護職は原則できません——個別の法律か通知がなければ違法です

ある行為が「診療の補助」に分類された瞬間に、鍵が2つかかります。

①介護職はできない(第31条第1項) ②看護師も医師の指示が要る(第37条)。この2つが同時にかかるので、話が急に止まったように見えます。

介護職が「同じことをしている」ように見える場面

介護職が「同じことをしているのに、看護師しかできないと言われる」と感じる場面は、ほぼすべてこの分類の境界線の上にあります。

境界線の位置は、行為の名前ではなくその方の状態で動きます。厚生労働省の平成17年7月26日の通知(医政発第0726005号)には、注として、はっきりこう書かれています。

病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には、医行為であるとされる場合もあり得る

つまり、昨日できたことが、今日はできないことがあります。そしてその判定を、看護師は自分の免許で引き受けています。

同じ通知には、もう1つ、必ず覚えておきたい注があります。
「今回の整理はあくまでも……解釈に関するものであり、事故が起きた場合の刑法、民法等の法律の規定による刑事上・民事上の責任は別途判断されるべきものである」
——「医行為ではない」と整理されたことは、「何かあっても責任を問われない」という意味ではありません。この注は、平成17年・令和4年・令和7年の3本の通知すべてに入っています。

だから、こう言えば通ります

相手が動けない理由が分かると、言い方が変えられます。ポイントは1つだけです。相手が判定できる材料を、先に渡すことです。

通りにくい

「〇〇さん、熱っぽいので何とかしてもらえませんか」

通りやすい

「14時に37.8度。朝は36.5度でした。昼食は半分残されています。先生に報告が要る数字でしょうか。

言い換えの型を3つ、置いておきます。いずれも一例です。事業所の言い方に合わせて変えてください。

場面言い方の型
やってほしいことがある〇〇が〇〇なので、先生に指示をもらえるか確認していただけますか」
=「やってください」ではなく「指示を取ってください」に変える。相手が動ける形になります
できるかどうか知りたい「これは診療の補助にあたりますか。あたるとしたら、指示はどういう形で出ますか」
=分類そのものを聞く。看護師がいちばん答えやすい質問です
いま動けないと言われた「では、指示を待つあいだ、私は何をして待てばいいですか。何が起きたら、すぐ呼べばいいですか」
=ただし書の範囲を、相手に決めてもらう形。相手の責任のまま、こちらが動けるようになります

3つめが、いちばん効きます。「何が起きたら呼ぶか」を決めてもらうと、こちらは判断せずに動けます。そして、その受け答えを記録に残せます(→§8)。次に同じ場面になったとき、その記録が根拠になります。

ここから先は、本当に無理です

線は2本あります。混ぜないでください。

中身
法令上の線
(言い方では動きません)
医師の指示のない「診療の補助」。看護師には「臨時応急の手当」というただし書がありますが、介護職にはそのただし書がありません。急いでいても、頼まれても、ここは動きません
事業所で変わる線
(話し合いで動きます)
指示の出し方(その都度の指示か、手順書か、指示書の様式か)/夜間の連絡経路/看護職員がいる時間帯/協力医療機関との取り決め/「何が起きたら呼ぶか」の基準
ここは、相談する先が看護師ではなく管理者や事業所であることが多いです

1本目の線を、良かれと思って越えないでください。ご本人やご家族に頼まれても同じです。越えたときに責任を負うのは、頼んだ人ではなく、やったあなたです。断ることも、りっぱな判断です。そして、断ったことを記録に残してください。 Dù người nhà có nhờ, cũng không được vượt qua ranh giới pháp luật. Người chịu trách nhiệm là bạn, chứ không phải người đã nhờ. Từ chối cũng là một quyết định đúng — và hãy ghi lại việc đã từ chối.

記録にどう残すか

この区分の出口は、いつも同じです。確かめたこと・伝えたこと・言われたことを残す。そのまま写せる形にしておきます。

報告して、指示待ちになったとき
14:10 体温37.8度(朝36.5度)。昼食を半分残される。看護職員〇〇に報告。「先生に連絡する。それまで臥床で様子を見て、38.5度を超えたら呼ぶように」との指示を受ける。
15:00 体温37.6度。呼吸苦の訴えなし。

頼まれたが、断ったとき
10:20 ご家族より、爪を切ってほしいとの依頼。親指の爪が厚く白く濁っており、周囲に赤みがあったため、切らずに看護職員〇〇へ報告。ご家族には「看護職員に見てもらってから」とお伝えした。

「やらなかったこと」も記録です。やったことしか書かない記録では、あとから読んだ人に「気づかなかった」と読まれます。気づいて、確かめて、やらなかった。——これを書けるのは、その場にいたあなただけです。

まとめ

やさしい 日本語(にほんご)

1 なにが おきますか

あなたが 看護師(かんごし)に 話(はな)します。
看護師は「医師(いし)の 指示(しじ)が ないので できません」と 言(い)います。

2 なぜ そう 言(い)いますか

看護師の 法律(ほうりつ)が あります。
「医師の 指示が ないと しては いけない」と 書(か)いて あります。
守(まも)らないと、その 看護師が 罰(ばつ)を 受(う)けます。
施設(しせつ)では ありません。その 人(ひと)です。

いじわるでは ありません。法律です。

3 あなたは どう 言(い)いますか

4 これは できません

医師の 指示が ない 医療(いりょう)の 仕事(しごと)は、あなたは できません。
家族(かぞく)に 頼(たの)まれても、できません。
あなたが 責任(せきにん)を 取(と)ることに なります。
「できません」と 言うのも、正(ただ)しい 仕事です。そして ノートに 書(か)いて ください。

※ この ページは 日本(にほん)の 法律に ついて 書いて います。あなたの 施設の きまりも、かならず 見(み)て ください。

「いつもと違う」を、その場で確かめる順番があります

報告のまえに、何を見て、何を数えるか。いずれも一例です。項目は事業所に合わせて書き換えてお使いください。

困りごとから調べる → 様式をダウンロード

根拠にした資料

個人の経験ではなく、公開されている資料をもとに整理しています。
  • 保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第5条・第31条第1項・第37条・第37条の2・第44条の3
  • 厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」平成17年7月26日 医政発第0726005号(注1・注2・注4)
  • 同(その2)令和4年12月1日 医政発1201第4号/同(その3)令和7年12月26日 医政発1226第12号
  • 公益社団法人日本看護協会「看護職の倫理綱領」2021年3月(本文6・本文7)
  • 当研究所『介護事故防止 実務マニュアル』第9章「報告」 ——第一報の伝え方について
この記事について 一般的な情報提供を目的としています。法令や通知の解釈を最終的に行うのは、所管の行政庁と裁判所です。医療・介護の判断を代替するものではありません。 事業所によって、利用者さんによって、正しいやり方は変わります。ここに書いたことが、そのまま当てはまるとは限りません。 ここで書いているのは、看護師に課されている法令上の枠組みです。特定の誰かの考えや意図を書いたものではありません。 実際の対応は、所属事業所の規程および、医師・看護師の指示に従ってください。制度・通知・法令は改正されることがあります。
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。