なぜ夜勤帯に看護師がいないのか
夜に何かあっても、看護師がいない。電話はつながるけれど、来てはくれない。
人数の決まりが、「1日あたり何人ぶん」で書かれていて、「何時にいる」を決めていないからです。しかも夜勤の人数の決まりは「介護職員 または 看護職員」——どちらでもよい、と書かれています。
100人の特養で必要な看護職員は、ならして3人ぶん。24時間を埋めることは、決まりの中ではできません。意地悪でも人手不足でもなく、書かれ方がそうなっています。
もくじ
人数の数え方が「1日あたり何人ぶん」です
特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)の人員基準は、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第2条第1項第3号ロにあります。
看護職員の数は、次のとおりとすること。
- 入所者の数が30を超えない … 常勤換算方法で、1以上
- 30を超えて50を超えない … 常勤換算方法で、2以上
- 50を超えて130を超えない … 常勤換算方法で、3以上
- 130を超える … 常勤換算方法で、3に、130を超えて50またはその端数を増すごとに1を加えて得た数以上
そして同条第6項に、「看護職員のうち、一人以上は、常勤の者でなければならない」とあります。
常勤換算とは何か。同じ条文の中に定義があります。ざっくり言えば、職員全員の勤務時間の合計を、常勤職員1人ぶんの勤務時間で割った数です。
常勤換算は「1日の総量」の話です。「何時にいるか」は一言も書かれていません。
条文が量だけを決めているので、その量をどの時間帯に置くかは、事業者が決めます。そして多くの施設は日勤帯に置きます。受診の付き添い、処置、家族対応、医師との連絡——それらが日中に集中するからです。
100人の特養で必要な看護職員は、常勤換算3人です
数字にしてみます。定員100人の特別養護老人ホームの場合です。
| 数 | |
|---|---|
| 介護職員+看護職員の合計 | 常勤換算で 34人以上(入所者3人につき1人) |
| うち看護職員 | 常勤換算3人以上(50超130以下の区分) |
| うち常勤でなければならない看護職員 | 1人以上 |
常勤換算3人は、週にしておよそ120時間ぶんです。1週間は168時間あります。24時間365日を看護職員で埋めることは、この基準の中では物理的にできません。
ここを「人手不足だから」で説明すると、話がずれます。基準を満たしていない施設の話ではありません。基準どおりに配置しても、夜勤帯は空きます。これは個々の施設の努力の問題ではなく、条文の書き方の問題です。
夜勤の基準の条文は「介護職員 又は 看護職員」
夜勤については、別に告示があります。「厚生労働大臣が定める夜勤を行う職員の勤務条件に関する基準」(平成12年2月10日 厚生省告示第29号)です。特別養護老人ホームに適用される部分は、次のように書かれています。
夜勤を行う介護職員又は看護職員の数が次のとおりであること。
- 利用者と入所者の合計数が25以下 … 1以上
- 26以上60以下 … 2以上
- 61以上80以下 … 3以上
- 81以上100以下 … 4以上
- 101以上 … 4に、100を超えて25またはその端数を増すごとに1を加えて得た数以上
- (見守り機器等の要件を満たす場合は、上記で算出される数に10分の8を乗じて得た数以上)
条文のどこにも「夜間に看護職員を置け」とは書かれていません。
「介護職員又は看護職員」——この「又は」の1文字が、夜勤帯のかたちを決めています。
施設の種類で、ここまで違います
「前の職場では夜も看護師がいた」——それは、施設の種類が違ったからかもしれません。
| 施設の種類 | 看護職員の配置と、夜間の扱い |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム (指定介護老人福祉施設) | 常勤換算で、30人以下1/〜50は2/〜130は3。うち1人は常勤。 夜間=法令上は不要(告示は「介護職員又は看護職員」) |
| 介護老人保健施設 | 看護・介護職員の総数の7分の2程度が標準(100人なら約10人)。さらに医師が常勤換算1人以上。 夜間=法令上は不要(ただし報酬の区分によっては、夜勤の看護職員数が要件になるものがあります) |
| 特定施設入居者生活介護 (介護付有料老人ホーム等) | 常勤換算で、30人以下1/30超は50ごとに+1。 夜間=不要。条文が「常に」を求めているのは介護職員だけです |
| 認知症対応型共同生活介護 (グループホーム) | ⚠ 条文に「看護職員」の語が一度も出てきません。 夜間も、介護従業者1以上のみ |
| 有料老人ホーム (特定施設の指定を受けていないもの) | 必置職員のリストに看護職員は入っていません(国の標準指導指針)。 夜間についての規定もありません |
老健で看護職員が手厚いのには、条文上の理由があります。介護老人保健施設は、医療法が定める「医療提供施設」のひとつです。だから運営基準にも、特養にはない医療系の条文が置かれています。たとえば「看護及び医学的管理の下における介護」という条文がそれです。
同じ介護福祉士が特養から老健に移ると、看護職員の関与の濃さが変わって感じられます。それは職員の姿勢の差ではなく、この構造の差です。
では、夜間の判断はどこにつながる設計なのか
「夜は看護職員がいなくてよい」で終わっている条文ではありません。空いた分を、どこにつなぐかが別に書かれています。
| 条文 | 中身 |
|---|---|
| 第20条の2 緊急時等の対応 | 入所者の病状の急変が生じた場合等のため、あらかじめ、医師および協力医療機関の協力を得て、連携方法その他の緊急時等における対応方法を定めておかなければならない。1年に1回以上、見直す |
| 第28条 協力医療機関等 | ①急変時に医師又は看護職員が相談対応を行う体制を、常時確保していること ②診療を行う体制を、常時確保していること ③入院を要すると認められた入所者の入院を原則として受け入れる体制 第2項:一年に一回以上、対応を確認し、名称等を都道府県知事に届け出る |
⚠ 第28条第1項には経過措置があります。令和6年1月25日厚生労働省令第16号の附則第6条により、令和9年3月31日までの間は「定めておかなければならない」を「定めておくよう努めなければならない」と読み替えるとされています。
つまり3要件を満たす協力医療機関を定める義務が本格適用されるのは、令和9年4月1日からです。いまは努力義務の期間なので、「もう義務です」と言うと不正確になります。(介護老人保健施設の第30条第1項も同じです)
◎ 一方、第20条の2の「あらかじめ定めておかなければならない」には経過措置がありません。こちらは、いま義務です。2つを混ぜないでください。
夜間の相談先は、制度の設計上「施設の中の看護師」ではありません。
あらかじめ定めて届け出た、協力医療機関の常時相談体制です。看護職員が電話口で「救急要請してください」「協力医療機関に連絡してください」と言うのは、施設が行政に届け出た手順を、そのとおりに実行しているところです。
⚠ ここは正確に書いておきます。「オンコール体制を敷きなさい」と義務づけた条文は、今回確認した範囲では、省令にも告示にも見当たりませんでした。あるのは上の第20条の2と第28条だけです。
つまりオンコールは、条文の空白を事業者が自主的に埋めている運用です。だから施設ごとに中身が違いますし、「どこまで呼んでいいか」が曖昧になりやすい部分でもあります。曖昧なままにせず、事業所の取り決めを文書で確かめてください。
「健康の状況に注意する」義務は、誰にかかっているか
同じ省令の第18条に、こう書かれています。
第十八条(健康管理) 指定介護老人福祉施設の医師又は看護職員は、常に入所者の健康の状況に注意し、必要に応じて健康保持のための適切な措置を採らなければならない。
名宛人は「医師又は看護職員」です。介護職員ではありません。
介護職員が「気づいたら看護師に言って」と言われるのは、健康状態への注意義務の名宛人が、法令上そちらだからです。だから看護職員は、自分が現場にいない時間帯のことを、報告で埋めるしかありません。
ここは、見方を変えると強い話です。介護職員には「健康状態を判断する義務」はありません。あるのは気づいたことを伝えることです。判断まで背負わなくていいということでもあります。伝えたところで、あなたの役目は果たされています。あとは、伝えた記録を残すことです。 Nhân viên chăm sóc KHÔNG có nghĩa vụ phán đoán tình trạng sức khỏe. Nghĩa vụ của bạn là BÁO CÁO những gì mình nhận thấy. Báo xong là bạn đã làm đúng phần việc của mình — và hãy ghi lại.
だから、こう言えば通ります
夜勤帯にいない相手を責めても、条文は動きません。動かせるのは「呼ぶ基準」と「呼び方」です。
| 場面 | 言い方の型(いずれも一例です) |
|---|---|
| 夜勤に入る前に | 「今夜、〇〇さんで何が起きたら呼びますか。逆に、何なら朝まで待っていいですか」 =呼ぶ基準を、日勤帯のうちに決めてもらう。いちばん効きます |
| 夜間に迷ったとき | 「〇時〇分、〇〇です。いつもとの違いは〇〇です。呼ぶ基準に入っていますか」 =判断ではなく、あらかじめ決めた基準に照らして聞く形にする |
| 呼ぶかどうか自体を迷うとき | 「迷ったので連絡しました。様子だけお伝えします」 =「迷った」を先に言う。相手は判定する側なので、材料が来たことを歓迎します |
| 取り決めが曖昧なとき | (相手は看護師ではなく管理者です)「夜間の連絡経路と、呼ぶ基準を文書でいただけますか。第20条の2で、あらかじめ定めることになっていると聞きました」 |
ここから先は、本当に無理です
| 線 | 中身 |
|---|---|
| 法令上の線 (言い方では動きません) | 夜間に看護職員を置くこと自体は、義務ではありません。「夜も看護師を置いてください」という要望は、法令を根拠には立ちません。事業所の判断(=人件費と体制の判断)になります |
| 事業所で変わる線 (話し合いで動きます) | 夜間の連絡経路/オンコールの範囲と手当/呼ぶ基準/協力医療機関との取り決め/夜勤帯の記録の様式/見守り機器の導入 第20条の2は「あらかじめ定めておかなければならない」と書いています。定まっていないなら、それは事業所側の宿題です |
記録にどう残すか
基準を決めてもらったとき
(申し送りノート)17:30 〇〇さんについて、看護職員〇〇より「38.0度以上、または嘔吐があれば夜間でも連絡。それ以下は記録のみで朝の申し送りへ」との指示を受ける。
夜間に連絡したとき
2:40 体温37.9度。いつもより発語が少なく、声かけへの反応が鈍い。基準には入らないが、いつもと違うため看護職員〇〇へ電話連絡。「1時間後に再検し、38.0度を超えるか反応が落ちるようなら救急要請」との指示。
3:45 体温37.6度。声かけに開眼あり。経過観察を継続。
「基準には入らないが、いつもと違うので連絡した」という一行を残してください。これは、あなたが基準を超えて考えた証拠になります。そしてあとで基準を見直すときの材料にもなります。「呼びすぎ」と言われることを恐れて書かないほうが、失うものが大きいです。
まとめ
- 特養の看護職員の配置はすべて「常勤換算」。条文は量を決めているだけで、時間帯を決めていない
- 定員100人で必要な看護職員は常勤換算3人=週およそ120時間ぶん。1週168時間を埋めることはできない
- 夜勤の基準の条文は「介護職員 又は 看護職員」。介護職員だけで満たす
- だから夜間に看護職員がいないことは、違反でも例外運用でもない
- 施設の種類で大きく違う。グループホームは条文に「看護職員」の語が一度も出てこない
- 夜間の判断は、制度上あらかじめ定めた協力医療機関の常時相談体制につながる設計(第20条の2・第28条)
- ⚠ オンコールを義務づける条文は、確認した範囲では見当たらない。事業者が自主的に埋めている運用
- ⚠ 第28条(協力医療機関の3要件)は令和9年3月31日まで努力義務。ただし第20条の2(あらかじめ定めておく)は経過措置なしで義務
- 健康状態への注意義務の名宛人は「医師又は看護職員」。介護職員の役目は、気づいたことを伝えること
- 動かせるのは「呼ぶ基準」と「呼び方」。日勤帯のうちに決めてもらう
やさしい 日本語(にほんご)
1 なにが おきますか
夜(よる)に なりました。
看護師(かんごし)は いません。
でも 利用者(りようしゃ)さんの ようすが 変(か)わりました。
2 なぜ 看護師は いませんか
法律(ほうりつ)の 紙(かみ)に こう 書(か)いて あります。
「夜(よる)は、介護(かいご)の 人 または 看護(かんご)の 人」
「または」です。介護の 人 だけでも いいと いう 意味(いみ)です。
だから 夜に 看護師が いないのは、悪(わる)い ことでは ありません。
施設(しせつ)が さぼって いるのでも ありません。
3 あなたは どう 言(い)いますか
- 夜に なる 前(まえ)に 聞(き)いて ください。
「今夜(こんや)、なにが あったら 電話(でんわ)を しますか」 - 電話する とき。「〇時〇分です。いつもと ちがう ところは 〇〇です」
- まよった とき。「まよったので 電話しました」
4 これは できません
あなたは 病気(びょうき)の 判断(はんだん)を しません。
それは 医師(いし)と 看護師の 仕事(しごと)です。
あなたの 仕事は 「見(み)た こと を 伝(つた)える」ことです。
伝えたら、あなたの 仕事は おわりです。そして ノートに 書いて ください。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律に ついて 書いて います。あなたの 施設の きまりも、かならず 見(み)て ください。
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「何があったら呼ぶか」を、その方ごとに書き出す形にしています。いずれも一例です。項目は事業所に合わせて書き換えてお使いください。
困りごとから調べる → 様式をダウンロード根拠にした資料
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第2条第1項第3号ロ・第6項/第18条/第20条の2/第28条
- 厚生労働大臣が定める夜勤を行う職員の勤務条件に関する基準(平成12年2月10日 厚生省告示第29号)
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第2条第1項/第18条
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第175条(特定施設入居者生活介護)
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第90条(認知症対応型共同生活介護)
- 医療法(昭和23年法律第205号)第1条の2第2項(医療提供施設)
- 厚生労働省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について」平成14年7月18日 老発第0718003号(最終改正 令和6年12月6日 老発1206第2号)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(令和6年1月25日厚生労働省令第16号)附則第6条 ——協力医療機関に関する経過措置
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。