なぜ「気づいたら言って」と言うのに、指摘が返ってくるのか
「気づいたら言って」と言われたから言ったのに、こちらが注意される。だんだん言わなくなります。
報告を受けた側は、その場の対応と、任せてよい相手かの見きわめを、同時にしています。そう求められている立場だからです。だから、確認の質問が返ってきます。
◎ 対処は、言い方ではなく順番です。①起きた事実 ②自分がやったこと ③「ここから先はどうしますか」。この3つに分けて出すと、確認の質問が減ります。
もくじ
「気づいたら言う」は、看護師の側の決まりでもあります
6 看護職は、対象となる人々に不利益や危害が生じているときは、人々を保護し安全を確保する。
看護職は、常に、人々の健康と幸福の実現のために行動する。看護職は、人々の生命や人権を脅かす行動や不適切な行為を発見する立場にある。看護職がこれらの行為に気づいたときは、その事実に目を背けることなく、人々を保護し安全を確保するよう行動する。その際には、多職種で情報を共有し熟慮したうえで対応する。
また、保健・医療・福祉の提供においては、関係者による不適切な判断や行為がなされる可能性や、看護職の行為が対象となる人々を傷つける可能性があることを含めて、いかなる害の可能性にも注意を払い、人々の生命と人権をまもるために働きかける。非倫理的な実践や状況に気づいた場合には疑義を唱え、適切な保健・医療・福祉が提供されるよう働きかける。
⚠ 「発見する立場にある」と書かれています。気づくかどうかは選べる、という書き方ではありません。気づく役目の側に置かれていると定義されています。
倫理綱領 本文7 —「自己及び相手の能力を正しく判断する」
7 看護職は、自己の責任と能力を的確に把握し、実施した看護について個人としての責任をもつ。
看護職は、自己の責任と能力を常に的確に把握し、それらに応じた看護実践を行う。看護職は自己の実施する看護について、説明を行う責任と判断及び実施した行為とその結果についての責任を負う。
看護職の業務は保健師助産師看護師法に規定されている。看護職は関連する法令を遵守し、自己の責任と能力の範囲内で看護を実践する。また、自己の能力を超えた看護が求められる場合には、支援や指導を自ら得たり、業務の変更を求めたりして、安全で質の高い看護を提供するよう努める。さらに、他の看護職などに業務を委譲する場合は自己及び相手の能力を正しく判断し、対象となる人々の不利益とならないよう留意する。
⚠ 最後の一文が、この記事の核です。「他の看護職などに業務を委譲する場合は自己及び相手の能力を正しく判断し」。任せる前に、相手の能力を判定することが求められています。
2つが同時にかかると、どうなるか
あなたが何かを報告した瞬間、相手の側では2つの回路が同時に動きます。
| 相手の側で動くもの | 根拠と、あなたに見えるもの |
|---|---|
| ① 事実への対応 | 根拠=本文6 あなたに見えるもの=「分かりました、見に行きます」 |
| ② 任せてよい相手かの判定 | 根拠=本文7 あなたに見えるもの=「それ、どうして先に呼ばなかったの」「そのとき、何を見た?」 |
②は、あなたを責めるための質問ではなく、次に何をどこまで任せられるかを決めるための質問です。
⚠ ただし、受け取る側からは同じに聞こえます。言い方が同じだからです。そして、この構造は言い方を直せば消えるものではありません。相手には②が義務として乗っています。
◎ だから、対処の方向は「言い方を工夫する」ではありません。②の判定を、こちらから先に済ませてしまうことです。「何を見て、どこまでやって、どこで止めたか」を先に出すと、相手は判定を聞き出す必要がなくなります。→§6
「疑義を唱える」の向き先は、あなただけではありません
本文6をもう一度読むと、対象がはっきり書き分けられています。
- 関係者による不適切な判断や行為がなされる可能性
- 看護職の行為が対象となる人々を傷つける可能性
⚠ 2つめに注目してください。「看護職の行為が」と書かれています。つまり、この綱領は看護職自身にも同じ疑いを向けるように求めています。介護職員だけが点検される側だ、という構造にはなっていません。
◎ そして本文6には、こうも書かれています。「その際には、多職種で情報を共有し熟慮したうえで対応する」。
一人で判定して終わり、とは書かれていません。「カンファレンスで一度出しませんか」は、この一文に沿った提案です。
Quy tắc đạo đức viết rõ: "chia sẻ thông tin với ĐA NGÀNH rồi mới xử lý". Không viết là "một người tự phán đoán". Nên đề nghị "đưa ra họp ca" là hoàn toàn đúng theo quy tắc đó.
看護業務基準にも、同じことが書かれています
日本看護協会「看護業務基準(2021年改訂版)」1-2-4です。
1―2―4 主治の医師の指示のもとに医療行為を行い、反応を観察し、適切に対応する。
看護職は、保健師助産師看護師法第37条が定めるところに基づき主治の医師の指示のもとに医療行為を行う。人の生命、人としての尊厳及び権利に反する場合は、疑義を申し立てる。看護職は、各自の免許に応じて以下の点についての判断を行う。
1.医療行為の理論的根拠と倫理性
2.対象者にとっての適切な手順
3.医療行為に対する反応の観察と対応
⚠ 「疑義を申し立てる」相手には、医師も入っています。看護職は、上にも下にも横にも疑義を出すよう求められている——それが職業基準として書かれているということです。
報告と評価を分けると、返ってくるものが変わります
§3で見たとおり、相手は①事実への対応と②判定を同時にやります。混ざった形で渡すと、②が質問として返ってきます。
「〇〇さん、ちょっと様子が変なので、たぶん大丈夫だと思うんですけど、いちおう言っておきます」
——事実と、あなたの判断(たぶん大丈夫)が混ざっています。相手はその判断が妥当かを確かめに来ます
「14時、37.8度。朝は36.5度でした。昼食は3口で止まっています。私は臥床していただいて、経過を見ています。ここから先はどうしますか。」
——事実/やったこと/止めたところ。判定材料が最初から全部あります
型は3つです。
| 出す順番 | 中身 |
|---|---|
| ① 事実 | 時刻・数値・いつもとの違い。「思う」を入れない |
| ② やったこと | 自分がどこまでやったか。やらなかったことも含める |
| ③ 止めたところ | 「ここから先はどうしますか」——判断を渡す一言 |
⚠ ③がいちばん効きます。これを言うと、相手の②(任せてよいかの判定)が「もう本人が線を引いている」で終わります。踏み越えていないことが、最初から見えるからです。
准看護師は、もう1つ指示を受ける立場です
⚠ 知っておくと、返事の違いが読めます。保健師助産師看護師法の定義は、こう分かれています。
| 条文 | |
|---|---|
| 看護師 第5条 | 厚生労働大臣の免許を受けて、療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者 |
| 准看護師 第6条 | 都道府県知事の免許を受けて、医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて、前条に規定することを行うことを業とする者 |
◎ 第37条(医師の指示)は、看護師にも准看護師にも同じくかかります(条文の主語に両方が並んでいます)。准看護師には、それに加えて第6条の条件がかかります。
だから、准看護師の方から「看護師さんに聞いてから」と返ってくることがあります。それは責任逃れではなく、第6条の条件そのものです。
だから、こう言えば通ります
| 場面 | 言い方の型(いずれも一例です) |
|---|---|
| ふだんの報告 | 「事実/やったこと/ここから先はどうしますか」の3つで出す =§6の型。いちばん基本です |
| 「なぜ先に呼ばなかったのか」と言われた | 「〇〇と判断して、ここまでで止めました。次はどこで呼べばいいですか」 =弁明ではなく、次の基準を作る質問に変える。相手の②が終わります |
| 言うと指摘が返るので、言いにくい | 「判断はしていません。見えたことだけお伝えします。〇〇です」 =判定の対象になるものを、最初から渡さない形です |
| 一人の判断で決まってしまいそう | 「カンファレンスで一度出しませんか。」 =倫理綱領 本文6 の「多職種で情報を共有し熟慮したうえで対応する」に沿った提案です |
| やり方そのものに疑問がある | 「この手順は、どこで決まったものですか。」 =人ではなく、決めた場所を聞く。相手の側にも「疑義を申し立てる」ことが求められています(看護業務基準1-2-4) |
ここから先は、本当に無理です
| 線 | 中身 |
|---|---|
| 動かない線 (言い方では変わりません) | 受け取った側が「任せてよいかを判定する」こと自体は、なくなりません。倫理綱領 本文7 が求めているからです。判定されない報告のしかたは、ありません。できるのは、判定に必要な材料を先に渡して、質問として返ってくる回数を減らすことだけです また、医師の指示が要る行為は、報告のしかたを変えても要ります(保助看法第37条) |
| 事業所で変わる線 (話し合いで動きます) | 報告の様式と経路/カンファレンスの持ち方と頻度/「何が起きたら呼ぶか」の基準/申し送りの時間の取り方/ハラスメントの相談窓口 ⚠ 勤務体制の確保(省令39 第24条ほか)には、事業者のハラスメント防止措置が含まれます。指摘の域を超えていると感じる場合は、相手ではなく事業所の窓口が筋です |
⚠ この記事は「言い方を直せば解決する」という話ではありません。相手の側に②の義務が乗っているという構造の説明です。構造でどうにもならない部分は、個人で抱えずに事業所へ上げてください。それは我慢が足りないのではなく、個人では動かせない線だからです。
記録にどう残すか
報告と、返ってきた指示
14:00 体温37.8度(朝36.5度)。昼食3口で中止。声かけへの反応がいつもより遅い。臥床していただき、看護職員〇〇へ報告。
14:05 「16時に再検。38.0度を超えるか、反応が落ちるようなら連絡」との指示を受ける。
16:00 体温37.6度。開眼あり、氏名の呼びかけに応答あり。
基準そのものを決めてもらったとき
(申し送りノート)17:30 〇〇さんについて、看護職員〇〇と確認。「食事量が半分以下の日は、体温にかかわらず記録に残して申し送る。38.0度以上または嘔吐があれば夜間でも連絡」と決める。
⚠ 「〜との指示を受ける」を必ず書いてください。これがあると、次に同じ場面が来たときの根拠になります。そして誰がどこまで判断したかが、記録の上で分かれます。——それは、あなたを守ります。
まとめ
- 報告を受けた側は、①事実への対応(倫理綱領 本文6)と②任せてよい相手かの判定(本文7)を同時に行う立場にある
- ⚠ 本文7の「他の看護職などに業務を委譲する場合は自己及び相手の能力を正しく判断し」——これが②の根拠
- だから確認や指摘が返るのは、報告を歓迎していないからではない
- 本文6の疑義の向き先には「看護職の行為が対象となる人々を傷つける可能性」も入っている。片側だけを点検する構造ではない
- 本文6は「多職種で情報を共有し熟慮したうえで対応する」とも書いている。一人で決めよとは書かれていない
- 看護業務基準 1-2-4 は「人の生命、人としての尊厳及び権利に反する場合は、疑義を申し立てる」——相手には医師も含まれる
- ◎ 対処は言い方ではなく順番。①事実 ②やったこと ③「ここから先はどうしますか」
- ⚠ ③がいちばん効く。自分で線を引いていることが最初から見えると、②が終わる
- 准看護師には第6条で「医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて」という条件が別にかかる
- ⚠ 判定されない報告のしかたはありません。減らせるのは、質問として返ってくる回数だけです
やさしい 日本語(にほんご)
1 なにが おきますか
看護師(かんごし)が 言(い)います。
「気(き)が ついたら、言(い)って ください」
でも 言うと、こう 返(かえ)って きます。
「どうして 先(さき)に 呼(よ)ばなかったの」
それで、だんだん 言いにくく なります。
2 なぜ そう なりますか
看護師の 本(ほん)に、2つ 書(か)いて あります。
◇ 「気が ついたら 言いなさい」
◇ 「まかせて いい 人(ひと)か、ちゃんと 見(み)なさい」
あなたが 話(はな)すと、看護師は 2つ 同時(どうじ)に します。
①その ことを どうするか ②あなたに まかせて いいか
②の ための 質問(しつもん)が、おこられて いる ように 聞(き)こえます。
あなたを きらいだから では ありません。
3 あなたは どう 言(い)いますか
じゅんばんを 変(か)えます。3つです。
- ①見た こと 「14時、37.8度。朝(あさ)は 36.5度。ごはんは 3口(くち)」
——「たぶん」「思(おも)う」は 入(い)れません。 - ②した こと 「わたしは ベッドで 休(やす)んで もらいました」
- ③とめた ところ 「ここから 先(さき)は どうしますか」
③が いちばん 大切(たいせつ)です。
自分(じぶん)で 線(せん)を ひいた ことが、すぐ わかります。
だから ②の 質問が へります。
4 これは できません
◇ 「見(み)られない ように する」ことは できません。
看護師は 見る きまりだからです。
できるのは、質問が へる ように 出(だ)すことだけです。
⚠ でも、つらすぎる ときは がまん しないで ください。
言い方(いいかた)では どうにも ならない ことも あります。
施設(しせつ)の 相談(そうだん)まどぐちに 話して ください。
それは あなたが よわいから では ありません。一人(ひとり)では 動(うご)かせない ことだからです。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、看護師の 本に ついて 書いて います。あなたの 施設の きまりも、かならず 見て ください。
あわせて読む
①見たこと ②やったこと ③ここから先。カンファレンスの進行シートもあります。いずれも一例です。項目は事業所に合わせて書き換えてお使いください。
様式をダウンロード → 困りごとから調べる根拠にした資料
- 公益社団法人日本看護協会「看護職の倫理綱領」2021年3月(本文6・本文7)
- 同「看護業務基準(2021年改訂版)」1-2-4/1-3-5
- 保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第5条・第6条・第37条
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第24条 ——勤務体制の確保等(ハラスメント防止措置を含む)
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」令和3年度改訂版
- 当研究所『介護事故防止 実務マニュアル』第8章「ヒヤリハット」・第9章「報告」
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。