なぜ事故の報告基準が、市町村ごとに違うのか
「前の職場では出さなくてよかったのに」。どちらが間違っていたのか、と思います。
⚠ たいてい、どちらも正しいのです。国が全国そろえたのは2つだけ——亡くなった事故と、医師に診てもらって治療が必要になった事故。
◎ そして「そのほかは、それぞれの市町村が決めること」と、国の通知にはっきり書かれています。だから市町村が違えば、出すものが変わります。移ったら、まずそこを確かめてください。
もくじ
国がそろえたのは2つだけです
令和6年11月29日 老高発1129第1号・老認発1129第1号・老老発1129第1号「介護保険施設等における事故の報告様式等について(通知)」——介護保険最新情報Vol.1332です。⚠ 厚生労働省老健局の3つの課の連名で出ています。
| 原則、報告対象となる事故 | |
|---|---|
| ①死亡に至った事故 | 全国共通 |
| ②医師の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故 | 全国共通 |
⚠ ②の書き方に注意してください。「医師の診断を受け」と「何らかの治療が必要となった」の両方がかかっています。受診しただけで治療が無ければどうか、湿布は治療か——この線の引き方が、保険者ごとの運用の差になります。
⚠ 「その他は自治体の取扱いによる」と書かれています
その他の事故の報告については、各自治体の取扱いによるものとすること。
◎ これが答えです。市町村によって違うのは、誰かが間違っているからではありません。通知が明示的に自治体に委ねています。
「うちの市は骨折も打撲も全部出す」「隣の市は治療が要ったものだけ」——どちらも通知の中にあります。
◎ だから、事業所を移ったときに最初に確かめるのは「保険者の事故報告の基準」です。⚠ 前の職場の感覚をそのまま持ち込むと、出し忘れか、出しすぎのどちらかになります。
もう一段、深い理由 — 運営基準そのものが条例です
報告の基準だけでなく、運営基準そのものが、都道府県や市町村の条例で定められています。介護保険法第74条(指定居宅サービス)と第81条(指定居宅介護支援)です。
第74条第1項 指定居宅サービス事業者は、当該指定に係る事業所ごとに、都道府県の条例で定める基準に従い都道府県の条例で定める員数の……従業者を有しなければならない。
第74条第2項 前項に規定するもののほか、指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準は、都道府県の条例で定める。
第81条第1項 指定居宅介護支援事業者は、当該指定に係る事業所ごとに、市町村の条例で定める員数の介護支援専門員を有しなければならない。
そして第74条第3項が、条例を作るときの縛りを3段階に分けています。
| 3段階 | 何が入るか |
|---|---|
| 従うべき基準 (第1号〜第3号) | 従業者の基準と員数/居室・療養室・病室の床面積/運営に関する事項のうち「利用する要介護者のサービスの適切な利用、適切な処遇及び安全の確保並びに秘密の保持等に密接に関連するもの」として厚生労働省令が定めるもの |
| 標準 (第4号) | 利用定員 |
| 参酌すべき基準 (その他) | ⚠ ここは、条例で違う内容にできます。地域によって数字が違うものは、たいていこの枠です |
⚠ 指定居宅介護支援は、都道府県ではなく市町村の条例です(第81条)。同じ地域でも、デイサービスは県、居宅介護支援事業所は市——というふうに、条例を作る主体が分かれます。
だから、こう考えると分かりやすくなります。
「国が決めたことなのに、なぜ市で違うのか」——国が決めているのは、条例の作り方のほうだからです。⚠ 基準は、法律から省令、省令から条例へと下りてきます。いちばん下で決まる部分があるので、地域差が出ます。
"Tại sao quy định của nhà nước lại khác nhau ở từng thành phố?" — Vì nhà nước quy định CÁCH LÀM điều lệ, còn nội dung cuối cùng do tỉnh hoặc thành phố quyết định.
第1報は「遅くとも5日以内を目安」
Vol.1332 が、報告の出し方についてこう書いています。
第1報 少なくとも第1〜6項目について、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出すること。
その後 状況の変化等必要に応じて、追加の報告を行い、事故の原因分析や再発防止策等については、作成次第報告すること。
◎ ここは、現場にとって大事な一文です。「原因分析まで書けないと出せない」ではありません。先に出して、あとから足す形が、通知の想定です。
⚠ 「まだ原因が分からないので」と抱えているうちに5日が過ぎる——これがいちばん避けたい形です。
◎ 様式に「続柄」と「報告年月日」の欄があります
Vol.1332 の様式には、事故の概要/発生時の対応/発生後の状況/原因分析/再発防止策などの項目が並びます。そのなかに「家族等への報告」の欄があり、報告した家族等の続柄と報告年月日を書きます。
◎ つまり「ご家族にいつ、どなたに伝えたか」は、様式の側から求められています。管理者が「誰に連絡した?」と真っ先に聞くのは、ここに書く欄があるからです。
◇ この欄については、なぜ「誰に連絡した?」と真っ先に聞かれるのかで、伝え方と記録のしかたまで書いています。
条文の側の義務は、報告とは別にあります
⚠ 「市町村に報告するかどうか」と「条文が求めていること」は、別の話です。報告対象に当たらない事故でも、省令の側の義務は消えません。
省令第39号 第35条第2項 指定介護老人福祉施設は、……事故が発生した場合は、速やかに市町村、入所者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。
同 第3項 指定介護老人福祉施設は、前項の事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなければならない。
省令第37号 第37条第1項(訪問介護) ……市町村、当該利用者の家族、当該利用者に係る居宅介護支援事業者等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。
| 効き方 | |
|---|---|
| Vol.1332 の報告 | 通知に基づく様式での報告。対象は死亡と治療が必要になった事故+各自治体の取扱い |
| 省令の「連絡」 | ⚠ 条文の義務。事故が発生した場合の市町村・家族等への連絡と必要な措置 |
| 省令の「記録」 | ⚠ 条文の義務。状況と採った処置の記録。完結の日から2年間保存(省令39号第37条第2項第6号) |
◎ 記録は、報告対象かどうかに関係なく残します。そこは迷わなくて大丈夫です。
だから、こう言えば通ります
| 場面 | 言い方の型(いずれも一例です) |
|---|---|
| 出すかどうか迷う | 「受診はしましたが、治療は無しでした。うちの保険者の基準では報告対象でしょうか」 =事実を先に置いて、判断は管理者と保険者に渡します |
| 前の職場と違う | 「前の事業所では出していなかった範囲です。こちらの保険者の基準を教えていただけますか」 =⚠ どちらが正しいかではなく、保険者が違うだけのことがあります |
| 原因がまだ分からない | ◎ 「第1報を先に出して、原因分析はあとから足す形でよいでしょうか。」 =通知が「作成次第報告すること」としています |
| 家族への連絡について聞かれた | 「〇月〇日〇時〇分、長女の〇〇様にお電話しました。」 =様式に続柄と報告年月日の欄があります。この形で答えると、そのまま書けます |
| 報告対象ではないと言われた | 「記録は残しておきます。」 =報告と記録は別です。⚠ 記録は省令の義務です |
ここから先は、本当に無理です
| 線 | 中身 |
|---|---|
| 法令上の線 (言い方では動きません) | ⚠ 死亡に至った事故と、医師の診断を受け治療が必要となった事故は、全国共通で報告対象です。ここは事業所の判断で外せません。 ⚠ そして省令の「速やかに市町村、家族等に連絡」と「記録」は、報告対象かどうかと関係なくかかります。 ⚠ 報告を出さないために、事実の書き方を変えることは絶対にしないでください。 |
| 保険者に確かめる線 | 「その他の事故」の範囲/受診したが治療が無かった場合/打撲・皮下出血の扱い/第1報の提出先と方法/様式(自治体独自の様式を使う場合があります) ◎ ここは自治体の取扱いによると、通知に明記されています。聞くのが正しい進め方です |
記録にどう残すか
報告対象かどうかを確認したとき
〇月〇日 11:20 〇〇様、居室内で転倒。14:00 〇〇整形外科を受診。骨折なし、湿布処方のみ。15:10 管理者へ報告し、保険者への事故報告の要否を確認。「治療に当たるかを保険者に照会する」との回答。16:30 〇〇市介護保険課へ照会、〇〇との回答。
家族への連絡(様式の欄に対応させる)
〇月〇日 12:05 長女 〇〇様(続柄:長女)へ電話にて連絡。受診の予定と、現在の状態を説明。「受診結果が出たら再度連絡してほしい」とのご要望。15:30 受診結果を再度連絡。
◎ 「続柄」と「時刻」を書いてください。様式にその欄があるので、この2つが入っていれば、そのまま転記できます。
まとめ
- Vol.1332(令和6年11月29日 老高発・老認発・老老発 各1129第1号)が全国そろえたのは2つだけ——①死亡に至った事故 ②医師の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故
- ⚠ 「その他の事故の報告については、各自治体の取扱いによるものとすること」と明記されています
- ⚠ もう一段深い理由——運営基準そのものが条例(法第74条=都道府県/法第81条=市町村)。従うべき基準・標準・参酌すべき基準の3段階があります
- ◎ 第1報は「事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安」。原因分析や再発防止策は作成次第でよい
- ◎ 様式の「家族等への報告」欄には、続柄と報告年月日を書きます
- ⚠ 報告対象かどうかと、条文の義務は別です。省令は「速やかに市町村、家族等に連絡」と「状況と採った処置の記録」を求めています(2年間保存)
- ◎ 「前の職場では出さなくてよかった」は、たいてい正しい。間違っていたのではなく、保険者が違います
やさしい 日本語(にほんご)
1 なにが おきますか
利用者(りようしゃ)さんが ころびました。
前(まえ)の 職場(しょくば)では、出(だ)さなくて よかった。
いまの 職場では、「出して」と 言(い)われました。
あなたは 思(おも)います。「どっちが 正(ただ)しい?」
2 なぜ ちがいますか
◎ どちらも 正しいです。
国(くに)が 全国(ぜんこく)で 同(おな)じに したのは 2つ だけです。
① 亡(な)くなった 事故(じこ)
② お医者(いしゃ)さんに 見(み)て もらって、薬(くすり)や 処置(しょち)が いった 事故
⚠ ほかは「市(し)や 町(まち)が 決(き)める」と 国の 紙(かみ)に 書(か)いて あります。
だから 市が ちがえば、出す ものが ちがいます。
3 だいじな こと
◎ 出さなくて いい 事故でも、記録(きろく)は 書きます。
法律(ほうりつ)に 「記録しなければ ならない」と あります。
◎ 原因(げんいん)が わからなくても、先(さき)に 出(だ)して いいです。
国の 紙に 「5日(か)以内(いない)を 目安(めやす)」と あります。
原因や 再発防止(さいはつぼうし)は あとから でも いいです。
4 あなたは どう 言(い)いますか
- 「受診(じゅしん)は しましたが、治療(ちりょう)は ありません でした」
——事実(じじつ)を 先に 言(い)う。決(き)めるのは 管理者と 市です。 - ◎ 家族(かぞく)に 連絡(れんらく)した とき——
「〇時〇分、長女(ちょうじょ)の 〇〇さんに 電話(でんわ)しました」
——用紙(ようし)に 「続柄(つづきがら)」と「日(ひ)にち」の らんが あります。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律に ついて 書いて います。市(し)や 町(まち)で きまりが ちがいます。かならず 聞(き)いて ください。
あわせて読む
第1報で書く項目と、家族への連絡(続柄・日時)を落とさない形にしています。いずれも一例です。⚠ 保険者が独自の様式を定めていることがあります。必ずご確認のうえお使いください。登録は要りません。
様式をダウンロード → 困りごとから調べる根拠にした資料
- 厚生労働省老健局高齢者支援課長・認知症施策・地域介護推進課長・老人保健課長「介護保険施設等における事故の報告様式等について(通知)」令和6年11月29日 老高発1129第1号・老認発1129第1号・老老発1129第1号(介護保険最新情報Vol.1332)
- 介護保険法(平成9年法律第123号)第74条・第81条
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第35条・第37条
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第37条・第39条
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。