なぜ特養・老健・グループホームで、看護師との距離が違うのか
「前の職場では、看護師がすぐ来てくれた」。同じ介護の現場なのに、なぜこんなに違うのか。
同じ100人でも、看護職員の数が3人ぶんと、約10人ぶん。3倍以上ちがいます。さらに老健は法律の上で「医療を提供する施設」に数えられていて、特養は入っていません。
グループホームの決まりには、「看護職員」という言葉が1つも出てきません。人の問題ではなく、器のちがいです。だから、前の職場の感覚をそのまま持ち込むと、かならずぶつかります。
もくじ
医師の置き方が、根本から違います
| 施設 | 医師の員数(条文どおり) |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム (指定介護老人福祉施設) 厚令39 第2条1項1号 | 入所者に対し健康管理及び療養上の指導を行うために必要な数 ——数値がありません。非常勤の配置医師が定期的に来る形が一般的です |
| 介護老人保健施設 厚令40 第2条1項1号 | 常勤換算方法で、入所者の数を百で除して得た数以上 ——入所者100人なら常勤換算1人以上。数値で決まっています |
「必要な数」と「百で除して得た数以上」。この差が、あとの全部につながります。
老健には施設の中に医師がいることが前提の条文が並びます。特養には、その前提がありません。だから特養では、判断が配置医師と協力医療機関のほうへ出ていく設計になります。
老健は「医療提供施設」です
医療法(昭和23年法律第205号)第1条の2第2項に、こう書かれています。
医療は、……病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設(以下「医療提供施設」という。)、医療を受ける者の居宅等……において、医療提供施設の機能に応じ効率的に、かつ、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。
⚠ 介護老人保健施設は、名指しで「医療提供施設」に入っています。そして特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)は、この列挙にありません。
これは格の話ではありません。老健は「在宅へ帰るまでのあいだ、医療の管理下で暮らす場所」として作られていて、特養は「生活の場」として作られている——目的が違うので、条文の作りが違うだけです。どちらが上ということはありません。
だから老健には「看護及び医学的管理の下における介護」という条文がある
介護老人保健施設の基準(平成11年厚生省令第40号)第18条は、条見出しからしてこうです。
(看護及び医学的管理の下における介護)
第十八条 看護及び医学的管理の下における介護は、入所者の自立の支援と日常生活の充実に資するよう、入所者の病状及び心身の状況に応じ、適切な技術をもって行われなければならない。
⚠ 入浴も、排せつも、おむつ交換も、褥瘡の予防も、この条の第2項以下に並んでいます。つまり老健では、日々の介護そのものが「看護及び医学的管理の下」に置かれているという書き方になっています。
老健で看護職員がよく口を出してくるのは、条文がそう組まれているからです。
特養の基準(厚令39)には、これに当たる条文がありません。介護は介護、健康管理は「医師又は看護職員」(第18条 健康管理)と、役割が分けて書かれています。
看護職員の数を並べると
| 施設の種類 | 看護職員の配置と、夜間の扱い |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム 厚令39 第2条1項3号ロ | 常勤換算で、30人以下1/〜50は2/〜130は3。うち1人は常勤(同条6項)。 定員100人なら常勤換算3人 夜間=法令上は不要(告示29号は「介護職員又は看護職員」) |
| 介護老人保健施設 厚令40 第2条1項3号 | 看護・介護職員を合わせて入所者3人につき1以上。うち看護職員は総数の7分の2程度が標準(介護職員は7分の5程度)。 定員100人なら看護・介護あわせて約34人、うち看護職員は約10人 さらに医師が常勤換算1人以上 |
| 認知症対応型共同生活介護 (グループホーム)厚令34 第90条 | ⚠ 条文に「看護職員」の語が一度も出てきません(§5) |
⚠ 定員100人で比べると、看護職員は「常勤換算3人」と「約10人」です。3倍以上あります。同じ介護福祉士が特養から老健に移ると、看護職員の関与の濃さが変わって感じられるのは当然です。職員の姿勢の差ではありません。 Cùng 100 người: viện dưỡng lão đặc biệt khoảng 3 y tá, viện phục hồi (roken) khoảng 10 y tá. Khác nhau hơn 3 lần. Đó là do LUẬT, không phải do thái độ của nhân viên.
グループホームは、条文に「看護職員」が一度も出てきません
指定地域密着型サービス基準(平成18年厚生労働省令第34号)第90条は、認知症対応型共同生活介護の従業者を定めた条文です。この条文の中に「看護職員」「看護師」「准看護師」という語は1つもありません。置かれているのは「介護従業者」です。
だからグループホームでは、看護職員がいないことが基準どおりです。加算の要件として看護職員との連携体制を組む形はありますが、人員基準そのものには出てきません。
⚠ 「なぜ看護師がいないのか」と聞いても、答えは「そういう条文だから」以上のものが出ません。その代わりに聞くべきことは §8 に書きました。
急変時につながる先も違います
| 施設 | 急変時に働く条文 |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム | 第20条の2(緊急時等の対応) あらかじめ定め、年1回以上見直す 第28条(協力医療機関等) 3要件・常時確保 ⚠ 施設の医師が判断すると書いた条文は、ありません |
| 介護老人保健施設 | ⚠ 「緊急時等の対応」に当たる条文はありません 第16条 施設の医師が「自ら必要な医療を提供することが困難」と認めたとき、入院の措置または他の医師の対診を求める 第30条(協力医療機関等) 同じ3要件 |
⚠ 協力医療機関の3要件(特養 第28条第1項/老健 第30条第1項)は、令和9年3月31日まで努力義務です(令和6年1月25日厚生労働省令第16号 附則第6条による読替え)。「もう義務です」と言うと不正確になります。
老健で「まず先生に見てもらいます」となるのは、第16条があるからです。
特養では、施設の中で医師がその判断をする条文がありません。だから「協力医療機関へ連絡」「救急要請」が先に来ます。看護職員の返事が施設によって違って聞こえるのは、この条文の差です。
「前の職場では」の正体
ここまでを1枚にすると、こうなります。
| 感じること | 条文の側の理由 |
|---|---|
| 「前は看護師がすぐ動いてくれた」 | 老健なら看護職員が3倍以上いて、施設内に医師がいる(厚令40 第2条1項1号)。指示を取るまでの距離が短い |
| 「前は介護のやり方に口を出されなかった」 | 特養には「看護及び医学的管理の下における介護」(厚令40 第18条)に当たる条文がない |
| 「前は夜も看護師がいた」 | 夜勤基準の告示は「介護職員又は看護職員」。夜間に看護職員を置くかは事業者の判断で、施設の種類とは別の話です → なぜ夜勤帯に看護師がいないのか |
| 「グループホームには看護師がいない」 | 人員基準の条文に「看護職員」の語がない(厚令34 第90条) |
これが分かると、比べる相手が変わります。「前の職場の看護師さん」と比べるのではなく、「この施設の条文では、どこへつなぐことになっているか」を見る。そちらのほうが、実際に動きます。
だから、こう言えば通ります
| 場面 | 言い方の型(いずれも一例です) |
|---|---|
| 看護職員が動けないと言う | 「では、どこへつなぐ手順になっていますか。配置医師ですか、協力医療機関ですか、救急ですか」 =人ではなく手順を聞く。特養なら第20条の2で定めてあるはずのものです |
| 転職して戸惑っている | (相手は管理者です)「この施設の緊急時の対応方法を、文書で見せていただけますか。前の施設と種類が違うので、つなぎ先を覚えたいです」 =「前はこうだった」と言うより、はるかに早く話が進みます |
| グループホームで不安なとき | 「体調が変わったとき、誰に、どの順で連絡しますか。夜間はどうなりますか」 =「看護師がいない」を嘆くのではなく、代わりの経路を確定させる |
| 老健で口を出されたと感じたとき | 「医学的にはどこを見ておけばいいですか。そこを記録に入れます」 =第18条の建て付けに乗る言い方。対立ではなく、分担の確認になります |
ここから先は、本当に無理です
| 線 | 中身 |
|---|---|
| 法令上の線 (言い方では動きません) | 施設の種類そのものは変わりません。特養に「老健と同じだけ看護職員を置いてください」と求める法令上の根拠はありません。グループホームの人員基準に看護職員を加えることもできません。 また、医師にしかできないこと(診断・死亡診断書・薬の処方)は、施設の種類にかかわらず同じです |
| 事業所で変わる線 (話し合いで動きます) | 看護職員をどの時間帯に置くか/オンコールの範囲/協力医療機関との取り決めの中身/配置医師の訪問日と連絡方法/「何が起きたら呼ぶか」の基準/加算による看護体制の上乗せ ⚠ 基準は最低限の数です。それを上回って置くことは、いつでもできます。そこは経営の判断であって、法令の限界ではありません |
記録にどう残すか
つなぎ先を確認したとき
(申し送りノート)9:15 管理者〇〇より、緊急時の対応方法について確認。「日中は看護職員へ、不在時は協力医療機関〇〇へ直接連絡。呼吸・意識に変化があれば先に救急要請」との説明を受ける。手順書の写しを受領。
手順どおりに動いたとき
19:40 〇〇さん、夕食後に嘔吐。看護職員不在の時間帯のため、手順に従い協力医療機関〇〇へ電話連絡。「1時間様子を見て、再度嘔吐か意識の変化があれば救急要請」との指示。
20:45 嘔吐なし。声かけに応答あり。経過観察を継続。
「手順に従い」と書けることが、あなたを守ります。そのためには、手順が文書であることが要ります。無ければ、それは事業所側の宿題です(特養なら第20条の2は経過措置なしの義務です)。
まとめ
- 特養の医師は「必要な数」、老健の医師は「常勤換算で入所者の数を百で除して得た数以上」。数値の有無が根本の差
- ⚠ 老健は医療法第1条の2第2項で名指しの「医療提供施設」。特養はこの列挙に入っていません
- だから老健には 第18条「看護及び医学的管理の下における介護」があり、入浴・排せつ・おむつ・褥瘡までその下に並ぶ
- 定員100人で、看護職員は特養 常勤換算3人/老健 約10人。3倍以上ちがう
- ⚠ グループホームは、人員基準の条文に「看護職員」の語が1つもありません
- 急変時も違う。特養=第20条の2(あらかじめ定める)+第28条/老健=第16条(施設の医師が判断)+第30条
- ⚠ 協力医療機関の3要件は、特養・老健とも令和9年3月31日まで努力義務
- 「前の職場では」の多くは、職員の姿勢ではなく施設の種類の差
- 聞くべきは「なぜ動いてくれないのか」ではなく「どこへつなぐ手順になっているか」
- ⚠ 基準は最低限の数です。上回って置くことはいつでもできる——そこは法令ではなく経営の判断です
やさしい 日本語(にほんご)
1 なにが おきますか
あなたは 前(まえ)の 職場(しょくば)と くらべます。
「前は 看護師(かんごし)が すぐ 来(き)て くれた」
「前は こんなに 言(い)われなかった」
2 なぜ ちがいますか
施設(しせつ)の 種類(しゅるい)が ちがうからです。人(ひと)の せいでは ありません。
| 施設 | 100人の とき |
|---|---|
| 特養(とくよう) | 看護師 約(やく)3人/医師(いし)は「必要(ひつよう)な 数(かず)」 |
| 老健(ろうけん) | 看護師 約10人/医師 1人 以上(いじょう) |
| グループホーム | 法律(ほうりつ)に 「看護師」と いう 言葉(ことば)が ありません |
3ばい 以上(いじょう) ちがいます。だから 感(かん)じ方(かた)も ちがいます。
3 あなたは どう 言(い)いますか
「なぜ 来て くれないの」では なく、「どこに つなぎますか」と 聞(き)いて ください。
- 「どこへ 電話(でんわ)する 手順(てじゅん)ですか。先生(せんせい)ですか。病院(びょういん)ですか。救急(きゅうきゅう)ですか」
- 「緊急(きんきゅう)の ときの 紙(かみ)を 見(み)せて ください」
——特養は、これを 作(つく)る きまりです。 - 「どこを 見て おけば いいですか。ノートに 書(か)きます」
4 これは できません
◇ 施設の 種類を 変(か)えること。
「特養も 老健と 同(おな)じに して ください」は、法律では 言えません。
◎ でも 基準(きじゅん)は「いちばん 少(すく)ない 数」です。
施設が もっと 多(おお)く 置(お)く ことは、いつでも できます。
それは 法律の 話では なく、施設の 決(き)める ことです。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律に ついて 書いて います。あなたの 施設の きまりも、かならず 見て ください。
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根拠にした資料
- 医療法(昭和23年法律第205号)第1条の2第2項
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第2条第1項・第6項/第18条/第20条の2/第28条
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第2条第1項/第16条/第18条/第30条
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第90条
- 厚生労働大臣が定める夜勤を行う職員の勤務条件に関する基準(平成12年2月10日 厚生省告示第29号)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(令和6年1月25日厚生労働省令第16号)附則第6条
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。