なぜ「まず医師に連絡」なのか — 急変と看取り
「最後に診てもらってから24時間を過ぎたら、診断書は書けない。警察を呼ぶことになる」——聞いたことがあるかもしれません。
その2つとも、国が「誤った解釈」だと名指しして打ち消しています。書けないわけでも、届け出なければならないわけでもありません。
⚠ ただし「診察なしで書ける」という意味でもありません。消えるのは時間の縛りだけで、亡くなったあとに、あらためて診ることは残ります。ここを取り違えると、逆向きの誤解になります。
もくじ
看護師が指示なしで動けるのは、どこまでか
保健師助産師看護師法第37条は、原則として「主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか」診療の補助にあたる行為をしてはならない、と定めています。例外として書かれているのは「臨時応急の手当」の1つだけです。
⚠ この条文の主語には「准看護師」も並んでいます。准看護師には、さらに第6条で「医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて」という条件が別にかかります。
「とりあえず様子を見て」は、多くの場合、医師につながるまでの待ち時間です。
看護師が独断で先へ進めないので、ただし書の範囲でできることだけをしている状態です。詳しくは →なぜ「医師の指示がないとできない」と言うのか
施設の側に置かれている条文は2本です
「夜は看護職員がいなくてよい」で終わっている法令ではありません。空いた分をどこへつなぐかが、別に書かれています(特別養護老人ホームの場合)。
| 条文 | 中身 |
|---|---|
| 第20条の2 緊急時等の対応 | 入所者の病状の急変が生じた場合その他必要な場合のため、あらかじめ、医師および協力医療機関の協力を得て、連携方法その他の緊急時等における対応方法を定めておかなければならない。 第2項:一年に一回以上、見直しを行う |
| 第28条 協力医療機関等 | あらかじめ、次を満たす協力医療機関を定める。①急変時に医師又は看護職員が相談対応を行う体制を常時確保 ②診療を行う体制を常時確保 ③入院を要すると認められた入所者の入院を原則として受け入れる体制 第2項:一年に一回以上、対応を確認し、名称等を都道府県知事に届け出る |
⚠ 第28条第1項には経過措置があります。令和6年1月25日厚生労働省令第16号の附則第6条により、この省令の施行の日から令和9年3月31日までの間は「定めておかなければならない」を「定めておくよう努めなければならない」と読み替えるとされています。
つまり3要件を満たす協力医療機関を定める義務が本格適用されるのは、令和9年4月1日からです。いまは努力義務の期間です。「もう義務です」と言うと不正確になります。(介護老人保健施設の第30条第1項も同じ経過措置です)
夜間の相談先は、制度の設計上「施設の中の看護師」ではありません。
あらかじめ定めた協力医療機関の体制です。看護職員が電話口で「救急要請してください」「協力医療機関へ連絡を」と言うのは、施設が定めた手順を、そのとおりに実行しているところです。→なぜ夜勤帯に看護師がいないのか
いわゆる「24時間ルール」— 何が誤解なのか
まず、条文そのもの
医師法(昭和23年法律第201号)第二十条 医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。
⚠ この条文の本体は「自ら診察しないで診断書を交付してはならない」です。24時間の話はただし書=例外です。原則と例外が、現場では逆に理解されていることがあります。
厚生労働省が「誤った解釈」と名指ししたもの
平成24年8月31日 医政医発0831第1号の本文に、こう書かれています。
近年、在宅等において医療を受ける患者が増えている一方で、医師の診察を受けてから24時間を超えて死亡した場合に、「当該医師が死亡診断書を書くことはできない」又は「警察に届け出なければならない」という、医師法第20条ただし書の誤った解釈により、在宅等での看取りが適切に行われていないケースが生じているとの指摘があります。
⚠ 名指しされているのは、この2つです。「そもそも書けない」と「警察に届け出なければならない」。
では、正しい整理はどうなるか
通知の「記」は、こう分けています。
| 場面 | 通知の帰結 |
|---|---|
| 診察後24時間以内に、当該診療に関連した傷病で死亡 | 改めて診察をすることなく、死亡診断書を交付し得る(=ただし書の適用) |
| 死亡時に立ち会わず、生前の診察後24時間を経過。 死亡後、改めて診察を行い、生前に診療していた傷病に関連する死亡だと判定できる | ◎ 死亡診断書を交付することができる |
| 死亡後、改めて診察したが、関連する死亡だと判定できない | 死体の検案を行うこととなる(=死体検案書) |
| さらに、その死体に異状があると認められる | 警察署へ届け出なければならない(医師法第21条) |
⚠ ここを取り違えないでください。
「改めて診察をすることなく」交付できるのは24時間以内の場合だけです。24時間を超えた場合は、通知が求めているのは「死亡後、改めて診察を行い」です。
⚠ 「24時間を超えても診察なしで書ける」は、新しい誤解です。正しくは「24時間を超えても、改めて診察すれば書ける」。診察が消えるのではなく、時間の縛りが消えるだけです。
この構造は、昭和24年から変わっていません
平成24年の通知が参照している昭和24年4月14日 医発第385号には、すでにこう書かれています。
死亡診断書は、診療中の患者が死亡した場合に交付されるものであるから、苟しくもその者が診療中の患者であった場合は、死亡の際に立ち会っていなかった場合でもこれを交付することができる。但し、この場合においては法第二十条の本文の規定により、原則として死亡後改めて診察をしなければならない。
法第二十条但書は、右の原則に対する例外として、診療中の患者が受診後二四時間以内に死亡した場合に限り、改めて死後診察しなくても死亡診断書を交付し得ることを認めたものである。
◎ 「原則=死後に改めて診察」「例外=24時間以内なら診察なしでよい」。この形は、昭和24年からずっと同じです。平成24年の通知は、それを改めて周知したものです。
通知が書いているのは「在宅等」です
⚠ 正確に書いておきます。平成24年の通知の本文に「介護施設」「介護保険施設」という語はありません。出てくるのは「在宅等」だけです。
⇒ 施設での看取りにこの通知をそのまま当てはめる場合は、「在宅等」の解釈として使っていることを意識してください。そして、実際にどう運用するかは施設の看取りの指針と、配置医師・協力医療機関との取り決めによります。
介護職員として押さえておけばよいのは、1つだけです。
「24時間を過ぎたから警察」ではありません。その判断をするのは医師です。あなたが慌てて何かを決める必要はありません。決まった手順(第20条の2で「あらかじめ定めておかなければならない」とされているもの)に沿って連絡してください。
"Quá 24 giờ nên phải gọi cảnh sát" là hiểu SAI. Người phán đoán là bác sĩ. Bạn chỉ cần liên lạc theo quy trình đã định sẵn của cơ sở.
だから、介護職員の側でいちばん効くのは「時刻」です
上の表を見ると、分かれ目がどこにあるかがはっきりします。
- 最後に医師が診察したのはいつか
- 最後に、いつもどおりの様子を確認したのはいつか
- 変化に気づいたのはいつか
- 誰に、いつ連絡したか
医師も看護師も、この4つの時刻の上で判断しています。
そして⚠ この4つのうち3つは、そばにいた介護職員しか知りません。「いつもどおりだった最後の時刻」は、記録に残っていなければ誰にも分かりません。
だから、こう言えば通ります
| 場面 | 言い方の型(いずれも一例です) |
|---|---|
| 急変に気づいた | 「〇時〇分に発見しました。〇時〇分の巡回では〇〇でした。いま〇〇です」 =発見時刻と、直前に確認した時刻。この2つで相手は経過をつかめます |
| 呼ぶかどうか迷う | 「手順ではどこに連絡することになっていますか。いま〇〇です」 =第20条の2で「あらかじめ定めておかなければならない」とされているものです。あるはずのものを聞いています |
| 看取りの方の状態が変わった | 「最後に先生が診られたのはいつですか。いまの様子は〇〇です」 =24時間の起点は「受診」です。時刻を確かめる質問は、まったく不自然ではありません |
| 手順が曖昧なとき | (相手は看護師ではなく管理者です)「緊急時の対応方法を、文書で見せていただけますか。第20条の2で、あらかじめ定めて年1回見直すことになっていると聞きました」 |
ここから先は、本当に無理です
| 線 | 中身 |
|---|---|
| 法令上の線 (言い方では動きません) | 死亡の判定・死亡診断書の交付は、医師にしかできません。看護師にもできません。「亡くなっています」と介護職員や看護職員が判断して言い切ることはできません。 また、検案するか、警察に届け出るかを決めるのも医師です(医師法第21条) |
| 事業所で変わる線 (話し合いで動きます) | 夜間の連絡経路と順番/どこまでを「急変」とするか/看取りの指針と同意の取り方/配置医師・協力医療機関との取り決め/救急要請の判断基準 ⚠ 第20条の2は「あらかじめ定めておかなければならない」と書いています。定まっていないなら、それは事業所側の宿題です |
⚠ 協力医療機関の3要件(第28条第1項)は、令和9年3月31日まで努力義務です。だから「体制が整っていない」ことが、ただちに基準違反になるとは限りません。それでも第20条の2の「あらかじめ定めておく」は、経過措置なしで義務です。——この2つを混ぜないでください。
記録にどう残すか
急変を発見したとき
3:20 訪室時、呼びかけに反応なし。2:30 の巡回時は、いつもどおり臥床され、呼吸に異常は見られなかった。
3:22 看護職員〇〇へ電話連絡。「救急要請し、同時に協力医療機関へ連絡するように」との指示。
3:24 救急要請。
3:31 救急隊到着。
看取りの方で、状態が変わったとき
18:40 夕食の介助時、いつもは2〜3口召し上がるが、今日は口を開けられず。17:00 の訪室時は、声かけに開眼あり。
18:45 看護職員〇〇へ報告。「経過を1時間ごとに記録し、呼吸に変化があれば時刻を入れて連絡」との指示。ご家族への連絡は看護職員が行う旨を確認。
⚠ 「いつもどおりだった最後の時刻」を、必ず1行入れてください。これは、あとから誰も再現できない情報です。そして、医師が経過を判断するときの起点になります。
まとめ
- 看護師が指示なしで動けるのは「臨時応急の手当」まで(保助看法第37条ただし書)。准看護師には第6条の条件がさらにかかる
- 施設側の条文は2本。第20条の2(あらかじめ定める・年1回見直し)と第28条(協力医療機関の3要件)
- ⚠ 第28条第1項は令和9年3月31日まで努力義務(令和6年1月25日厚労省令第16号 附則第6条)。「もう義務」は不正確
- 医師法第20条の本体は「自ら診察しないで診断書を交付してはならない」。24時間はただし書=例外
- ⚠ 厚労省が「誤った解釈」と名指ししたのは「書くことはできない」と「警察に届け出なければならない」の2つ
- 正しくは、24時間を超えても、死亡後に改めて診察して関連する死亡だと判定できれば、死亡診断書を交付できる
- ⚠ 「24時間を超えても診察なしで書ける」ではありません。消えるのは時間の縛りで、診察は残ります
- この「原則=死後に改めて診察/例外=24時間以内なら不要」の構造は昭和24年から変わっていません
- ⚠ 通知の言葉は「在宅等」で、「介護施設」とは書かれていません
- 介護職員の側でいちばん効くのは時刻。とくに「いつもどおりだった最後の時刻」
やさしい 日本語(にほんご)
1 なにが おきますか
利用者(りようしゃ)さんの ようすが 急(きゅう)に 変(か)わりました。
看護師(かんごし)に 電話(でんわ)します。
看護師は「先生(せんせい)に 連絡(れんらく)します」と 言(い)います。
そして あなたに 「何時(なんじ)ですか」と 聞(き)きます。
2 なぜ 時間(じかん)を 聞きますか
医師(いし)が 判断(はんだん)する とき、時間が いちばん 大切(たいせつ)だからです。
とくに この 2つです。
◇ あなたが 見(み)つけた 時間
◇ 「いつもと 同(おな)じ」だった 最後(さいご)の 時間
2つめは あなたしか 知(し)りません。
ノートに 書(か)いて ないと、だれにも わかりません。
3 あなたは どう 言(い)いますか
- 「3時20分に 見つけました。2時30分の ときは いつもと 同じでした」
- 「手順(てじゅん)では、どこに 電話しますか」
——施設(しせつ)は、これを 紙(かみ)に 書いて おく きまりです。 - 「先生が 最後に 見たのは いつですか」
4 これは できません
◇ 「亡(な)くなりました」と 決(き)めること。
これは 医師だけが できます。看護師も できません。
◇ 警察(けいさつ)を 呼(よ)ぶか 決めること。これも 医師です。
「24時間 すぎたから 警察」は、まちがいです。
国(くに)が「それは まちがった 考(かんが)えです」と 紙に 書いて います。
あなたが あわてて 決める ことは、なにも ありません。
施設の 手順の とおりに 連絡して ください。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)に ついて 書いて います。あなたの 施設の きまりも、かならず 見て ください。
あわせて読む
「何があったら呼ぶか」「どこへ連絡するか」を、その方ごとに書き出す形にしています。いずれも一例です。項目は事業所に合わせて書き換えてお使いください。
困りごとから調べる → 様式をダウンロード根拠にした資料
- 医師法(昭和23年法律第201号)第20条・第21条
- 保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第6条・第37条
- 厚生労働省「医師法第20条ただし書の適切な運用について(通知)」平成24年8月31日 医政医発0831第1号
- 厚生省「医師法第二十条但書に関する件」昭和24年4月14日 医発第385号
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第20条の2・第28条
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(令和6年1月25日厚生労働省令第16号)附則第6条 ——協力医療機関に関する経過措置
- 当研究所『介護事故防止 実務マニュアル』第9章「報告」
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。