ホームなぜ、そう言うのか > 賠償
管理者・行政の側から

なぜその場で「賠償します」と言わないのか

まず、これだけ

ご家族に「治療費は出してくれますよね」と言われる。その場で何を言えばいいのか、固まってしまいます。

決まりはこうです。「賠償すべき事故なら、すぐに賠償しなさい」。ところが「賠償すべき」かどうかを誰が決めるのかは、どこにも書かれていません。だから、その場では決められません。あなたに権限がないのです。

◎ ただし「このようなことになり、申し訳ありません」は、言ってよい言葉です。気持ちを伝えることと、お金を約束することは、別の行為です。

やさしい日本語で読むくわしい根拠を見る

最終更新:2026年9月 / 高齢者支援実務研究所

もくじ

  1. 事故のとき、決まりが求めているのは3つです
  2. ⚠ 「賠償すべき」の判断者は、条文にありません
  3. 確認した範囲で、保険加入を義務づける条文はありません
  4. ◎ 「責任を認めない」という話ではありません
  5. 苦情には、条文の筋道があります
  6. だから、こう言えば通ります
  7. ここから先は、本当に無理です
  8. 記録にどう残すか
  9. まとめ

事故のとき、決まりが求めているのは3つです

指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第35条。訪問介護なら省令第37号第37条で、同じ形です。

求めていること
第2項
(37号は第1項)
事故が発生した場合は、速やかに市町村、入所者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない
⚠ 訪問介護は「市町村、当該利用者の家族、当該利用者に係る居宅介護支援事業者等」——ケアマネジャーが明記されています
第3項
(37号は第2項)
前項の事故の状況及び事故に際して採った処置について記録しなければならない
第4項
(37号は第3項)
賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない

①連絡 ②必要な措置 ③記録。この3つは「事故が発生した場合」に、すぐかかります。

賠償だけ、条件が1つ多い。賠償すべき事故が発生した場合は」——ここが、ほかの3つと違うところです。

⚠ 「賠償すべき」の判断者は、条文にありません

条文をもう一度読んでください。「賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならない」——

誰が「賠償すべき」と判断するのかは、書かれていません。そして「速やかに」がかかっているのは「損害賠償を行う」のほうです。

つまり、条文の構造はこうです。

段階条文の位置
① 事故が起きた連絡・必要な措置・記録が、すぐかかる
② 賠償すべきかを判断するこの段階について、条文は何も書いていません
③ 賠償すべきと決まった速やかに損害賠償を行う

だから、こう考えると分かりやすくなります。
管理者が「その場で賠償の話はしないで」と言うのは、責任を逃れるためではありません。②を飛ばして③に行けないからです。⚠ ②を誰がどう決めるかは、条文の外にあります。当事者の話し合いか、最終的には裁判所です。 Luật ghi: "khi xảy ra tai nạn PHẢI BỒI THƯỜNG thì phải bồi thường nhanh chóng". Nhưng AI quyết định "phải bồi thường" thì luật KHÔNG ghi. Nên không thể hứa bồi thường ngay tại chỗ.

確認した範囲で、保険加入を義務づける条文はありません

省令第37号と省令第39号の全文を機械で検索しました。

「損害賠償保険」……0件。「賠償責任保険」……0件。(省令第37号・省令第39号とも)

◎ 「賠償すべき」は省令第37号で2件、省令第39号で1件。いずれも上の条文です。

これは「入らなくてよい」という意味ではありません。都道府県や市町村の条例、指定申請の際の求め、法人の規程で加入を求められることは十分にあり得ます。基準省令の側には書かれていない、という事実だけを書いています。

だから、自分の事業所がどうしているかは、事業所に聞くしかありません。保険を使う場合の手順(誰がいつ連絡するか、その前に何を言ってはいけないか)は事業所ごとに違います。入職したときに一度だけ確認しておくと、いざというときに迷いません。

◎ 「責任を認めない」という話ではありません

ここは、はっきり分けておきます。

できることその場で結論を出さないこと
起きたことを、そのまま伝える
「〇時〇分、〇〇で転倒されました。いま〇〇の状態です」
賠償するかどうか
いま何をしているかを伝える
「受診の手配をしています。結果が出たらすぐご連絡します」
過失があったかどうか
気持ちを伝える
「このようなことになり、申し訳ありません」
費用を負担するかどうか
次に何をするかを伝える
「経過をまとめて、〇日までにご説明の場を設けます」
誰の責任かの結論

気持ちを伝えることと、法律上の債務を認めることは、別の行為です。「申し訳ありません」は前者です。言ってはいけない言葉ではありません。

結論を出さないのは、隠すためではなく、まだ分かっていないからです。そしてそれを、そのまま伝えてよいことになっています——「いまは分かりません。分かり次第、必ずご説明します」。

苦情には、条文の筋道があります

賠償の話と、苦情への対応は別です。苦情のほうには、条文にはっきり道が引かれています(省令第39号 第33条)。

中身
第1項苦情に迅速かつ適切に対応するために、苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置
第2項苦情を受け付けた場合には、当該苦情の内容等を記録しなければならない(2年間保存の6種類のひとつ)
第3項法第23条による市町村の求め・質問・照会に応じ、市町村の調査に協力し、指導又は助言を受けた場合は、それに従って必要な改善を行わなければならない
第4項市町村からの求めがあった場合には、改善の内容を市町村に報告
第5項・第6項国民健康保険団体連合会が行う法第176条第1項第3号の調査に協力し、指導・助言に従って改善し、求めがあれば改善内容を報告

ご家族に「どこに言えばいいのか」と聞かれたときの答えが、ここにあります。事業所の窓口、市町村、そして国民健康保険団体連合会。3つとも、条文に書かれた道です。

だから、こう言えば通ります

場面言い方の型(いずれも一例です)
「治療費は出してくれるのか」その点は私では決められません。管理者に必ず伝え、〇日までにご連絡します。
=⚠ 断るのではなく、決める人と期限を置きます
その場で謝るべきか迷う◎ 「このようなことになり、申し訳ありません。いま〇〇をしています」
=気持ちを伝えることと、賠償を約束することは別です
原因を聞かれたいま分かっているのは〇〇までです。分かっていないことを推測でお答えしないほうがよいと思いますので、確認してご説明します」
「訴える」と言われたご意見として、そのまま管理者に伝えます。苦情の窓口は〇〇で、市町村や国保連合会にも申し立てができることになっています」
=⚠ 止めようとしない。条文に道がある話です
管理者に報告するときご家族から治療費についてご質問がありました。私からは決められないとお伝えし、〇日までにご連絡すると申し上げました。
=何を約束したかを、必ず正確に渡します

ここから先は、本当に無理です

中身
やってはいけないことその場で賠償や費用負担を約束しないでください。権限の外です。
そして、その場で「うちの責任ではありません」とも言わないでください。これも同じく、その場で決められることではありません。
事実の書き方を、責任の話に合わせて変えないでください。記録は、起きたことをそのまま残します
やってよいこと起きたことを伝える/いましていることを伝える/気持ちを伝える/次にいつ連絡するかを伝える/管理者に正確に渡す
「分かりません」と言ってよい。そのうえで「確認します」を必ず付けます
条文の側の義務⚠ 賠償の議論と関係なく、①市町村・家族等への速やかな連絡 ②必要な措置 ③状況と処置の記録は動きます。ここは止めないでください

記録にどう残すか

ご家族から費用について聞かれたとき
〇月〇日 17:20 長女 〇〇様より「治療費はどうなるのか」とのご質問。当方より、その場では判断できないこと、管理者に伝えて〇月〇日までに連絡することをお伝えした。賠償の可否についての発言はしていない。17:35 管理者〇〇へ報告ずみ。

その場で伝えたこと(そのまま残す)
16:05 ご長男 〇〇様へ電話。「〇時〇分に居室で転倒され、いま受診の手配をしています。結果が出次第、あらためてご連絡します」とお伝えした。「このようなことになり申し訳ありません」と申し添えた。費用および責任についての話はしていない。

「何を言ったか」だけでなく「何を言っていないか」も書いてください。あとで食い違いが出たときに、いちばん効きます。⚠ そして、これはご家族を疑うための記録ではありません。お互いの記憶を守るための記録です。

まとめ

やさしい 日本語(にほんご)

1 なにが おきますか

利用者(りようしゃ)さんが けがを しました。
ご家族(かぞく)が 言(い)います。
治療費(ちりょうひ)は 出(だ)して くれるんですよね
あなたは こまります。

2 なぜ その場(ば)で 答(こた)えないのですか

法律(ほうりつ)は こう 書(か)いて います。
賠償(ばいしょう)すべき 事故(じこ)が おきた ときは、はやく 賠償しなさい

でも「賠償すべき」かどうかを、だれが 決(き)めるかは 書いて ありません。

だから、その場で 決められません。
あなたに 権限(けんげん)が ないのです。
——かくして いる のでは ありません。

3 これは 言(い)って いいです

「〇時〇分に、〇〇で ころばれました」(おきた こと)
「いま 病院(びょういん)の 手配(てはい)を して います」(いま して いる こと)
「このような ことに なり、申(もう)しわけ ありません」(気持(きも)ち)
「〇日までに 必(かなら)ず ご連絡(れんらく)します」(つぎ)

4 これは 言(い)っては いけません

「お金(かね)を 出します」
「うちの せいでは ありません」
 ——どちらも、その場で 決められません。

「わかりません」と 言って いいです。
 そのあと 「確認(かくにん)します」を つけて ください。

5 記録(きろく)に 書く こと

「何(なに)を 言ったか」だけで なく「何を 言って いないか」も 書いて ください。
 例(れい):「お金の 話(はなし)は して いない」

※ この ページは 日本(にほん)の 法律に ついて 書いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりが いちばん だいじです。かならず 見(み)て ください。

ご家族への連絡記録の様式を配っています

「伝えたこと」と「伝えていないこと」を分けて書ける形にしています。いずれも一例です。事業所に合わせて書き換えてお使いください。登録は要りません。

様式をダウンロード → 困りごとから調べる

根拠にした資料

個人の経験ではなく、公開されている資料をもとに整理しています。
  • 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第36条・第37条・第39条
  • 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第33条・第35条・第37条
  • 介護保険法(平成9年法律第123号)第23条・第176条第1項第3号
  • 厚生労働省老健局「介護保険施設等における事故の報告様式等について(通知)」令和6年11月29日(介護保険最新情報Vol.1332)
この記事について 一般的な情報提供を目的としています。当研究所は弁護士ではなく、ここに書いたことは法律相談ではありません。 損害賠償の要否や範囲を最終的に判断するのは、当事者間の合意または裁判所です。個別の事故について、この記事から結論を導くことはできません。 賠償や保険に関する手順は、事業所の規程・保険契約・保険者の定めによって異なります。必ず所属事業所にご確認ください。 ここで書いているのは、事業者に課されている法令上の枠組みです。特定の誰かの考えや意図を書いたものではありません。 実際の対応は、所属事業所の規程および、管理者の指示に従ってください。制度・通知・法令は改正されることがあります。
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。