「転倒」と「発見」の書き分け — 見ていないときの記録
巡視で居室に入ったら、床に座っていた。
記録の欄に、あなたは何と書きますか。
多くの人が「転倒」と書きます。でも、見ていましたか。
あなたが見たのは、床にいる状態です。転ぶところは見ていません。 この書き分けと、「最後に確認した時刻」の1行が、あとで大きく効いてきます。
見ていないなら、「発見」です
記録の欄を前にして、多くの人が「転倒」と書きます。でも、見ていましたか。
巡視で居室に入ったら、床に座っていた。物音がして駆けつけたら、倒れていた。 これは、転倒の目撃ではありません。あなたが見たのは、床にいる状態です。
言葉の使い分け
・目撃 … 転ぶところを、実際に見た
・発見 … 転んだあとの状態を見つけた
・転倒 … 転んだという出来事そのもの(=見ていなければ、断定できない)
これは、言葉遊びではありません。
「転倒した」と書くと、転んだ場所・向き・原因まで確定したように読まれます。
あとで別の経緯が分かったとき、記録全体が食いちがいます。
そのとき困るのは、書いた本人と、施設です。
いちばん大事な1行は「最後に確認した時刻」
発見の記録で、いちばん抜けやすく、いちばん重いのがこれです。
「2:40 発見」だけでは、5分前に転んだのか、3時間前なのかが分かりません。
最後に確認したのが2:10なら、床にいた時間は最大30分。それが分かります。
床に長くいた場合、脱水・低体温・褥瘡が問題になることがあります。 受診したときに医師が知りたいのも、多くはここです。
書き方の一例 「2:40 巡視時に発見。最終確認は2:10(同室者のおむつ交換で入室)。」
最終確認がいつ、何のために入ったかまで書くと、より正確になります。
記録は、この10項目で書く
順番を決めておくと、迷いません。上から順に埋めるだけです。
| 項目 | 書き方と例 |
|---|---|
| ① いつ | 発見時刻と最終確認時刻を両方 例:「8/25 2:40 巡視中に発見(最終確認 2:10)」 |
| ② どこで | 部屋の中のどこか、まで 例:「居室内、ベッドの右側の床」 |
| ③ どんな姿勢で | 片づける前の状態。向きと、頭の方向 例:「右を下にして横向き。頭は足元側」 |
| ④ 本人の第一声 | 言葉どおりに。要約しない 例:「『トイレに行こうと思って』と発語」 |
| ⑤ 頭部打撲 | 不明なら「不明」。本人の否定は、否定として書く 例:「本人は否定。たんこぶ・出血なし。目撃なし」 |
| ⑥ 意識・バイタル | 意識の状態と、血圧・脈・体温・呼吸 例:「意識清明。BP138/78、脈72、体温36.4、呼吸18」 |
| ⑦ 外傷・痛み | 「なし」も必ず書く 例:「右ひじに擦過傷1cm。変形・腫脹なし。『どこも痛くない』」 |
| ⑧ 周りの状況 | 履物・床・照明・物・柵・ナースコールの位置 例:「左スリッパが脱げていた。足元灯 消灯」 |
| ⑨ やったこと | 介助の人数、連絡した相手と時刻 例:「2人介助で座位へ。2:45 看護師◯◯へ連絡」 |
| ⑩ 次にすること | いつ、何を見るかまで 例:「6時間は1時間ごとに訪室。8/26朝に再確認」 |
よくない記録と、よい記録
「2:40 居室にて転倒。ベッドから降りようとして転んだものと思われる。外傷なし。経過観察。」
見ていないのに「転倒」「〜と思われる」。最終確認時刻・姿勢・バイタルがありません。
これでは何時間前に転んだのかも分かりません。
「2:40 巡視時、居室のベッド右側の床に右側臥位でいるところを発見。最終確認は2:10。 本人『トイレに行こうと思って』と発語。意識清明、BP138/78、脈72、体温36.4。 右ひじに1cmの擦過傷。変形・腫脹なし。頭部打撲は本人否定、外表所見なし。 左スリッパが脱げていた。足元灯 消灯。2人介助で座位へ。2:45 看護師◯◯へ連絡、6時間の観察指示。 転倒の瞬間は目撃していない。」
推測は、欄を分けて書く
推測を書いてはいけない、という話ではありません。事実と混ぜないでくださいという話です。
書き方の一例
【事実】2:40 居室のベッド右側の床に右側臥位でいるところを発見。最終確認2:10。
【推測】ベッド柵の位置と、スリッパの落ちていた向きから、右側から降りようとした可能性がある。目撃はしていない。
事実と推測を混ぜた記録は、あとで必ずもめます。 ご家族への説明でも、事故報告書でも、市町村への報告でも、 「どこまでが見たことで、どこからが考えたことか」を問われます。 最初から分けて書いておけば、そのまま使えます。
ご家族への伝え方も、同じ言葉で
記録が「発見」なら、ご家族への説明も「発見」でそろえてください。 記録と口頭でちがう言い方をすると、そこが問題になります。
| ✕ 言わないほうがよい | 〇 見た事実で伝える |
|---|---|
| 「転倒しました」 | 「◯時◯分に、床に座っておられるところを発見しました」 |
| 「ベッドから落ちたようです」 | 「転んだ瞬間は職員が見ておりません。状況からは◯◯の可能性があります」 |
| 「頭は打っていません」 | 「ご本人は打っていないとおっしゃっています。目撃しておりませんので、しばらく様子を見ます」 |
入所のときに、先に伝えておくのが確実です。
「ご高齢になりますと、どんなに気をつけても転倒を完全に防ぐことはできません。
私たちは環境を整え、見守りを行いますが、お一人の時間をなくすことはできませんし、
動かないようにお止めすることもいたしません。
転倒があった場合は、その日のうちに必ずご報告します。」
まとめ
- 見ていないなら「発見」。「転倒した」と断定しない
- いちばん大事な1行は「最後に確認した時刻」
- 記録は10項目を上から埋める
- 頭部打撲は「不明」と書けるようにしておく
- 姿勢は片づける前の状態を書く
- 外傷・痛みは「なし」も書く
- 推測は欄を分けて書く。事実と混ぜない
- ご家族への説明も、記録と同じ言葉でそろえる
ここに書いた項目・言い回しは一例です。施設の記録システムや様式に合わせて変えてください。 実際の対応は、所属施設の規程と、医師・看護師の指示に従ってください。
あわせて読む
根拠にした資料
- 厚生労働省「介護保険施設等における事故報告様式の統一化について」(令和3年3月19日 老高発0319第1号ほか)
- 厚生労働省「介護保険施設等における事故の発生又はその再発を防止するための指針」に関する基準・通知
- 厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
- 厚生労働省「介護現場におけるリスクマネジメントに関する調査研究事業」報告書
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。