ティルトは上位互換ではない ——替えると失う6つのこと
「倒せるほうが、良い車いす」ではありません。 ずり落ちる方をティルトに替えると、その場は落ち着きます。だから安易に選ばれます。 でも、倒すたびに、その方ができていたことを1つずつ失っていきます。
車いすを替えるときには、順番があります。クッション → 寸法 → 支え → そこで、はじめてティルト。 いきなりティルトに移すのは、いちばん多いまちがいです。この記事は、その順番と、替えると何を失うのか、失わないための工夫をまとめたものです。
もくじ
選ぶ順番 — いきなりティルトにしない
姿勢が崩れてきたとき、この順番で考えます。飛ばさないでください。
| 順番 | 見ること |
|---|---|
| 1 まず、座り方とクッション | いちばん多い原因はこれです。深く座れていない/クッションがへたっている/裏返しに入っている/体に合っていない。クッションを替えるだけで、ずり落ちが止まることがよくあります。ここを飛ばして車いすを替えると、新しい車いすでも同じことが起きます |
| 2 次に、寸法(モジュール調整) | 座幅・座の奥行き・座面の高さ・背もたれの高さ・アームサポートの高さ。体重が変わった方、拘縮が進んだ方は、寸法が合わなくなっています。介護職の仕事は、指とこぶしで測って「合っていない」と気づき、報告すること。調整は福祉用具専門相談員・リハビリ職に |
| 3 座位保持のクッション・支えを足す | 骨盤を支えるクッション、体側のパッド、テーブル(前方の支え)。「倒す」前に「支える」で解決できないかを考える。リハビリ職に相談 |
| 4 ここで、はじめてティルト | 「体幹を起こしていられない」「支えても仙骨座りになる」「座っていられる時間が30分もたない」——この段階になって、はじめてティルトです。倒す角度は、必要な最小限に |
| 5 リクライニングは、理由が違う | 血圧が下がりやすく途中で横になる必要がある/呼吸が苦しい/股関節が曲がりにくい/経管栄養で角度が必要。ずり落ち対策でリクライニングを選ぶのは、まちがいです。倒すとかえってずり落ちます |
「とりあえずティルトに替えておこう」が、いちばん多いまちがいです。
原因がクッションだったなら、ティルトにしても根本は直っていません。そして、その方は自分で動く機会を失います。1と2に15分かければ、その方の1年が変わります。
モジュール型の調整は、工具でネジを止め直す作業です。職員がその場で直すものではありません。ネジがゆるむと、走行中の脱落につながります。 気づいて報告するところまでが、介護職の仕事です。寸法の測り方は車いすの寸法が合っているか、指とこぶしで測るに、クッションのことは座面クッションが合っていないと、何が起きるかに書きました。 Điều chỉnh xe lăn module là việc của chuyên viên. Nhân viên chăm sóc chỉ cần phát hiện và báo cáo.
ティルトに替えると、失う6つのこと
ティルトに替えることは、安全を得るかわりに、何かを手放すことです。 これは「ティルトを使うな」という話ではありません。必要な方には、必要です。 でも、失うものを知らずに替えると、必要のない方まで倒してしまいます。
| 失うもの | どうなるか |
|---|---|
| ① 自分でこげなくなる | ティルト式は重く、後輪も小さいものが多い。移動が完全に人まかせになる |
| ② まわりが見えなくなる | 倒すと視線が天井を向く。人と目が合わない。話しかけられる回数が減る |
| ③ 自分で食べにくくなる | テーブルに近づけない/手が届かない/食べ物が見えない |
| ④ 離床の時間が減る | 大きく重いので、居室から出す回数が減る。「倒しておけばいい」になりがち |
| ⑤ 同じ姿勢が続く | 自分で座り直せないので、圧が同じ場所にかかり続ける(褥瘡・内出血) |
| ⑥ 「動かない人」になる | まわりの職員も、そう扱うようになる。ここがいちばん怖いところです |
✕ こういう替え方/〇 こういう替え方
「ずり落ちるから、ティルトにしよう」
「そのほうが安全だから」
「倒しておけば落ちないから」
「みんなティルトだから」
→ クッションで直ったかもしれません。そして、その方はもう自分では動けません。
「クッションを替えて2週間みたが、まだ30分でずり落ちる」
「寸法も合わせたが、体幹が保てない」
「仙骨に赤みが出てきた」
→ だからティルトを検討したい。記録があるから、専門職も動けます。
判断に迷ったときの、ひとつの問い。
「この変更は、その方が今できていることを、何か1つでも奪っていないか。」
奪うのなら、それに見合うだけの理由(褥瘡・誤嚥・転落の危険)があるか。チームで言葉にして、記録に残してください。
それが、あとで「なぜこの車いすなのか」をご家族にも監査にも説明できる根拠になります。
ティルトを使いながら、失わないための工夫
- いつも倒しておかない。食事・レク・会話のときは、できるだけ起こす
- 倒す角度は、必要な最小限に。「何度で何分」を決めて記録する
- 2時間ごとに角度を変える。圧を分散させる。同時に、声をかける機会になる
- 倒しているときも、目線の高さに回り込んで話しかける
- 食事のときは起こす。そのために離床の時間を組み直す
- 定期的に「起こせるか」を試す。状態が良くなることもあります
ティルトとリクライニングの使い分けと、倒したあとの背抜き・尻抜きはティルトとリクライニングは別のものに。 ティルトの方の食事介助の12手順も、そこにあります。
状態べつ 早見表 — まず考える車いす
| その方の状態 | まず考える車いす |
|---|---|
| 自分でこげる/座位が保てる | 標準型(自走)。替えない。こげる力を守る |
| こげないが、座位は保てる | 介助型(+合うクッション) |
| 体格が標準から外れる/姿勢が少し崩れる | モジュール型で寸法を合わせる |
| ずり落ちる・仙骨座りになる | まずクッションと座り直し → だめならモジュール → だめならティルト |
| 体幹を起こしていられない/頭が保てない | ティルト式(+ヘッドサポート) |
| 血圧低下・呼吸苦・股関節が曲がらない | リクライニング式 |
| 座位保持困難+嚥下や呼吸で角度調整が必要 | ティルト+リクライニング |
| 変形・拘縮が強く、既製品で支えられない | 座位保持装置(オーダーメイド)。リハビリ職・専門相談員へ |
| 手は使えないが、判断力は保たれている | 電動(施設のルールと安全確認が必要) |
「自分でこがなくなった」→「介助型に替えよう」——ここだけは、順番を逆にしないでください。 こげなくなった理由が、タイヤの空気や座面の高さだったことがあります。介助型に替えたら、その方は二度と自分では動けません。 くわしくは車いすの替えどき 16のサインの12番に。
まとめ
- ティルトは上位互換ではない。倒すたびに、できることを失う
- 順番は①クッション・座り直し → ②寸法 → ③支えを足す → ④ティルト。1と2を飛ばさない
- リクライニングは理由が別。ずり落ち対策には使わない
- 失うのは6つ。いちばん怖いのは「動かない人」として扱われること
- 替えるなら「クッションを替えて2週間みた」の記録を持って
- 問いはひとつ。「今できていることを、1つでも奪っていないか」
やさしい 日本語(にほんご)
1 ティルトは、「いい 車(くるま)いす」では ありません
⚠ たおすと、その 人(ひと)が できて いた ことが、へります。
じぶんで うごく。まわりを 見(み)る。じぶんで 食(た)べる。人と 話(はな)す。
2 ずり落(お)ちる ときは、この じゅんばん
- ① クッションを 見る。へたって いないか。うらがえしでは ないか
- ② 大(おお)きさが あって いるか。指(ゆび)で はかる
- ③ ささえる。クッションや パッドを 足(た)す
- ④ それでも だめなら、ティルト
⚠ ①と ②を とばしません。
3 あなたが すること
◎ 「あって いない かも」と 気(き)づいて、報告(ほうこく)します。
◎ 車いすを 直(なお)すのは、専門(せんもん)の 人の しごとです。あなたは 直しません。
Điều chỉnh xe lăn là việc của chuyên viên. Bạn chỉ cần phát hiện và báo cáo.
4 ティルトの 人にも
◎ ごはんと レクの ときは、おこします。
◎ 2時間(じかん)に 1回(かい)、角度(かくど)を かえます。
◎ 話す ときは、目(め)の 高(たか)さに まわりこみます。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、現場(げんば)の きまりに ついて 書(か)いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
ふりがなと やさしい 日本語は、この 研究所(けんきゅうじょ)が つけた ものです。ベトナム語は 参考訳(さんこうやく)です。まちがいが あれば、教(おし)えて ください。
あわせて読む
根拠にした資料
- 『介護事故防止 実務マニュアル』巻末付録C「車いすの選び方と、替えどき」(選ぶ順番、状態べつ早見表、倒すと何を失うのか、失わないための工夫)本のご案内
- 車いす・クッション・装具の各メーカーが公表している取扱説明書と、適合の考え方
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。