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起きたあと、どこから考えるか

車いすから落ちたとき、どこから考えるか

落ちた。けがはなかった。でも——なぜ落ちたのかが分からない。

車いすの設定が合っていなかったのか。その方の体調が変わっていたのか。 見守りが足りなかったのか。申し送りで伝わっていなかったのか。
要素が多すぎて、どこから手をつけていいか分からない。

先に書いておきます。原因は、1つに決まりません。 たいてい、いくつも重なっています。
ですから、この記事は答えを出すものではありません。 5つの方向に分けて、順番に確かめるための記事です。

最終更新:2026年8月 / 高齢者支援実務研究所

もくじ

  1. 1つの原因に決めないでください
  2. 5つの方向に分けて確かめる
  3. ① 用具・設定 — いちばん先に確かめる
  4. ② その方の変化
  5. ③ 環境
  6. ④ 手順・見守り
  7. ⑤ 体制・人数・伝達
  8. 確かめたことを、記録に残す
  9. まとめ

1つの原因に決めないでください

事故が起きると、原因を1つに決めたくなります。報告書にそう書く欄があるからです。 でも、実際にはいくつもの要素が重なっています。

座面のクッションがへたっていて、その日は体調が悪くて力が入らず、 たまたま職員が別の方の対応で離れていて、前日に「最近ずり落ちる」と気づいた人がいたけれど申し送りに残っていなかった—— これが同時に起きている、というのが普通です。

1つに決めると、残りの4つが放置されます。

そして、同じことがまた起きます。「対策したのに、また起きた」の多くは、これです。

やってはいけないのは、人に原因を求めることです。
「見ていなかったから」で終わらせると、対策は「見守りを強化する」になります。 これは実行できません。そして、次から報告されなくなります。

5つの方向に分けて確かめる

この順番で確かめてください。①から順に見るのには理由があります。 ①がいちばん今日変えられるもので、⑤に行くほど時間がかかるからです。

車いすから落ちた ① 用具・設定 クッション 座面の高さ フットサポート ブレーキ 今日変えられる ② その方の変化 体調・発熱 薬の変更 座位保持力 痛み・認知 看護師と確認 ③ 環境 床・段差 置き場所 照明・時間帯 まわりの物 今日変えられる ④ 手順・見守り 誰が・何分 離れた理由 手順の有無 座り直しの間隔 手順にできる ⑤ 体制・伝達 その時間の人数 申し送り 記録が読まれたか 応援を呼べたか 時間がかかる 複数あてはまるのが普通です。1つに決めないでください。
図:原因を1つに決めず、5つの方向に分解する

① 用具・設定 — いちばん先に確かめる

1用具・設定

なぜ最初か。今日、その場で変えられるからです。そして意外なほど、ここに原因があります。

当てはまったら → 車いすの替えどき 16のサイン  寸法が合っているか、指とこぶしで測る  座面クッションが合っていないと、何が起きるか

「クッションを替えたら、ずり落ちが止まった」——これは実際によくあります。
車いすを替える前に、まずクッションです。ここを飛ばして車いすを替えると、新しい車いすでも同じことが起きます。

② その方の変化

2その方の変化

「いつもと違うこと」がなかったか。本人は言いません。記録と、そばにいた人の記憶が頼りです。

当てはまったら → 看護師へ相談。 車いすの替えどき 16のサイン  車いすが合っているかを調べる

「最近こうなった」は、いちばん大事な情報です。 そして、たいてい誰かが気づいています。気づいた人が言えていないだけです。
カンファレンスでは、必ずふだんその方を見ている職員に聞いてください。

③ 環境

3環境

その場所を、実際に行って見てください。報告書の文字だけでは分かりません。

当てはまったら → その日のうちに直せます。直したことを記録に書いてください。

④ 手順・見守り

4手順・見守り

ここで「誰が悪かったか」を聞かないでください。聞くのは「手順が決まっていたか」です。

当てはまったら → 手順にしてください。「気をつける」ではなく「2時間ごとに座り直す」と書く。 再発防止策に「見守りを強化する」と書いてはいけない理由

「離れた理由」を、隠さないでください。
「オムツを取りに行った」なら、対策は「始める前に全部そろえる」になります。 「別の方に呼ばれた」なら、対策は人の配置の話になります。
理由が書かれないと、対策が「注意する」にしかなりません。

⑤ 体制・人数・伝達

5体制・人数・伝達

いちばん変えにくい方向です。でも、書かなければ永久に変わりません。

当てはまったら → そのまま記録に書いてください。 ヒヤリハットは3行でいい  申し送りが速くて聞き取れないとき

「その時間、ひとりで何人を見ていましたか」——カンファレンスで、必ずこれを聞いてください。
答えが「12人」なら、それは職員の注意力の問題ではありません。 そして、その数字が10回たまったとき、はじめて配置の話ができます。

確かめたことを、記録に残す

ここまで確かめても、「これが原因でした」とは書けません。それでいいのです。

かわりに、こう書いてください。

記録の例
「原因は特定できていない。確認した内容は以下のとおり。
①用具:座面クッションのへたりを確認。本日交換した。ブレーキ・空気圧に異常なし
②本人:3日前から座位保持時間が短くなっていたとの職員の気づきあり。看護師へ報告済み
③環境:床の濡れなし。ベッド脇の位置を変更した
④手順:座り直しの間隔が決まっていなかった。2時間ごとと決めた
⑤体制:当該時間帯の職員1名、対応人数11名。記録に残す
→ 今回は①と④を変更する。1か月後に再評価。

答えは出ません。
でも「どこを確かめたか」は残ります。

次に同じことが起きたとき、確かめていない方向から探せます。 これが、同じ議論をくり返さないための、唯一の方法です。

変えるのは、1つか2つだけ

5つ全部を変えようとすると、何も実行されません。 今日変えられるもの(①と③)から、1つか2つ選んでください。

✕ こう書くと動かない

「見守りを強化する」
「情報共有を徹底する」
「職員間の連携を密にする」

誰が・いつまでに・何をするかが、ありません。忙しい日には元に戻ります。

〇 こう書くと動く

「クッションを交換した(8/25・〇〇)」
「座り直しを2時間ごとと決めた(8/26から)」
「当該時間の対応人数を記録に残す」

物と数字と期限があります。

まとめ

この方は、どこに気をつける?

利用者さんの状態を選ぶと、注意すべきことがまとまって出ます。印刷して、カンファレンスの資料に使えます。

車いすが合っているか調べる → カンファレンス進行シート

根拠にした資料

個人の経験ではなく、公表されている資料をもとに整理しています。
  • 厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」
  • 厚生労働省「介護保険施設等における事故の報告様式等について」
  • 医療・介護ベッド安全普及協議会「医療・高齢者施設におけるベッドの安全な使い方」
この記事について 一般的な情報提供を目的としています。医療・介護の判断を代替するものではありません。 施設によって、利用者さんによって、正しいやり方は変わります。ここに書いたことが、そのまま当てはまるとは限りません。 車いす・クッションの選定と調整は、理学療法士・作業療法士・福祉用具専門相談員の評価によります。 実際の対応は、所属施設の規程および、医師・看護師の指示に従ってください。 行政への事故報告の基準は自治体により異なります。
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。