ティルトとリクライニングは別のもの ——順番を間違えると、ずり落ちと誤嚥が両方増える
「倒す」と一言で言っていませんか。 リクライニングは、背もたれ「だけ」が倒れます。ティルトは、座面と背の角度を保ったまま、全体が傾きます。 この2つは、体に起きることが正反対です。
混同していると、ずり落ちと誤嚥が、どちらも増えます。 そして、どちらの場合も、角度を変えたあとに「背抜き・尻抜き」をしないと、背中とおしりに、あざと褥瘡ができます。 この記事は、2つの違いと、両方ついている機種の正しい順番、角度を変えたあとの10秒の手順をまとめたものです。
もくじ
何が違うのか — 骨盤の角度が変わるか、変わらないか
| 体に起きること | |
|---|---|
| リクライニング 背もたれ「だけ」が倒れる。座面は水平のまま | 背中と背もたれがこすれて「ずれる」。骨盤が後ろに倒れ、仙骨座り・ずり落ちになる。あごが上がる。→ 角度を変えたら、必ず背抜き・尻抜き |
| ティルト 座面と背の角度を保ったまま、全体が傾く | 骨盤の角度が変わらない。だからずり落ちにくい。まずティルトで骨盤を安定させる——それが先 |
リクライニングは「ずれる」。ティルトは「ずれない」。違いはこれだけです。
ただし、ティルトも倒せば頭は後ろに落ちます。枕で後頭部を支えなければ、倒すこと自体が誤嚥の原因になります。
リクライニングは、ずり落ち対策の道具ではありません。血圧が下がりやすい、呼吸が苦しい、股関節が曲げにくい、経管栄養で角度が必要——こうした理由で使うものです。 ずり落ちる方をリクライニングで倒すと、かえってずり落ちます。 どの機種を、どの順番で考えるかはティルトは上位互換ではないに書きました。
両方ついている機種の、正しい順番
- ① まずティルトで倒して、骨盤を安定させる。座面ごと傾けるので、体が前にずれません
- ② そのあとリクライニングで角度を微調整する。食べやすい角度、呼吸が楽な角度に合わせる
- ③ 角度を変えたら、必ず背抜き・尻抜きをする
リクライニングだけを先に倒す。
→ 体が前にずれて仙骨座りになり、あごが上がります。誤嚥もずり落ちも、両方増えます。倒したのに、かえって危なくなります。
ティルトが先、リクライニングが後。戻すときも、ティルトを先に戻してから。
→ 骨盤が動かないので、体がずれません。チームで順番をそろえることが、いちばんの対策です。
角度は「何度」ではなく「何が弱いか」で決めます。倒せば倒すほど安全、ではありません。 倒すと、食べ物が見えなくなり、自分で食べる機会も奪われます。原則は「安全が確保できる範囲で、できるだけ起こす」。 その方の角度は看護師・ST・栄養士と決めて、車いすの背に「30度」とラベルを貼るのがいちばん確実です。担当者の感覚で角度が変わることが、いちばん危険な状態です。
背抜き・尻抜き — 10秒で、あざと誤嚥の両方を防ぐ
角度を変えると、背中と背もたれの間、おしりと座面の間に「ずれ」がたまります。 これを抜くのが背抜き・尻抜きです。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 角度を変えたあと、上体を少し前に起こす(または横に傾ける) |
| 2 | 背中と背もたれの間に手を入れて、上から下へすべらせ、ずれを抜く |
| 3 | おしりの下にも手を入れて、同じようにずれを抜く |
| 4 | もとの角度に戻す |
これをしないと、2つのことが同時に起きます。皮ふがこすれて、背中・おしりに内出血と褥瘡ができる。そして体が前にずれて、あごが上がる(誤嚥)。 背抜きは、あざの対策であり、同時に誤嚥の対策でもあります。10秒で終わります。
おしり・背中のあざが多い方は、角度と背抜きを見てください。 背中のあざが多い方は、誤嚥も起きている可能性があります。同じ「姿勢が崩れている」という原因が、口では誤嚥として、皮ふではあざとして現れます。 あざの側からは原因のわからないあざが増えるとき、まず見る5つのことに。
ティルトの方の食事介助 — 12の手順
ティルト車いすの方は、ふつうの車いすの方より、食事のリスクが高くなります。理由は3つ。 そもそも飲み込む力が弱いからティルトを使っている。角度を職員が決めていて、本人は直せない。倒すと頭が後ろに落ちる。
| 順 | やること |
|---|---|
| 1 | 覚醒を確認する。傾眠なら始めない |
| 2 | まずティルトを起こして、深く座り直してもらう(骨盤を立てる) |
| 3 | 足底を接地させる。フットサポートか床に。宙ぶらりんは体幹が安定しない |
| 4 | ティルトで、決められた角度まで倒す(座面ごと傾ける) |
| 5 | 枕・クッションで後頭部と首の後ろを支える。あごと胸骨の間に、指3〜4本 |
| 6 | 背抜き・尻抜きをする |
| 7 | 体が左右に傾いていないか。麻痺側に倒れていないか |
| 8 | テーブルの高さ。ひじが乗る程度。高すぎると肩が上がる |
| 9 | 介助者は座る。目線を同じか低い位置に |
| 10 | 食べ物を見せてから運ぶ。倒れていると見えない |
| 11 | 食後、30分〜1時間は起こしたまま。すぐ倒さない |
| 12 | 倒すときも、ティルトを先に戻してから |
「30度にしたから安全」ではありません。「30度+あごを軽く引く」で、はじめて安全です。
倒すと、頭は背もたれと同じ角度まで後ろに落ちます。すると あごが上を向き、口からのどまでが一直線になります。
後頭部を枕で支えて、あごと胸の間に指3〜4本分——うなずくときの あごの位置です。体を前かがみにする、という意味ではありません。
Khi ngả ghế, PHẢI dùng gối đỡ sau gáy. Nếu không, đầu ngửa ra sau và càng dễ sặc hơn.
立ったまま上から食べさせると、利用者さんはあなたの顔を見ようとして あごを上げます。 枕をどれだけ工夫しても無駄になります。座るのに3秒。それで誤嚥の確率が変わります。いすを人数分、食堂に置いておいてください。 むせない誤嚥のことはむせない誤嚥(不顕性誤嚥)に。
やってはいけないこと
- 倒したまま、そのまま食べさせ始める。骨盤が崩れたままです
- 枕なしで倒す。あごが上がります
- 担当者の感覚で角度を変える。決められた角度に戻す
- 食後すぐにフラットにする。逆流します。むせない誤嚥の原因
- 足が宙ぶらりんのまま食べさせる
| 状態 | 起きること |
|---|---|
| 倒したまま長時間 | 仙骨・尾骨・背中に圧が集中。褥瘡と内出血の原因。→ 2時間ごとに角度を変える/起こす |
| 背抜きをしていない | 皮ふがこすれ続ける。おしり・背中のあざは、ここからできていることがある |
| ずり落ちたまま | 足がフットサポートに乗り上げてすねに当たる。同時にあごが上がる |
| アームサポートに寄りかかる | 傾いた側のひじ・上うでにあざができる |
まとめ
- リクライニング=背だけ倒れる=ずれる。ティルト=全体が傾く=ずれない
- 両方ある機種は、ティルトが先、リクライニングが後。戻すときも、ティルトを先に
- 角度を変えたら、背抜き・尻抜き。10秒。あざと誤嚥の両方の対策
- 倒すなら、必ず枕とセット。あごと胸の間に指3〜4本
- 角度は「何度」ではなく「何が弱いか」で決め、車いすの背にラベルを貼る
- 介助者は座る。食後30分〜1時間は起こしたまま
やさしい 日本語(にほんご)
1 「たおす」は、2つ あります
◎ リクライニング:せなかの ところ だけが たおれます。→ 体(からだ)が ずれます。
◎ ティルト:いす ぜんぶが かたむきます。→ 体は ずれません。
2 じゅんばん
◎ ティルトが 先(さき)。リクライニングは あと。
⚠ リクライニングを 先に たおすと、体が 前(まえ)に ずれて、あごが 上(あ)がります。
3 たおしたら、「背抜(せぬ)き」を します
◎ せなかと いすの あいだに 手(て)を 入(い)れて、上から 下へ すべらせます。おしりも 同(おな)じ。
◎ 10秒(びょう)で おわります。あざと 誤嚥(ごえん)を、どちらも ふせぎます。
Sau khi đổi góc ngả, phải "rút lưng, rút mông" — chỉ mất 10 giây.
4 たおす ときは、まくらも
⚠ まくらが ないと、あごが 上がります。あごと むねの あいだに、指(ゆび)3〜4本(ほん)。
⚠ 角度(かくど)は、じぶんで きめません。きまった 角度に します。いすに 書(か)いて あります。
5 ごはんの とき
◎ おこして、深(ふか)く すわり直(なお)してから、きまった 角度に たおします。
◎ あなたは すわって 介助(かいじょ)します。
⚠ ごはんの あと、すぐ たおしません。30分は おこした まま。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、現場(げんば)の きまりに ついて 書(か)いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
ふりがなと やさしい 日本語は、この 研究所(けんきゅうじょ)が つけた ものです。ベトナム語は 参考訳(さんこうやく)です。まちがいが あれば、教(おし)えて ください。
あわせて読む
根拠にした資料
- 『介護事故防止 実務マニュアル』巻末付録A「食事の姿勢/介助レベルべつの誤嚥リスク」(角度の決め方、頸部前屈位、ティルトとリクライニングの違い、背抜き・尻抜き、ティルト車いすでの食事介助の手順)本のご案内
- 車いす各メーカーが公表している、ティルト・リクライニング機構の取扱説明書(操作の順序、挟み込みの注意)
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。