出口が遠い・鍵がかかる・声が届かない ——一人で入る家の備え
施設なら、廊下に出れば誰かがいます。訪問先では、あなた一人です。
それは、利用者さんに何かあったときだけの話ではありません。あなた自身に何かあったとき——怒鳴られた、体を触られた、鍵をかけられた、犬に噛まれた、出口が遠い部屋に閉じ込められた——助けを呼ぶ人が、その場にいません。
この記事は、一人で入る家に、何を持って、何を決めて、どこに立つかを整理したものです。怖がらせるためではありません。備えがあると、怖くなくなるからです。厚生労働省のハラスメント対策マニュアルにある「訪問系サービスの備え」を土台にしています。
もくじ
一人訪問の危険は、4つに分けられます
| 危険 | 例 |
|---|---|
| ① 人 | 利用者さん・ご家族からの暴言・暴力・体を触る・つきまとう。訪問介護では、この1年に利用者からハラスメントを受けた職員が3人に1人(→ハラスメントの記事) |
| ② 場所 | 出口が遠い部屋、鍵が内側からしか開かない、声が外に届かない、足の踏み場がない、暗い、物が高く積まれている |
| ③ 動物・物 | 犬・猫に噛まれる、ひっかかれる。ペットトラブルは、訪問の事故の中に実際に上がっています。ガスの元栓、たばこの火、灯油 |
| ④ 自分 | 体調が悪いのに一人で入る。暑さ、寒さ、移動の疲れ。倒れても、気づく人がいない(→ヘルパー自身のけが) |
4つに分けると、備えも4つに分かれます。①は事業所との連絡と離れる線、②は入る前の1分、③は聞いておくこと、④は自分の体の管理です。
事業所が用意しておくべきもの ——それを知っておく
厚生労働省のハラスメント対策マニュアルは、訪問系サービスの事業所に、次のような備えを挙げています。これは事業所がやることですが、あなたが「あるかどうか」を知っておくことが、備えの第一歩です。
| マニュアルが挙げているもの | あなたが確かめること |
|---|---|
| 訪問中の職員と、定時または随時に事業所と電話連絡をとれる体制 | 訪問中に事業所へかける番号は、すぐ出せるか。「〇時に連絡がなければ事業所からかける」という決まりがあるか。夜間・土日は誰につながるか |
| 警報機付きブザーの支給(周囲に知らせる自衛の道具) | 渡されているか。どこに付けるか(かばんの奥では意味がない)。鳴らしたあと、どうするか |
| 管理者等の同行、複数人の派遣の検討 | 「この方は2人で」を、誰に、どう言えば検討してもらえるか(→§6) |
| 事前の情報の共有(前の事業所でのハラスメント、家族の状況) | 初回訪問の前に、知っておくべきことを聞いたか。「気になる点はありますか」と一言 |
| 職員の個人情報を利用者・家族に伝えない | 自分の電話番号・住所・家族構成・SNSを聞かれても答えないと決めておく。「事業所を通してください」 |
あわせて、基準省令には、事業者が職場のハラスメントを防ぐための方針を明確にするなどの必要な措置を講じることが定められています。解釈通知は、利用者やご家族からのカスタマーハラスメントの防止についても、相談体制・被害者への配慮・被害防止の取組が望ましいとしています。「こういう備えがある事業所が、決まりの上でも求められている」——そう知っていると、事業所に聞きやすくなります。
◎ 聞き方の例。「訪問中に何かあったとき、事業所へ電話する順番と番号を、もう一度確かめさせてください」「ブザーは支給されていますか」「この方について、前の事業所から引き継いだ注意点はありますか」——怖がっているのではなく、手順を確かめている言い方です。
入る前に ——1分で見ること
初回でも、100回目でも、玄関に入ってからの1分で見ることは同じです。変わっているかどうかを見ます。
- 出口。玄関のほかに出られる場所(勝手口・窓)はどこか。今日、そこまで行けるか(物で塞がれていないか)
- 鍵。玄関の鍵は、内側からすぐ開けられる型か。チェーンや二重ロックがかかっていないか。かかっていたら、外しておいてよいか聞く
- 人。誰がいるか。いつもいないはずの人がいる、いつもいる人がいない——どちらも情報
- 様子。ご本人・ご家族の声の大きさ、酔っているか、においは(ガス・たばこ・灯油)
- 動物。どこにいるか。作業中はどこにいてもらうかを、その場で決める
- 電話。自分の電話がすぐ出せる場所にあるか(ポケット。かばんの底ではなく)
⚠ 「いつもと違う」と感じたら、入る前に事業所に一報していい。「〇〇様のお宅に着きました。いつもと違って〇〇です。入ります」——それだけで、事業所があなたの居場所と状況を知っている状態になります。何も起きなければ、それでいいのです。
中で ——立つ場所と、離れる線
立つ場所
- 出口とご本人の間に、自分が立つ。相手と出口の間に自分がいれば、いつでも出られます。奥の部屋に先に入らない
- 作業で奥に入るときは、ドアを閉め切らない
- ご家族と2人だけになる場所(台所の奥、寝室)に、長くとどまらない。用が済んだら移動する
- 入浴介助は出口側に自分。浴室の鍵はかけない
離れる線 ——ここを越えたら、作業を止めて出る
あらかじめ、自分の中で線を引いておきます。その場で考えると、迷います。
| こうなったら | こうする |
|---|---|
| 手が出た。物が飛んできた。刃物が見えた | その場で作業を止めて、出る。「事業所に連絡します」と言って、玄関へ。外から事業所に電話。けがをしたなら119か110も。ためらわない |
| 体を触られた。抱きつかれた。性的な話が止まらない | 「やめてください」と1回はっきり言う。止まらなければ出る。「我慢して続ける」は、あなたの仕事に入っていません |
| 怒鳴られている。止まらない | 反論しない。謝り続けない。「事業所から改めてご連絡します」と言って、距離を取る。出口に近づく。収まらなければ出る |
| 鍵をかけられた。出るのを止められた | 「開けてください」と言う。開かなければ電話で事業所、つながらなければ110。ブザーがあれば鳴らす。これは「大げさ」ではありません |
| 動物が向かってきた。噛まれた | 作業を止め、別の部屋に入れてもらう。噛まれたら、洗って、事業所に電話。受診の判断は事業所と。動物の噛み傷は軽く見ないこと |
| 自分の体調が急に悪くなった | 座る。事業所に電話。「続けられるか分からない」と言っていい。無理に続けて倒れるほうが、ご本人にとっても危険です |
途中で帰ることは、サービスの放棄ではありません。あなたの安全がなくなった時点で、サービスは続けられないのです。
「途中で帰った」の記録と報告があれば、事業所とケアマネジャーが次を考えます。あなたがその場で全部を収める必要はありません。
Đứng giữa người dùng và cửa ra. Nếu bị đánh, bị sờ, bị khóa cửa: dừng việc, ra ngoài, gọi cơ sở (hoặc 110/119). Về giữa chừng không phải là bỏ việc.
出るとき ——「帰ります」と言ってから帰る
- 火と水と鍵。コンロ、ストーブ、蛇口、窓の鍵。自分が触ったものは、元に戻したか
- ご本人の位置。いすに座っているか、ベッドにいるか。立ったまま置いて帰らない
- 「帰ります」と声に出して言う。返事を聞く。この返事が、帰ったときの状態の記録になります
- 合鍵は事業所の手順どおりの場所へ。戻したかどうか、車に乗る前に指で確かめる
- 事業所への「終わりました」の連絡が決まりにあるなら、車に乗ってから。決まりがなくても、いつもと違うことがあった日は入れる
2人で行く、という選択肢
介護報酬には、利用者またはご家族の同意を得たうえで、2人の訪問介護員で訪問した場合の決まりがあります。対象になる場面は、告示に3つ挙がっています。
- 利用者の身体的な理由で、1人では介護が難しい場合
- 暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為などが認められる場合
- その他、これらに準ずると認められる場合
つまり、暴力や著しい迷惑行為があるときに2人で行くことは、制度の中に、はじめから入っています。マニュアルも「管理者等の同行、複数人の派遣などを検討」と書いています。
⚠ ただし、2人で行くと利用者負担も増えるため、ご本人やご家族が断ることがあります。マニュアルも、その点を挙げて「家族等に説明して理解を得る」ことを書いています。だから、あなたが「2人にしてください」と言えば必ずそうなる、という話ではありません。決めるのは事業所とケアマネジャーとご本人です。あなたにできるのは、2人が必要だと思った理由を、具体的に書いて渡すことです。
書き方はヒヤリハットと同じです。「〇日 〇時 〇〇様宅。ご家族から〇〇と言われ、〇〇された。作業を止めて〇〇した。1人での訪問は難しいと感じた」——「感じた」を書いていいのです。それが積み重なれば、事業所は動けます。
帰ってから ——書く、言う、休む
- 書く。何があったかを、記録とヒヤリハットに。言われた言葉は「 」で、そのまま。あなたの感情は「怖いと感じた」と1行でよい
- 言う。サービス提供責任者か管理者に、その日のうちに。「たいしたことではないかもしれませんが」と前置きしていい。言わないと、次に行く人が同じ場面に立ちます
- 休む。怒鳴られたあと、触られたあと、体は緊張しています。次の訪問の前に5分、車の中で息をする。それも仕事の一部です
- 一人で抱えない。マニュアルの調査では、ハラスメントを受けてけがや病気になった職員が1〜2割、辞めたいと思った職員が2〜4割います。あなただけではありません。相談窓口(事業所・都道府県の相談窓口)を知っておく
◎ 「自分が我慢すれば収まる」「自分が未熟だから」——マニュアルは、職員がそう考えて一人で抱え込みがちなことを、課題として書いています。そう思ったときこそ、書いて、言ってください。それは弱さではなく、事業所が知るべき情報です。
まとめ
- 一人訪問の危険は①人 ②場所 ③動物・物 ④自分の4つ。備えも4つ
- 事業所の備え(連絡体制・ブザー・同行や複数人派遣の検討・事前情報・個人情報を伝えない)を、あるかどうか知っておく。事業者にはハラスメント防止の措置が求められている
- 入る前の1分:出口・鍵・人・様子・動物・電話。いつもと違えば、入る前に一報
- 中では出口とご本人の間に立つ。奥の部屋のドアを閉め切らない
- 離れる線をあらかじめ決める。手が出た・触られた・鍵をかけられた → 止めて、出て、電話。途中で帰ることは放棄ではない
- 出るときは火・水・鍵・ご本人の位置を見て、「帰ります」と声に出す
- 2人訪問は制度の中にある(身体的理由/暴力・著しい迷惑行為・器物破損など)。ただし決めるのは事業所・ケアマネジャー・ご本人。必要だと思った理由を書いて渡す
- 帰ったら書く・言う・休む。一人で抱えない
やさしい 日本語(にほんご)
1 ⚠ 訪問(ほうもん)先(さき)では、あなたは ひとりです
◎ だから、先に そなえます。そなえが あると、こわく なくなります。
2 ◎ じぎょうしょに 聞(き)いて おく こと
- 訪問中(ちゅう)に 電話(でんわ)する 番号(ばんごう)。夜(よる)と 土日(どにち)は だれに つながるか
- ブザーは あるか。どこに つけるか
- この方(かた)に ついて、気(き)を つける ことは あるか
- ◎ じぶんの 電話番号・住所(じゅうしょ)は、聞かれても 言(い)いません。「じぎょうしょを 通(とお)して ください」
3 ◎ 入(はい)る 前(まえ)に、1分(ぷん)で 見(み)る
- 出口(でぐち)は どこか。行(い)けるか
- かぎは 中(なか)から すぐ 開(あ)くか
- だれが いるか。いつもと ちがうか
- 犬(いぬ)・ねこは どこか
- 電話は ポケットに。かばんの 底(そこ)では なく
◎ いつもと ちがったら、入る 前に じぎょうしょに 電話して いいです。
4 ◎ 中では、出口と ご本人(ほんにん)の 間(あいだ)に 立(た)つ
◎ おくの 部屋(へや)の ドアは、しめきりません。
5 ⚠ こう なったら、やめて、出て、電話
- たたかれた。物(もの)が とんで きた。刃物(はもの)が 見えた
- 体(からだ)を さわられた。「やめて ください」と 言っても 止(と)まらない
- どなられて、止まらない
- かぎを かけられた → 電話。つながらなければ 110
- 犬に かまれた → あらって、電話
- じぶんの 体が わるく なった → すわる。電話。
◎ とちゅうで 帰(かえ)る ことは、しごとを すてる ことでは ありません。あなたが あんぜんで なければ、しごとは できません。
6 ◎ 出る とき
◎ 火(ひ)・水(みず)・かぎ・ご本人の 場所(ばしょ)を 見る。「帰ります」と 声(こえ)に 出して 言う。へんじを 聞く。
7 ◎ 2人(ふたり)で 行く ことも できます
◎ 暴力(ぼうりょく)や ひどい めいわくが ある とき、2人で 行く きまりが あります。⚠ きめるのは じぎょうしょと ケアマネジャーと ご本人です。あなたは、「ひとりでは むずかしいと 思(おも)った」と 書(か)いて わたします。
8 ◎ 帰ったら、書く・言う・休(やす)む
◎ 言われた ことばは、そのまま 書く。その日(ひ)の うちに、サービス提供責任者(ていきょうせきにんしゃ)に 言う。つぎの 訪問の 前に、5分 休む。ひとりで かかえません。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、現場(げんば)の きまりに ついて 書(か)いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
ふりがなと やさしい 日本語は、この 研究所(けんきゅうじょ)が つけた ものです。まちがいが あれば、教(おし)えて ください。
あわせて読む
「こわい」「一人で行きたくない」から入れます。いずれも一例です。事業所の規程と市町村の要領に合わせて読み替えてお使いください。
困りごとから調べる → 困りごとから調べる根拠にした資料
- 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」令和4年3月改訂版 および同「介護現場におけるハラスメント事例集」令和4年3月(平成30年度老人保健健康増進等事業「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究」の実態調査を含む) ——訪問系サービスの備え(定時・随時の電話連絡体制、警報機付きブザー、管理者等の同行・複数人派遣の検討、2人派遣を利用者が拒否するケースへの説明)、職員が一人で抱え込みがちであること、けが・病気1〜2割、辞めたいと思った2〜4割
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号) 第30条第4項(職場におけるハラスメント防止のための必要な措置)・第37条(事故発生時の対応)
- 厚生労働省「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」平成11年9月17日 老企第25号(解釈通知) ——カスタマーハラスメント防止のため、相談体制の整備・被害者への配慮・被害防止の取組が望ましいこと
- 厚生労働大臣が定める基準に適合する利用者等(平成27年厚生労働省告示第94号)第3号 ——2人の訪問介護員等による訪問介護の対象(利用者又はその家族等の同意を得ている場合であって、イ 身体的理由/ロ 暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等/ハ その他準ずる場合)
- 厚生労働省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準…の制定に伴う実施上の留意事項について」平成12年3月1日 老企第36号 ——2人の訪問介護員等による訪問介護の取扱い
- 公益財団法人介護労働安定センター「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書(平成29年度老人保健健康増進等事業、平成30年3月)——福祉共済制度(賠償責任補償)の事故報告676件の分析 ——訪問サービスの事故にペットトラブル(訪問先のペットに噛まれた)2.8%
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。