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一人訪問の備え

出口が遠い・鍵がかかる・声が届かない ——一人で入る家の備え

施設なら、廊下に出れば誰かがいます。訪問先では、あなた一人です。

それは、利用者さんに何かあったときだけの話ではありません。あなた自身に何かあったとき——怒鳴られた、体を触られた、鍵をかけられた、犬に噛まれた、出口が遠い部屋に閉じ込められた——助けを呼ぶ人が、その場にいません。

この記事は、一人で入る家に、何を持って、何を決めて、どこに立つかを整理したものです。怖がらせるためではありません。備えがあると、怖くなくなるからです。厚生労働省のハラスメント対策マニュアルにある「訪問系サービスの備え」を土台にしています。

やさしい日本語で読むくわしく読む

最終更新:2026年9月 / 高齢者支援実務研究所

もくじ

  1. 一人訪問の危険は、4つに分けられます
  2. 事業所が用意しておくべきもの ——それを知っておく
  3. 入る前に ——1分で見ること
  4. 中で ——立つ場所と、離れる線
  5. 出るとき ——「帰ります」と言ってから帰る
  6. 2人で行く、という選択肢
  7. 帰ってから ——書く、言う、休む
  8. まとめ

一人訪問の危険は、4つに分けられます

危険
① 人利用者さん・ご家族からの暴言・暴力・体を触る・つきまとう。訪問介護では、この1年に利用者からハラスメントを受けた職員が3人に1人(→ハラスメントの記事
② 場所出口が遠い部屋、鍵が内側からしか開かない、声が外に届かない、足の踏み場がない、暗い、物が高く積まれている
③ 動物・物犬・猫に噛まれる、ひっかかれる。ペットトラブルは、訪問の事故の中に実際に上がっています。ガスの元栓、たばこの火、灯油
④ 自分体調が悪いのに一人で入る。暑さ、寒さ、移動の疲れ。倒れても、気づく人がいない(→ヘルパー自身のけが

4つに分けると、備えも4つに分かれます。①は事業所との連絡と離れる線、②は入る前の1分、③は聞いておくこと、④は自分の体の管理です。

事業所が用意しておくべきもの ——それを知っておく

厚生労働省のハラスメント対策マニュアルは、訪問系サービスの事業所に、次のような備えを挙げています。これは事業所がやることですが、あなたが「あるかどうか」を知っておくことが、備えの第一歩です。

マニュアルが挙げているものあなたが確かめること
訪問中の職員と、定時または随時に事業所と電話連絡をとれる体制訪問中に事業所へかける番号は、すぐ出せるか。「〇時に連絡がなければ事業所からかける」という決まりがあるか。夜間・土日は誰につながるか
警報機付きブザーの支給(周囲に知らせる自衛の道具)渡されているか。どこに付けるか(かばんの奥では意味がない)。鳴らしたあと、どうするか
管理者等の同行、複数人の派遣の検討「この方は2人で」を、誰に、どう言えば検討してもらえるか(→§6
事前の情報の共有(前の事業所でのハラスメント、家族の状況初回訪問の前に、知っておくべきことを聞いたか。「気になる点はありますか」と一言
職員の個人情報を利用者・家族に伝えない自分の電話番号・住所・家族構成・SNSを聞かれても答えないと決めておく。「事業所を通してください」

あわせて、基準省令には、事業者が職場のハラスメントを防ぐための方針を明確にするなどの必要な措置を講じることが定められています。解釈通知は、利用者やご家族からのカスタマーハラスメントの防止についても、相談体制・被害者への配慮・被害防止の取組が望ましいとしています。「こういう備えがある事業所が、決まりの上でも求められている」——そう知っていると、事業所に聞きやすくなります。

聞き方の例。「訪問中に何かあったとき、事業所へ電話する順番と番号を、もう一度確かめさせてください」「ブザーは支給されていますか」「この方について、前の事業所から引き継いだ注意点はありますか」——怖がっているのではなく、手順を確かめている言い方です。

入る前に ——1分で見ること

初回でも、100回目でも、玄関に入ってからの1分で見ることは同じです。変わっているかどうかを見ます。

「いつもと違う」と感じたら、入る前に事業所に一報していい。「〇〇様のお宅に着きました。いつもと違って〇〇です。入ります」——それだけで、事業所があなたの居場所と状況を知っている状態になります。何も起きなければ、それでいいのです。

中で ——立つ場所と、離れる線

立つ場所

離れる線 ——ここを越えたら、作業を止めて出る

あらかじめ、自分の中で線を引いておきます。その場で考えると、迷います。

こうなったらこうする
手が出た。物が飛んできた。刃物が見えたその場で作業を止めて、出る。「事業所に連絡します」と言って、玄関へ。外から事業所に電話。けがをしたなら119か110も。ためらわない
体を触られた。抱きつかれた。性的な話が止まらない「やめてください」と1回はっきり言う。止まらなければ出る。「我慢して続ける」は、あなたの仕事に入っていません
怒鳴られている。止まらない反論しない。謝り続けない。「事業所から改めてご連絡します」と言って、距離を取る。出口に近づく。収まらなければ出る
鍵をかけられた。出るのを止められた「開けてください」と言う。開かなければ電話で事業所、つながらなければ110。ブザーがあれば鳴らす。これは「大げさ」ではありません
動物が向かってきた。噛まれた作業を止め、別の部屋に入れてもらう。噛まれたら、洗って、事業所に電話。受診の判断は事業所と。動物の噛み傷は軽く見ないこと
自分の体調が急に悪くなった座る。事業所に電話。「続けられるか分からない」と言っていい。無理に続けて倒れるほうが、ご本人にとっても危険です

途中で帰ることは、サービスの放棄ではありません。あなたの安全がなくなった時点で、サービスは続けられないのです。

「途中で帰った」の記録と報告があれば、事業所とケアマネジャーが次を考えます。あなたがその場で全部を収める必要はありません。

Đứng giữa người dùng và cửa ra. Nếu bị đánh, bị sờ, bị khóa cửa: dừng việc, ra ngoài, gọi cơ sở (hoặc 110/119). Về giữa chừng không phải là bỏ việc.

出るとき ——「帰ります」と言ってから帰る

2人で行く、という選択肢

介護報酬には、利用者またはご家族の同意を得たうえで、2人の訪問介護員で訪問した場合の決まりがあります。対象になる場面は、告示に3つ挙がっています。

つまり、暴力や著しい迷惑行為があるときに2人で行くことは、制度の中に、はじめから入っています。マニュアルも「管理者等の同行、複数人の派遣などを検討」と書いています。

ただし、2人で行くと利用者負担も増えるため、ご本人やご家族が断ることがあります。マニュアルも、その点を挙げて「家族等に説明して理解を得る」ことを書いています。だから、あなたが「2人にしてください」と言えば必ずそうなる、という話ではありません。決めるのは事業所とケアマネジャーとご本人です。あなたにできるのは、2人が必要だと思った理由を、具体的に書いて渡すことです。

書き方はヒヤリハットと同じです。「〇日 〇時 〇〇様宅。ご家族から〇〇と言われ、〇〇された。作業を止めて〇〇した。1人での訪問は難しいと感じた」——「感じた」を書いていいのです。それが積み重なれば、事業所は動けます。

帰ってから ——書く、言う、休む

「自分が我慢すれば収まる」「自分が未熟だから」——マニュアルは、職員がそう考えて一人で抱え込みがちなことを、課題として書いています。そう思ったときこそ、書いて、言ってください。それは弱さではなく、事業所が知るべき情報です。

まとめ

やさしい 日本語(にほんご)

1 ⚠ 訪問(ほうもん)先(さき)では、あなたは ひとりです

◎ だから、先に そなえます。そなえが あると、こわく なくなります。

2 ◎ じぎょうしょに 聞(き)いて おく こと

3 ◎ 入(はい)る 前(まえ)に、1分(ぷん)で 見(み)る

◎ いつもと ちがったら、入る 前に じぎょうしょに 電話して いいです。

4 ◎ 中では、出口と ご本人(ほんにん)の 間(あいだ)に 立(た)つ

◎ おくの 部屋(へや)の ドアは、しめきりません。

5 ⚠ こう なったら、やめて、出て、電話

とちゅうで 帰(かえ)る ことは、しごとを すてる ことでは ありません。あなたが あんぜんで なければ、しごとは できません。

6 ◎ 出る とき

火(ひ)・水(みず)・かぎ・ご本人の 場所(ばしょ)を 見る。「帰ります」と 声(こえ)に 出して 言う。へんじを 聞く。

7 ◎ 2人(ふたり)で 行く ことも できます

◎ 暴力(ぼうりょく)や ひどい めいわくが ある とき、2人で 行く きまりが あります。⚠ きめるのは じぎょうしょと ケアマネジャーと ご本人です。あなたは、「ひとりでは むずかしいと 思(おも)った」と 書(か)いて わたします

8 ◎ 帰ったら、書く・言う・休(やす)む

◎ 言われた ことばは、そのまま 書く。その日(ひ)の うちに、サービス提供責任者(ていきょうせきにんしゃ)に 言う。つぎの 訪問の 前に、5分 休む。ひとりで かかえません。

※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、現場(げんば)の きまりに ついて 書(か)いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
ふりがなと やさしい 日本語は、この 研究所(けんきゅうじょ)が つけた ものです。まちがいが あれば、教(おし)えて ください。

困りごとから、見る順番をたどれます

「こわい」「一人で行きたくない」から入れます。いずれも一例です。事業所の規程と市町村の要領に合わせて読み替えてお使いください。

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根拠にした資料

個人の経験ではなく、公開されている資料をもとに整理しています。
  • 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」令和4年3月改訂版 および同「介護現場におけるハラスメント事例集」令和4年3月(平成30年度老人保健健康増進等事業「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究」の実態調査を含む) ——訪問系サービスの備え(定時・随時の電話連絡体制、警報機付きブザー、管理者等の同行・複数人派遣の検討、2人派遣を利用者が拒否するケースへの説明)、職員が一人で抱え込みがちであること、けが・病気1〜2割、辞めたいと思った2〜4割
  • 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号) 第30条第4項(職場におけるハラスメント防止のための必要な措置)・第37条(事故発生時の対応)
  • 厚生労働省「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」平成11年9月17日 老企第25号(解釈通知) ——カスタマーハラスメント防止のため、相談体制の整備・被害者への配慮・被害防止の取組が望ましいこと
  • 厚生労働大臣が定める基準に適合する利用者等(平成27年厚生労働省告示第94号)第3号 ——2人の訪問介護員等による訪問介護の対象(利用者又はその家族等の同意を得ている場合であって、イ 身体的理由/ロ 暴力行為、著しい迷惑行為、器物破損行為等/ハ その他準ずる場合)
  • 厚生労働省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準…の制定に伴う実施上の留意事項について」平成12年3月1日 老企第36号 ——2人の訪問介護員等による訪問介護の取扱い
  • 公益財団法人介護労働安定センター「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書(平成29年度老人保健健康増進等事業、平成30年3月)——福祉共済制度(賠償責任補償)の事故報告676件の分析 ——訪問サービスの事故にペットトラブル(訪問先のペットに噛まれた)2.8%
この記事について 一般的な情報提供を目的としています。医療・介護・労務・法律の判断を代替するものではありません。 事業所によって、利用者さんによって、正しいやり方は変わります。ここに書いたことが、そのまま当てはまるとは限りません。訪問時の手順・連絡先・2人訪問の可否は、事業所の規程と判断によります。 実際の対応は、所属事業所の規程および、サービス提供責任者・管理者の指示、そして市町村の定めに従ってください。制度・通知は改正されることがあります。
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。