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紛失・破損

訪問介護の事故は、転倒より紛失・破損のほうが多い

施設の事故は、転倒がいちばん多い。訪問の事故は、そうではありません。

賠償責任の共済に上がった訪問サービスの事故を分析した調査では、訪問先の物をなくした・壊したことの賠償が半分以上で、転倒はその半分以下でした。車いすで壁をこすった、蛇口が外れて床を濡らした、テレビの画面を拭いて傷をつけた——そういう事故です。

けがではないから、軽いのか。そうではありません。ご本人とご家族にとっては「家に入ってきた人が、家の物を壊した」ことです。そして、事業所には損害賠償の話が待っています。この記事は、その場で何をして、何を言い、何を言わないかを整理したものです。

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最終更新:2026年9月 / 高齢者支援実務研究所

もくじ

  1. 数字で見る ——訪問の事故は、物が多い
  2. なぜ訪問では、物の事故が多いのか
  3. 壊した・なくしたとき、その場でする3つのこと
  4. 言っていい言葉、その場で言わない言葉
  5. 「盗まれた」と言われたとき
  6. 賠償は、誰が、どう決めるのか
  7. 起きる前に ——最初の訪問で見ておくこと
  8. まとめ

数字で見る ——訪問の事故は、物が多い

介護労働安定センターが、福祉共済制度(賠償責任補償)に上がった介護事故の報告676件を分析した調査があります。そのうち、訪問サービスは142件。内訳はこうでした。

訪問サービスの事故(142件)件数・割合
訪問先の紛失・破損に関する賠償80件 56.3%
転倒・滑落33件 23.2%
来訪時の交通事故(接触・追突)6件 4.2%
ペットトラブル(訪問先のペットに噛まれた)2.8%
その他・不明残り

同じ調査の入所サービス(258件)では、転倒・転落・滑落が77.9%、持ち物の紛失・破損は7.8%でした。場所が変わると、事故の分布そのものが変わります。

この数字の読み方には、注意が要ります。これは賠償責任の共済に「報告された」事故です。けがにならない物損も全部入りますし、逆に、共済に上げなかった転倒は入りません。市町村への事故報告とは母集団が違います。「訪問の事故の半分が物損」と断定するのではなく、「物損が、訪問では無視できないほど多い」と読んでください。

報告された紛失・破損の例として、調査には次のようなものが挙がっています。

どれも、施設では起きにくい事故です。他人の家で、他人の物を使って、一人で働くから起きます。

なぜ訪問では、物の事故が多いのか

理由中身
物の置き方を自分で決められない施設は、通り道に物を置かないように作られています。訪問先は、その方の暮らしそのものです。花びんも、写真立ても、電気コードも、その方の場所にあります
道具が家の物掃除機・洗剤・鍋・洗濯機。使い方が家ごとに違います。強い洗剤を使ってはいけない床、水をかけてはいけない場所が、言われないと分かりません
時間が決まっている次の訪問があります。急ぐと、物に当たります
見ている人が自分だけ「いつ壊れたか」を証明できるのが自分だけです。だからその場で言うことに、施設以上の意味があります
「なくなった」の判断が難しいご本人が置き場所を忘れることもあります。ご家族が持ち出すこともあります。訪問した人が疑われやすい構造です(→§5

壊した・なくしたとき、その場でする3つのこと

順番はこれだけです。①安全 ②事業所に電話 ③ご本人に伝える。③と②の順番は、事業所の決まりによって入れ替わることがあります。ただ、言わずに帰ることだけは、ありません。

順番すること
① 安全ガラスが割れたら、ご本人を破片から離す。水がこぼれたら、電気製品とコンセントから離してから拭く。自分の手も切らない。けがの有無を先に
② 事業所に電話「〇〇様のお宅で、〇〇を壊しました。けがはありません」。写真を撮るか、片づける前に見せるか、事業所の指示を聞く。壊れた物は捨てない(賠償の確認で必要になります)
③ ご本人・ご家族に伝える「申し訳ありません。〇〇を壊してしまいました。事業所に連絡しました。事業所から改めてご連絡します」。ここで金額や修理の話をしない(→§4
④ 記録いつ・どこで・何を・どうやって・けがの有無・誰に連絡した・ご本人に何と言ったか。「〇〇を動かしたとき、手が当たって落ちた」と、動作まで書きます

その場で言った1件は、事故です。帰ってから分かった1件は、信頼の問題になります。

「小さいから」「気づかれないから」は、いちばん高くつきます。あとで見つかったとき、壊したことではなく、言わなかったことを問われます。

言っていい言葉、その場で言わない言葉

◎ 言っていい⚠ その場で言わない
「申し訳ありません」「壊してしまいました」「弁償します」「新しいものを買ってきます」——賠償を決めるのは事業所です
「事業所に連絡しました。事業所から改めてご連絡します」「〇〇円くらいですよね」——金額の話は、その場でしません
「おけがはありませんか」「もともと壊れかけていましたよね」——言い訳に聞こえます。そう思っても、記録に書くだけ
「片づけてよろしいですか」(指示があってから)「私が払います」「事業所には言わないでください」——絶対に

「申し訳ありません」は、言っていい言葉です。気持ちを伝えることと、賠償を約束することは別です。施設の記事(なぜ、その場で賠償の話をしないのか)と同じ考え方です。

Làm hỏng đồ: ①an toàn ②gọi cơ sở ③nói với người dùng "Tôi xin lỗi, tôi đã làm hỏng ○○. Cơ sở sẽ liên lạc lại". Không hứa đền tiền, không nói giá.

「盗まれた」と言われたとき

訪問介護に固有の、つらい場面です。「ヘルパーさんが来てから、財布がない」。検索でも「訪問介護 盗まれた」という言葉が実際にあります。ご本人の記憶違い、ご家族の持ち出し、本当の盗難——その場では分かりません。

すること中身
その場で否定も、探し回りもしない「私ではありません」と強く言うと、話がこじれます。かといって、家の中を勝手に探すと、別の物に触ることになります。「事業所に連絡します」と伝えて、まず電話
事業所に、言われたままを伝える「〇〇様より『財布がない。ヘルパーが来てからだ』と言われました」。自分の意見(あの人は忘れっぽい、など)を足さない
記録に、言われた言葉を書く「 」で囲んで、聞いたままに。自分がその日、どの部屋に入り、何に触ったかも書く。財布に触っていないなら「財布は見ていない」と書く
対応は事業所が引き取るご家族との話、警察への相談、担当の変更——あなたが一人で背負う話ではありません。管理者とサービス提供責任者の仕事です

身を守るのは、毎回の記録です。「10:00〜10:45 台所・浴室・寝室に入室。金銭・貴重品には触れていない」——毎回こう書く必要はありませんが、金銭を扱う手順が事業所で決まっているなら、そのとおりにして、そのとおりに書く。買い物代行の預かり金は、受け取った額・使った額・返した額・レシートを毎回残します。それが、言われたときの唯一の味方です。

賠償は、誰が、どう決めるのか

基準省令には、事業者は、サービスの提供により賠償すべき事故が発生した場合は、損害賠償を速やかに行わなければならないとあります。主語は事業者です。ヘルパー個人ではありません。

解釈通知には、損害賠償保険に加入しておくか、賠償資力を確保しておくことが望ましいとあります。多くの事業所は保険(共済)に入っています。だから、その場で「私が払います」と言う必要はまったくありませんし、言ってはいけません。保険は、事業所が手順どおりに動いたときに使えるものです。あなたが個人で払ってしまうと、その手順が崩れます。

誰が何をするか
あなた(ヘルパー)その場の安全、事業所への連絡、ご本人への一言、記録。ここまで
サービス提供責任者・管理者ご本人・ご家族への正式な連絡と説明、市町村への連絡が要るかの判断(物損だけなら市町村報告の対象外のことが多いが、市町村の要領による)、ケアマネジャーへの連絡、保険会社への連絡
保険会社(共済)賠償の範囲と額の判断。壊れた物・写真・記録が材料になります

物損でも、事業所への連絡は必ずしてください。市町村に報告するかどうかは事業所と市町村の要領で決まりますが、それを判断するのも事業所です。「けががないから報告しなくていい」と、あなたが決めることではありません。

起きる前に ——最初の訪問で見ておくこと

物の事故は、ほとんどが「知らなかった」から起きます。最初の訪問と、久しぶりの訪問で、見ておくこと・聞いておくことがあります。

これらは、あなたが一人で調べることではありません。訪問介護計画を作るときに、サービス提供責任者が把握しておくことでもあります。分からなければ、聞いてください。「この家の、触らないほうがいい物はありますか」——それだけで、事故は減ります。

まとめ

やさしい 日本語(にほんご)

1 ⚠ 訪問(ほうもん)の 事故(じこ)は、物(もの)を こわす・なくすが 多(おお)いです

◎ 施設(しせつ)は 転倒(てんとう)が 多い。訪問は 物が 多い。他人(たにん)の 家(いえ)で、他人の 物を つかって、ひとりで はたらくからです。

2 ◎ こわしたら、この じゅんばん

こわれた 物は、すてません。言わずに 帰(かえ)る ことは、ぜったいに しません。

3 ⚠ 言わない ことば

「もうしわけ ありません」は、言って いい ことばです。

4 ⚠ 「ぬすまれた」と 言われたら

「わたしでは ない」と つよく 言いません。家の 中(なか)を さがしません。「じぎょうしょに れんらく します」と 言って、電話。
 ◎ きろくに、言われた ことばを そのまま書(か)く。じぶんが どの 部屋(へや)に 入(はい)って、何に さわったかも 書く。

5 ◎ おかねを はらうのは、じぎょうしょ

◎ じぎょうしょは ほけんに 入って います。あなたが じぶんの お金で はらっては いけません。

6 ◎ さいしょの 訪問で、聞く こと

「この 家で、さわらない ほうが いい 物は ありますか」——これだけで、事故は へります。

※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、現場(げんば)の きまりに ついて 書(か)いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
ふりがなと やさしい 日本語は、この 研究所(けんきゅうじょ)が つけた ものです。まちがいが あれば、教(おし)えて ください。

事故が起きたときの言い方と、記録の様式を配っています

そのまま印刷して使えます。いずれも一例です。事業所の規程と市町村の要領に合わせて読み替えてお使いください。

様式をダウンロード → 困りごとから調べる

根拠にした資料

個人の経験ではなく、公開されている資料をもとに整理しています。
  • 公益財団法人介護労働安定センター「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書(平成29年度老人保健健康増進等事業、平成30年3月)——福祉共済制度(賠償責任補償)の事故報告676件の分析 ——訪問サービス142件の内訳(紛失・破損の賠償80件56.3%、転倒・滑落33件23.2%、来訪時の交通事故6件4.2%、ペットトラブル2.8%)。入所サービス258件(転倒・転落・滑落77.9%、紛失・破損7.8%)
  • 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号) 第37条第3項(賠償すべき事故が発生した場合の損害賠償)・第37条第1項(事故発生時の連絡)
  • 厚生労働省「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」平成11年9月17日 老企第25号(解釈通知) ——損害賠償保険への加入または賠償資力の確保が望ましいこと
  • 厚生労働省「介護保険施設等における事故の報告様式等について」令和6年11月29日(介護保険最新情報 Vol.1332) ——訪問介護は統一様式の直接の対象外。報告対象は市町村の要領による
  • 当研究所『介護事故防止 実務マニュアル』第9章「報告」
この記事について 一般的な情報提供を目的としています。医療・介護・労務・法律の判断を代替するものではありません。 事業所によって、利用者さんによって、正しいやり方は変わります。ここに書いたことが、そのまま当てはまるとは限りません。賠償の可否・範囲は、事業所と保険会社の判断によります。 実際の対応は、所属事業所の規程および、サービス提供責任者・管理者の指示、そして市町村の定めに従ってください。制度・通知は改正されることがあります。
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。