一人で入る家で、見ていないときに起きたことをどう書くか
訪問介護の記録で、いちばん難しいのは「見ていない時間」です。
施設なら、前の勤務の人に聞けます。訪問では、前に来たのは2日前の自分か、別のヘルパーです。その間に何があったかは、ご本人とご家族の話と、部屋の様子からしか分かりません。
それでも、記録は書かなくてはいけません。そして、見ていないことを、見たように書いてはいけません。この記事は、その2つのあいだで、何をどう書くかを整理したものです。書き方の型は、施設の記事(転倒と発見の書き分け)と同じです。訪問ならではの場面に置き直しました。
もくじ
記録は、何のために残すのか
訪問介護の事業所には、提供したサービスの内容を記録して、利用者から求められたら見せることが決められています。事故が起きたときは、事故の状況と、そのとき取った処置を記録します。どちらも完結の日から2年間保存します。
ここで大事なのは、記録が「事業所の中で見る紙」ではないということです。ご本人が読むかもしれない。ご家族が読むかもしれない。市町村の調査で出すかもしれない。何かあったとき、訪問先で何があったかを知っている唯一の証拠になります。
訪問の記録は、あなたを責めるための紙ではありません。あなたがいなかった時間と、あなたがいた時間を、分けて残す紙です。
「見ていない」を正直に書いた記録ほど、あとで信用されます。逆に、見ていないことを見たように書いた記録は、1か所ほころびると全部が疑われます。
訪問の記録には、2つの層があります
| 層 | 何を書くか |
|---|---|
| ① サービス提供の記録 毎回 | 提供日・時間、何をしたか(身体介護・生活援助の別と、その具体的な中身)、ご本人の心身の状況。事業所の様式に沿って書きます。ケアマネジャーが見て、次の計画を考える材料になります |
| ② 事故・異変の記録 起きたとき | いつ・どこで・何が起きた(または、何を発見した)・そのとき何をした・誰に連絡した・時刻。事業所への第一報のあと、落ち着いて書きます。市町村への報告の元になります |
①は毎回。②は起きたとき。訪問の難しさは、②のほとんどが「発見」から始まることです。ベッドの横で倒れている方を見つけたとき、あなたは転倒を見ていません。見たのは、倒れている状態です。
「見た」「聞いた」「思った」を分けて書く
型は1つだけです。自分が直接見たこと、誰かから聞いたこと、自分がそう思ったこと——この3つを、混ぜずに書きます。
| 区分 | 書き方 |
|---|---|
| 見た | そのまま書く。「訪問時、ベッドの左側の床に、右を下にして横になっていた。声をかけると返事があった」 |
| 聞いた | 誰から聞いたかを付ける。「ご本人『トイレに行こうとして、足がもつれた』と話す」「長男様より『昨夜21時ごろ、物音がして見に行ったら座り込んでいた』と聞く」 |
| 思った | 書くなら、思ったと分かるように。「テーブルの角が近く、ぶつけた可能性もあると思われる」。書かなくてもよい。書くなら、見たことと同じ行に混ぜない |
⚠ いちばん多い間違いは、「聞いた」を「見た」の文で書くことです。「21時に転倒」と書くと、あなたが21時にそこにいたことになります。いなかったなら、「長男様より、21時ごろ転倒したと聞く」です。
この書き分けは、あなたを守るためでもあります。あとで「ヘルパーは転倒の場面にいたのか」と問われたとき、記録に「聞く」と書いてあれば、いなかったことがはっきりします。
着いたときに、いつもと違ったとき
倒れているような大きなことでなくても、訪問先では「いつもと違う」に気づく場面が毎日あります。これも記録です。
- ご本人の様子:顔色、声の大きさ、歩き方、返事の速さ、食べ残しの量、トイレの回数(分かる範囲で)
- 体の表面:着替えや入浴のとき、前回なかったあざ・傷・赤み。場所と大きさ(指何本分、硬貨何枚分でよい)と色
- 部屋の様子:倒れた物、割れた物、いつもの場所にない物、薬の袋の数、床の水
- ご家族の様子:いつもより疲れている、言葉が強い、いない
これらは①サービス提供の記録の「心身の状況」欄に書けます。事故の紙ではありません。ただし、新しいあざ・傷は、事業所に口で伝えてから書いてください。原因が分からないあざは、施設でも訪問でも、書き方は同じです(原因が分からないあざ/あざの記録の書き方)。
◎ 「前回訪問時(9月2日)にはなかった」と書けるのは、訪問の記録の強みです。施設の記録は連続していますが、訪問の記録は点です。点と点の間に何かがあったことを、その一文が示します。
ご家族から聞いた話を、どう書くか
訪問では、ご家族が「最初の目撃者」であることが多いです。その話は大事な情報ですが、そのまま事実として書かないのが約束です。
| ご家族の言葉 | 記録の書き方 |
|---|---|
| 「夜中にトイレで転んだみたい」 | 「長男様より『夜中にトイレで転んだようだ』と聞く。転倒の場面は長男様も見ていないとのこと」 |
| 「たいしたことないから、報告しないで」 | 聞いた言葉として書く。「長男様より『報告は不要』との申し出。事業所の決まりで報告する旨を説明」——⚠ 報告するかどうかは、ご家族ではなく事業所と市町村の決まりで決まります |
| 「前のヘルパーさんがやったんじゃないの」 | 言われたことを、感情を入れずに書く。「長男様より『前回の訪問時にできたのではないか』との発言あり。前回訪問者に確認する旨を伝える」。反論も、同意も、記録には書きません |
| (何も言わない・いない) | 「同居家族は不在。本人に聞くと『覚えていない』」。いなかったこと、聞けなかったことも情報です |
ご家族の言葉を書くときは、「 」で囲んで、聞いたままに近い言葉で。要約すると、あなたの解釈が混ざります。
Điều mình thấy, điều mình nghe, điều mình nghĩ — viết tách riêng. Lời của gia đình thì ghi "nghe từ ○○".
書いてはいけない書き方、書いていい書き方
| ✕ こう書かない | ◎ こう書く |
|---|---|
| 「21:00 転倒」(見ていない) | 「9:05 訪問時、床に横になっているのを発見。長男様より『21時ごろ』と聞く」 |
| 「特変なし」 | 「顔色いつも通り。朝食は全量。歩行は手すりで自立。新しいあざなし」——何を見て「なし」と言えたかを書く(「特変なし」と書いてはいけない) |
| 「家族の介護が不十分」 | 「オムツは訪問時まで交換されていなかった様子(前回訪問時と同じ物)。長男様は仕事で不在とのこと」——評価ではなく、見たことを |
| 「たぶん認知症が進んだ」 | 「同じ質問を3回された(前回は1回)。事業所に報告」——診断は書かない |
| 「問題なく終了」 | 「予定の身体介護(清拭・更衣)を実施。途中、左腕に触れると『痛い』と1回。見た目の変化なし。事業所に報告」 |
| (空欄) | 「分からない」と書く。「あざの原因は不明」「転倒したかどうか、本人は覚えていないと話す」——「不明」は立派な記録です |
写真は撮っていいか
あざや部屋の状態を写真に残したいと思うことがあります。ここは事業所の決まりによります。ご本人・ご家族の同意の取り方、撮った写真をどこに保存するか、個人の端末で撮ってよいかは、事業所ごとに違います。
- 撮る前に事業所に聞く。自分の判断で撮らない
- 撮ってよいと言われたら、ご本人(またはご家族)に一言。「記録のために撮らせてください」
- 個人の端末で撮ったものは、事業所の指示に従って移し、端末から消す
- 写真がなくても、大きさ・色・場所を言葉で書けば記録になります。硬貨や指と比べる書き方でよい
訪問版・記録の例文20本
そのまま写して、時刻と名前と場所を入れ替えて使ってください。「見た」「聞いた」を分けているところを見てください。
着いたとき
- 「9:00 訪問。呼び鈴に応答なし。合鍵で入室(事業所の手順どおり)。居間のソファで眠っていた。声かけで覚醒、返事あり」
- 「10:00 訪問時、玄関に新聞が2日分たまっていた。ご本人は在宅、『取りに行くのを忘れた』と話す」
- 「14:00 訪問時、台所の床に水がこぼれていた。ご本人『ヤカンを落とした』と話す。やけどの有無を聞くと『ない』。手と腕を見て、赤みなし」
- 「13:00 訪問時、寝室のベッド横の床に、左を下にして横になっているのを発見。呼ぶと返事あり。動かさず、事業所に電話(13:02)」
- 「9:30 訪問時、いつもより返事が遅い。名前は言える。日付は『分からない』。事業所に報告」
体を見たとき
- 「10:20 入浴介助時、右すねの外側に、五百円硬貨くらいの青いあざ1つ。前回訪問時(9月2日)にはなかった。ご本人『覚えていない』。事業所に報告」
- 「11:00 更衣時、左前腕に、指の形のような赤みが3か所。ご本人『分からない』。同居家族は不在。事業所に報告」
- 「15:00 足浴時、右足の親指の爪が黒くなっていた。痛みは『ない』。事業所に報告し、ケアマネジャーへ連絡してもらう」
- 「10:00 清拭時、おしりに赤みあり。押しても消えない。事業所に報告。訪問看護に伝えてもらう」
- 「9:15 体温37.4度(いつもは36台)。咳なし。食欲『ふつう』。事業所に報告」
ご家族から聞いたとき
- 「9:00 長女様より『昨夜、トイレの前で座り込んでいた。自分で立てた』と聞く。ご本人は『覚えていない』。おしり・腰・頭を見て、目立つ変化なし。事業所に報告」
- 「14:00 妻より『薬を飲んだか分からない』と聞く。お薬カレンダーの今朝の袋は残っていた。事業所に報告し、指示を待つ」
- 「10:00 長男様より『報告はしないでほしい』との申し出。事業所の決まりで報告する旨を説明。長男様『分かった』」
- 「16:00 長男様より『前のヘルパーが物を壊した』との発言。壊れた物(花びん)を見せてもらう。事業所に報告。それ以上の話はしていない」
- 「11:00 ご家族は不在。ご本人に朝食を聞くと『食べた』。台所に食べた形跡なし。食べたかどうかは不明と記録」
自分がしたこと・できなかったこと
- 「13:05 事業所に電話し、サービス提供責任者に状況を伝える。『動かさず、救急車を呼ぶ』と指示。13:07 119番」
- 「10:30 予定の調理はせず、見守りと事業所への連絡を優先した(理由:上記)」
- 「15:00 ご本人より『庭の草を取ってほしい』と依頼。訪問介護計画にないため、事業所に確認すると伝えた。実施せず」
- 「9:40 ご本人が『薬を出して』と言う。PTPシートからの取り出しは事業所の手順を確認してから。今回は事業所に電話し、指示のとおり実施」
- 「11:00 移乗のとき、いつもより体が重く、支えきれそうになかった。ゆっくり座り直してもらった。2人で行う必要があるかもしれないと事業所に伝えた」
「不明」「聞く」「事業所に報告」——この3つの言葉が入っている記録は、いい記録です。
全部を自分で確かめる必要はありません。確かめられなかったことを、確かめられなかったと書く。それが訪問の記録です。
まとめ
- 訪問の記録は「見ていない時間」と「いた時間」を分けて残す紙。ご本人・ご家族・市町村が読むことがある
- 見た・聞いた・思ったを混ぜない。聞いた話は「〇〇様より……と聞く」
- 倒れているのを見つけたら「発見」。時刻は自分が見た時刻
- いつもと違うことはサービス提供の記録の「心身の状況」に。新しいあざ・傷は口で伝えてから書く
- 「前回訪問時にはなかった」が書けるのは訪問の強み
- 「特変なし」ではなく何を見て「なし」か。診断・評価は書かない。分からないことは「不明」
- 写真は事業所の決まりで。自分の判断で撮らない
- 記録の保存は完結の日から2年間(事業所の仕事。ただし書くのはあなた)
やさしい 日本語(にほんご)
1 ⚠ 訪問(ほうもん)では、見(み)て いない 時間(じかん)が あります
◎ 見て いない ことを、見た ように 書(か)きません。これが いちばん 大事(だいじ)です。
2 ◎ 3つに わけて 書きます
- 見た こと:「ゆかに よこに なって いた。よぶと へんじが あった」
- 聞(き)いた こと:だれから 聞いたか を 書く。「むすこさんから『よる 9時ごろ たおれた』と 聞く」
- 思(おも)った こと:書かなくても いい。書くなら「〜かもしれない」
3 ⚠ たおれて いる 人(ひと)を 見つけたら、「てんとう」では なく「はっけん」
◎ 時間は、あなたが 見た 時間を 書きます。たおれた 時間は、わかりません。
4 ◎ いつもと ちがう ことは、きろくです
- あたらしい あざ・きず・赤(あか)い ところ。どこ・大(おお)きさ・色(いろ)
- ⚠ 先(さき)に じぎょうしょに 電話(でんわ)。それから 書く
- ◎ 「前(まえ)の 訪問の ときは なかった」と 書けると、とても よいです
5 ⚠ ご家族(かぞく)の 話(はなし)は、聞いた ままに
◎ 「 」で かこんで 書きます。
⚠ 「ほうこくは しないで」と 言われても、ほうこくは じぎょうしょの きまりで します。言われた ことを、そのまま 書きます。
6 ◎ わからない ことは、「ふめい」と 書きます
◎ 「ふめい」「〜と 聞く」「じぎょうしょに ほうこく」——この 3つの ことばが ある きろくは、いい きろくです。
7 ⚠ 写真(しゃしん)は、じぶんで きめて とりません
◎ じぎょうしょに 聞いて から。ことばで 書いても、きろくに なります。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、現場(げんば)の きまりに ついて 書(か)いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
ふりがなと やさしい 日本語は、この 研究所(けんきゅうじょ)が つけた ものです。まちがいが あれば、教(おし)えて ください。
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根拠にした資料
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号) 第19条(サービスの提供の記録)・第37条(事故発生時の対応)・第39条(記録の整備)
- 厚生労働省「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」平成11年9月17日 老企第25号(解釈通知) ——記録に「提供日、提供した具体的なサービスの内容、利用者の心身の状況その他必要な事項」を書くこと
- 厚生労働省「介護保険施設等における事故の報告様式等について」令和6年11月29日(介護保険最新情報 Vol.1332)
- 厚生労働省「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」令和7年11月7日(介護保険最新情報 Vol.1436)
- 当研究所『介護事故防止 実務マニュアル』第9章「報告」——「転倒」と「発見」の書き分け
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。