理想の車いすがないとき、何で補うか ——「何を我慢しているか」を記録に残す
理想の車いすは、たいてい施設にありません。 買えない。順番待ち。ほかの方が使っている。倉庫にあるのは古い型だけ。 だから現場は、あるもので何とかしています。それは悪いことではありません。
大事なのは、「何を我慢しているのか」を分かったうえで代用することです。 分かっていれば、その分を別のやり方で補えます。分かっていないと、そこが事故になります。 この記事は、よくある7組の代用と補い方、記録に残す一文、そして倉庫の話です。
代用するときの、7組の補い方
左が「本当はこれ」、右が「あるのはこれ」。それぞれ、何を我慢しているか、その代わりに何に気をつけるかを書きました。
① 本当はティルト+リクライニング → あるのはティルトだけ
我慢しているもの:背もたれの角度を細かく変えられない。血圧・呼吸に合わせた微調整ができない。
- ティルトの角度を「食事のとき」「休むとき」の2段階で決めておく
- 食事のときは、できるだけ起こす
- 30分ごとに顔色・呼吸・眠気を見る
- 血圧低下や呼吸苦が理由なら、ベッドで横になる時間を1日の中に作る(看護師と相談)
② 本当はティルト → あるのはリクライニングだけ
我慢しているもの:倒すと必ずずり落ちます。骨盤を安定させられない。
- 倒す角度を最小限に(倒すほどずり落ちます)
- 倒したら必ず背抜き・尻抜き
- すべり止めのクッションを入れる
- 30分ごとに座り直す。これを手順に入れる
- 長時間倒しっぱなしにしない。離床時間を短く区切る
- 仙骨・尾骨の赤みを毎日見る(ずれる=褥瘡)
③ 本当はモジュール型(寸法が合う) → あるのは標準型でサイズが合わない
我慢しているもの:座幅が広い/座面が高い/奥行きが長い。
- 座幅が広い → 体の横にクッションを詰めて、傾きを止める
- 座面が高い(足が届かない) → 足台・踏み台を置いて足底を接地させる
- 奥行きが長い → 背中にクッションを入れて奥行きを詰める。背もたれが遠くなるので、背中の支えが減っていないかを必ず見る
- いずれも「本来はサイズが合っていない」と記録に残す
④ 本当は座位保持装置(オーダー) → あるのはティルト
我慢しているもの:変形・強い傾きを完全には支えられない。
- 体側にパッドを入れる。テーブルを使って前から支える
- 傾く方向と時間帯を記録(写真も。同意のルールどおりに)
- 座る時間を短く区切る
- リハビリ職に座位保持装置の検討を上げておく
⑤ 本当は標準型(自走できる) → あるのは介助型しか空いていない
我慢しているもの:自分で動けなくなります。これがいちばん失うものが大きい。
- 足こぎができないか試す(座面を低く/フットサポートを外す)
- 短い距離だけでも自分で動く機会を1日1回つくる
- 最優先で、自走用への交換を上げる(倉庫・他フロアを探す)
- 「こげなくなった」と評価しない。車いすのせいだと記録に書く
⑥ 本当はアームサポート跳ね上げ式 → あるのは固定式
我慢しているもの:横移乗ができません。抱え上げになります。
- 立てる方なら、立位移乗に切り替えられないか
- 必ず2人介助。わき・上うでを指でつかまない
- リフトの使用を検討
- わき・上うでのあざが出たら、機種の問題として報告
⑦ 本当はフットサポート着脱・跳ね上げ式 → あるのは固定式
我慢しているもの:移乗のたびにすねが当たります(避けられません)。
- 角と縁にカバー(スポンジ+テープ)
- 車いすを30度の角度でベッドに寄せる
- 足を必ず下ろしてから立つ
- すねのあざが続くなら、数字を出して交換を上げる
7組に共通するのは、「我慢しているぶんを、手順と観察で補う」ことです。 そして補いきれないもの——⑤の「自分で動けなくなる」——は、代用を長引かせないことが対策です。 部品の型べつのリスクはフットサポート・アームサポートの型べつリスクに、わき・上うでのあざはわき・上うでのあざに。
記録に残す一文 — 3つのときに効く
「現在はティルトのみで代用中。本来はリクライニング併用が望ましい。血圧低下時に角度調整ができないため、1日1回ベッドで臥床の時間を設けている。」
この一文が、記録にあるかないかで、あとの3つの場面が変わります。
| いつ | どう効くか |
|---|---|
| 予算・購入の話が出たとき | 根拠として出せます。「合っていない車いすが〇台、代用中が〇名」と数で言える |
| 事故が起きたとき | 「分かったうえで対策していた」ことを示せます。何もしていなかったのとは、まったく違います |
| 職員が替わったとき | なぜこの使い方なのかが伝わります。「なんでこの人、毎日1回ベッドに戻すの?」に、記録が答えます |
書き方の型は、「今は◯◯で代用中。本来は△△が必要。そのために□□をしている」の3つ。 ケアプランや個別の記録に1行あれば足ります。 Hãy ghi lại rõ: "Hiện đang dùng tạm loại này. Loại phù hợp thực sự là ___".
倉庫を見る — 買わなくても解決することがある
使われていない車いすが眠っていることが、本当によくあります。 退所された方のティルト。体重が変わって使わなくなったモジュール型。他のフロアで余っている自走用。
- 施設全体の車いすを、一度リストにする。機種・座幅・どこにあるか・誰が使っているか
- フロアをまたいで見る。自分のフロアにないものが、隣のフロアにある
- 「合っていない」方と「余っている」車いすを、突き合わせる。組み替えるだけで解決することがあります
- 組み替えの前に、福祉用具専門相談員に見てもらう。寸法が合うかは、専門職の目で
買わなくても、施設の中で組み替えるだけで解決することがあります。 月1回の点検(全台15分)のときに、使っていない台も一緒に見ておくと、この突き合わせができます。 点検の表はフットサポート・アームサポートの型べつリスクの最後に。
費用と手続き — 施設の種類で違う
| どこで | 扱い(一例) |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設) | 車いすは原則として施設が備えるものです。介護保険の福祉用具貸与は、施設入所中は原則として使えません。現実の選択肢は ①施設内で別の車いすと交換 ②施設が新たに購入・入替え ③ご本人・ご家族が個人で購入 |
| 在宅・通所の方 | 介護保険の福祉用具貸与の対象になることがあります。ケアマネジャーへ |
| オーダーメイド(座位保持装置) | 制度が別になります。医師の意見書が必要な場合があります。相談員・ケアマネへ |
制度は変わります。また、施設の種類・その方の状況によって扱いが違います。 費用の話は、必ず生活相談員・ケアマネジャーに確認してください。介護職がご家族に費用の説明をしてはいけません。 ご家族から聞かれたら、「相談員からお返事します」と返します。
まとめ
- あるもので代用するのは、悪いことではない。「何を我慢しているか」を分かったうえで
- 7組の補い方。我慢しているぶんを、手順と観察で補う
- いちばん失うものが大きいのは「自走できる方に介助型」。最優先で交換を上げる
- 記録に1行。「今は◯◯で代用中。本来は△△。そのために□□をしている」
- その1行が、予算・事故・引き継ぎの3つの場面で効く
- 倉庫を見る。組み替えるだけで解決することがある
- 費用の話は相談員・ケアマネへ。介護職がご家族に説明しない
やさしい 日本語(にほんご)
1 ちょうど いい 車(くるま)いすが、ない ことが あります
◎ ある もので つかう ことは、わるい ことでは ありません。
⚠ でも、「何(なに)が 足(た)りないか」を 知(し)って いる ことが 大事(だいじ)です。
2 足りない ときの 気(き)を つける こと
- ティルトが なくて、リクライニングだけ → たおしたら 背抜(せぬ)き。30分に 1回(かい)すわり直(なお)す
- 大(おお)きさが あわない → 横(よこ)に クッション。足(あし)の 下(した)に 台(だい)
- じぶんで こげる 人(ひと)に、介助型(かいじょがた)しか ない → 1日 1回は、じぶんで うごく 時間(じかん)を つくる。早(はや)く 交換(こうかん)を たのむ
- フットサポートが かたい 型(かた) → かどに カバー。足を 下ろしてから 立(た)つ
3 記録(きろく)に 書(か)きます
◎ 「いまは ◯◯を つかって います。本当(ほんとう)は △△が いいです。だから □□を して います」
◎ この 1行(ぎょう)が あると、事故(じこ)の ときも、人が かわった ときも、つたわります。
Hãy ghi lại rõ: "Hiện đang dùng tạm loại này. Loại phù hợp thực sự là ___".
4 お金(かね)の 話(はなし)
⚠ ご家族(かぞく)に、お金の 話は しません。「相談員(そうだんいん)から お返事(へんじ)します」と 言(い)います。
※ この ページは 日本(にほん)の 法律(ほうりつ)と、現場(げんば)の きまりに ついて 書(か)いて います。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
ふりがなと やさしい 日本語は、この 研究所(けんきゅうじょ)が つけた ものです。ベトナム語は 参考訳(さんこうやく)です。まちがいが あれば、教(おし)えて ください。
あわせて読む
根拠にした資料
- 『介護事故防止 実務マニュアル』巻末付録C「車いすの選び方と、替えどき」(理想の車いすがないとき、どう補うか/費用と手続き)本のご案内
- 厚生労働省「介護保険における福祉用具」(福祉用具貸与の対象と、施設入所中の扱い)
- 車いす・クッションの各メーカーが公表している取扱説明書と、適合の考え方
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。