移乗で崩れることが増えたとき、どこから考えるか
移乗の途中で、体が崩れる。とっさに支えて、なんとかいすに下ろす。そういう日が増えてきました。そのうち、職員の腰も痛くなります。
◎ 見るところは3つです。距離と角度/その方の変化/人手。この3つで、ほとんど説明がつきます。
⚠ そして、いちばん大事なのはこれです。「1人でやるか、2人でやるか」を、その場の判断にしないでください。忙しい日ほど1人になり、崩れるのは、たいていその日です。
もくじ
「力が足りない」で終わらせない
崩れると、どうしても「自分の力が足りなかった」と思います。⚠ でも、力で解決する方向に行くと、次は職員が壊れます。腰痛は、介護の労災でいちばん多い形のひとつです。
⚠ 「もっと しっかり支える」は、対策になりません。そして、腰を痛めた人が現場から抜けると、残った人がもっと1人でやることになります。悪くなる方向にしか進みません。
◎ 崩れるのは、たいてい「遠い」か「ねじれている」ときです。
ベッドと車いすが遠い。角度がついていて、体をひねって移す。この2つを直すだけで、必要な力が大きく減ります。◎ そして、これは今日変えられます。
5つの方向に分けて確かめる
| 方向 | 移乗では、とくにここ |
|---|---|
| ① 用具・設定 | ⚠ ベッドと車いすの高さ・ブレーキ・アームサポート・フットサポート・スライディングボード |
| ② その方の変化 | 立てなくなってきた・痛み・薬・むくみ・その日の調子の波 |
| ③ 環境 | スペース・床・靴。物が置かれていないか |
| ④ 手順 | ⚠ 距離と角度。持つ場所。介助者によって違っていないか |
| ⑤ 体制・人数 | ⚠ 1人か2人かが決まっているか。時間帯によって変わっていないか |
① 用具・設定 — 高さをそろえる
◎ いちばん効くのは、高さです。今日、その場で変えられます。
- ⚠ ベッドの高さは、毎回合わせていますか(前の人が下げたままになっていませんか)
- ベッドと車いすの座面は、同じ高さですか(車いす側が少し低いと楽になります)
- その方の足の裏は、床に着いていますか(浮いていると、立ち上がれません)
- ⚠ ブレーキは、両方かけて、効きを確かめましたか(タイヤの空気が抜けていると効きません)
- アームサポートは、上がる型ですか(上がらないと、越える距離が増えます)
- フットサポートは、どけていますか
- スライディングボード・シートはありますか。使い方を習っていますか
- リフトはありますか。⚠ あるのに使われていないなら、その理由は何ですか
当てはまったら → ◎ ベッドの高さを合わせるだけで、必要な力が変わります。リハビリ職・福祉用具専門相談員に相談してください。
② その方の変化 — 立てなくなってきた
⚠ やり方を変えていないのに崩れるようになったなら、その方が変わっています。
- ⚠ いつごろから崩れるようになりましたか(時期が言えると、原因が絞れます)
- 手すりを持って立てますか。前より支えが要りませんか
- 座っているとき、まっすぐ座っていられますか(傾いてきていませんか)
- 痛みはありませんか(ひざ・腰・肩。かばうと、崩れ方が変わります)
- ⚠ 薬が変わっていませんか(力が入りにくくなる薬もあります)
- 足がむくんでいませんか。体重は変わっていませんか
- ⚠ 朝と夕方で、違いませんか(夕方だけ崩れるなら、疲れの可能性があります)
- 声かけへの反応は、前と同じですか(タイミングが合わないと、崩れます)
当てはまったら → 看護師・リハビリ職に伝えてください。◎ 「〇月ごろから、右足に力が入らないことが増えました」——事実で十分です。 なぜ「数値だけ報告して」と言われるのか
③ 環境 — スペース
◎ ここも今日変えられます。
- ⚠ ベッドの横に、車いすを置くスペースがありますか(狭いから角度がついている、はよくあります)
- オーバーテーブル・ポータブルトイレが、じゃまになっていませんか
- 床はぬれていませんか(浴室・洗面の前)
- その方の靴・靴下はすべりませんか
- 介助者の足元に、コードやマットはありませんか
- 明るさは足りていますか
- ⚠ ベッドを壁から離せますか(両側から入れると、選択肢が増えます)
当てはまったら → ◎ 家具を30cm動かすだけで、角度が変えられることがあります。会議は要りません。
④ 手順 — 距離と角度
⚠ ここが中心です。そして介助者ごとに違っていることが多いところです。
- ⚠ ベッドと車いすの距離は、どのくらいですか(遠いほど、力が要ります)
- ⚠ 角度は何度くらいですか(正面に向き合うほど、ひねりが減ります)
- その方の足は、床に着いた状態で始めていますか
- 浅く座り直してから、立ち上がっていますか(深く座ったままでは立てません)
- ⚠ どこを持つことになっていますか(脇の下をつかんでいませんか)
- 介助者は、ひざを曲げていますか(腰だけで持ち上げていませんか)
- ⚠ 「1・2の3」の合図は、そろっていますか(合図が合わないと、崩れます)
- ⚠ 職員によって、やり方が違っていませんか(違うと、その方が身構えます)
当てはまったら → ◎ 「この方は、ベッドと車いすを30度・こぶし1つ分の距離で」と1行決めて、申し送りと記録に書いてください。統一が、いちばん効きます。 背の合図を統一する 脇の下をつかまない
⑤ 体制 — 1人か2人かを決めておく
⚠ この記事で、いちばん大事なところです。
- ⚠ その方の移乗は、1人ですか、2人ですか。決まっていますか
- ⚠ 決まりは、どこに書いてありますか(口伝えになっていませんか)
- ⚠ 忙しい時間帯だけ1人になっていませんか(崩れるのは、たいていその日です)
- 2人が必要なとき、呼べる人はいますか。どうやって呼びますか
- ⚠ 「呼ぶと迷惑」という空気になっていませんか(あると、1人でやります)
- 新しい職員は、いつから1人でやりますか(決まっていますか)
- 崩れたことは、申し送りで共有されましたか。そのあと、何か変わりましたか
- ⚠ 職員の腰痛は、報告されていますか(我慢して黙っていませんか)
当てはまったら → ⚠ これは現場だけでは変えられません。◎ 「その方は2人」と紙に書いて決めるだけでも、大きく変わります。管理者に上げてください。
確かめたことを、記録に残す
◎ 崩れたときは、「崩れた」だけでなく、そのときの条件を書いてください。時間帯/1人だったか2人だったか/どこからどこへ/その日の様子。⚠ とくに「1人だったか」は、隠さず書いてください。これが無いと、体制の話にたどり着けません。
変えるのは、1つか2つだけ
「移乗時に注意する」
「ボディメカニクスを意識する」
「声かけを徹底する」
誰が・どうするかが ありません。そして、腰痛だけが残ります。
「〇〇さんの移乗は2人、と決めた(〇月〇日から)」
「ベッドの高さを50cmに固定した(〇月〇日)」
「車いすを30度に置く、と申し送りに書いた」
人数と数字と期日があります。
まとめ
- ⚠ 「力が足りない」で終わらせない。力で解決すると、次は職員が壊れます
- ◎ 崩れるのは、たいてい「遠い」か「ねじれている」とき
- ◎ ベッドと車いすの高さをそろえる。いちばん効いて、今日できます
- ⚠ やり方を変えていないのに崩れるなら、その方が変わっています
- ⚠ 職員によって、やり方が違っていませんか(違うと、その方が身構えます)
- ⚠ 「1人か2人か」を、その場の判断にしない。紙に書いて決める
- ⚠ 「1人だったか」を、記録に隠さず書く
- ◎ 確かめて当たらなかった方向も、記録に残す
やさしい 日本語(にほんご)
1 なにが おきますか
移乗(いじょう)の とちゅうで、体(からだ)が くずれます。
あわてて ささえます。あなたの こしも いたく なります。
2 「力(ちから)が たりない」と 思(おも)わないで ください
⚠ 力で なんとか すると、こんどは あなたが こわれます。
こしを いためる 人(ひと)は、とても 多(おお)いです。
3 くずれるのは、たいてい この2つ
◎ とおい …… ベッドと 車(くるま)いすが はなれて いる
◎ ねじれて いる …… 角度(かくど)が ついて いる
◎ この2つを 直(なお)すと、いる 力が すごく へります。きょう できます。
4 きょう できる こと
- ◎ ベッドの 高(たか)さを 合(あ)わせる
——前(まえ)の 人が 下(さ)げた ままに なって いませんか。 - ◎ 車いすを ちかくに、まっすぐ に 置(お)く
- ◎ ブレーキを 両方(りょうほう)かけて、おして たしかめる
- ◎ 足(あし)の うらが 床(ゆか)に ついて いるか 見(み)る
5 いちばん だいじな こと
⚠ 「1人(ひとり)で やるか、2人(ふたり)で やるか」を、その場(ば)で 決(き)めないで ください。
いそがしい 日(ひ)ほど 1人に なります。
くずれるのは、たいてい その日です。
◎ 紙(かみ)に「この人は 2人」と 書(か)いて おきます。それだけで かわります。
6 記録(きろく)に 書(か)く こと
◎ 「1人だったか、2人だったか」を、かくさず 書いて ください。
これが ないと、人(ひと)を ふやす 話(はなし)に なりません。
※ この ページは 答(こた)えを 出(だ)す ための ものでは ありません。たしかめる 順番(じゅんばん)を つくる ための ものです。体(からだ)の 評価(ひょうか)と 用具(ようぐ)は、リハビリの 人・福祉用具(ふくしようぐ)の 人が 決(き)めます。
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距離・角度・持つ場所・1人か2人か。1枚に収まる形にしています。いずれも一例です。事業所に合わせて書き換えてお使いください。登録は要りません。
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- ①の高さから見てください。いちばん効いて、今日できます
- ⑤の「1人か2人か」は、紙に書いて決めてください
- 変えるのは1つか2つだけ
- 確かめて「当たらなかった」方向も、記録に残してください