転倒がくり返すとき、どこから考えるか
同じ方が、何度も転ぶ。そのたびに報告書を書いて、対策を書いて、それでもまた起きる。だんだん、書くことがなくなってきます。
⚠ 1件ずつ見ているからです。くり返す転倒は、1件では見えません。◎ その方の転倒を、月単位で並べてください。
並べるのは3つだけです。①何時ごろか ②どこか ③そのとき、何をしようとしていたか。◎ この3つを並べるだけで、見えるものが変わります。たいてい、どれかが偏っています。
もくじ
1件ずつ見ていると、見えません
1件ごとの報告書は、その1件を書くようにできています。だから、くり返しは見えません。「ベッドから立ち上がろうとして転倒」が5回並んでいても、5枚の紙に分かれていると、5回とも別の出来事に見えます。
◎ 紙を1枚用意して、その方の転倒だけを並べてください。3列でかまいません。
〇月〇日 5:40/居室のベッドサイド/トイレに行こうとした
〇月〇日 16:20/廊下/食堂へ向かっていた
〇月〇日 5:10/居室のベッドサイド/トイレに行こうとした
〇月〇日 4:55/居室のベッドサイド/トイレに行こうとした
◎ これで、話が変わります。「転倒が4件」ではなく、「早朝、ベッドから、トイレに行こうとして、3件」です。
くり返す転倒は、たいてい時間帯・場所・目的のどれかに偏っています。
偏っていれば、そこを変えればよいことになります。⚠ 偏っていない場合は、②その方の変化を疑ってください。体のほうが変わってきているサインのことがあります。
⚠ 「見守りを強化する」と書かないでください。4回書いても、4回とも実行できません。誰が・いつ・何をするかが無いからです。
◎ 「5時前後に居室をのぞく順番を、〇〇さんから先にする」——これは実行できます。
5つの方向に分けて確かめる
| 方向 | くり返す転倒では、とくにここ |
|---|---|
| ① 用具・設定 | ベッドの高さ/靴と靴下/歩行器・杖の状態。今日変えられます |
| ② その方の変化 | ⚠ 薬の変更がいちばん多い。そして痛み・むくみ・尿路感染・夜間の頻尿 |
| ③ 環境 | 時間帯もここです。早朝・夕方。照明・床・動線に置かれた物 |
| ④ 手順・見守り | その時間、誰がどこにいたか。ラウンドの順番 |
| ⑤ 体制・人数・伝達 | その時間帯の人数。前回の転倒が、申し送りで共有されていたか |
① 用具・設定 — 今日変えられます
なぜ最初か。今日、その場で変えられるからです。
- ベッドの高さは、足の裏が床に着く高さですか(つま先立ちになっていませんか)
- マットレスはやわらかすぎませんか(端に座ると沈んで、立ち上がれません)
- 靴は、かかとを踏んでいませんか。スリッパになっていませんか
- 靴下はすべりませんか(フローリングでは、靴下だけがいちばん危ないことがあります)
- 歩行器・杖はその方の高さに合っていますか(借り物のままになっていませんか)
- ゴム先はすり減っていませんか
- 手すりは、立ち上がる位置にありますか(あっても、届かなければ無いのと同じです)
- センサーマットは鳴りますか(電池・位置・音量。⚠ 鳴っても行けないなら、置いていないのと同じです)
当てはまったら → リハビリ職・福祉用具専門相談員に相談してください。介護職の仕事は、気づいて報告するところまでです。 困りごとから調べる
② その方の変化 — 薬をいちばん先に
⚠ くり返す転倒では、ここがいちばん見落とされます。「前からよく転ぶ人」で片づけてしまうからです。
- ⚠ 薬が変わっていませんか。いつから増えた・減った・変わった。転倒が増えた時期と重なっていませんか
- とくに眠るための薬・血圧の薬・尿の薬が変わったあとは、注意されています
- 夜、何回トイレに行きますか。増えていませんか
- 痛みはありませんか(ひざ・腰・足の裏。かばうと、姿勢が変わります)
- 足がむくんでいませんか。靴がきつくなっていませんか
- 食べる量・水分が減っていませんか
- 受診はいつでしたか。次はいつですか
当てはまったら → 看護師に伝えてください。⚠ 「薬のせいでは」と言う必要はありません。「〇月〇日から、夜のトイレが2回から4回に増えています」——事実だけで十分です。 なぜ「数値だけ報告して」と言われるのか
③ 環境 — 時間帯もここに入ります
◎ ①と同じで、今日変えられるところが多い方向です。
- 何時ごろに集まっていますか。⚠ 早朝(4〜6時)と夕方(16〜18時)は、多く報告されている時間帯です
- その時間、部屋は暗くありませんか。足元灯はありますか
- ベッドからトイレまでの間に、物がありませんか(ポータブルトイレ・オーバーテーブル・ゴミ箱・コード)
- 床はぬれていませんか(洗面・トイレの前・食堂)
- いすの座面が高すぎ・低すぎではありませんか
- いつもの居場所から、トイレは見えますか
- ⚠ その方にとって、動線が変わっていませんか(居室を移った・家具の位置を変えた)
当てはまったら → 今日のうちに動かしてください。物の位置は、会議を待たなくても変えられます。◎ 変えたら、それも記録に書いてください。
④ 手順・見守り
⚠ ここは、人を責める方向に行きやすいところです。書くのは「誰が悪かったか」ではなく「どういう決まりだったか」です。
- その時間のラウンドは、何時に、どの順番で回ることになっていますか
- ⚠ その方は、順番の何番目ですか(いちばん最後になっていませんか)
- 転倒したのは、ラウンドとラウンドの間ですか。間は何分空きますか
- トイレ誘導は時間で決まっていますか。それとも呼ばれてからですか
- 呼んでもらう方法はありますか(ナースコールが手の届く位置にありますか)
- ⚠ 「見守り」と書かれている手順は、具体的に何をすることですか(決まっていないことが多い言葉です)
当てはまったら → ◎ ラウンドの順番を変えるのが、いちばん早い対策になることがあります。人も物も増やさずにできます。
⑤ 体制・人数・伝達
⚠ ここを書かないと、対策が現場の努力だけになります。隠さず書いてください。
- その時間帯、フロアに何人いましたか
- ⚠ 離れていた理由は何でしたか(別の方の対応・記録・休憩。これは書いてよいことです)
- 前回の転倒は、申し送りで共有されましたか
- ⚠ 共有されたあと、何か変わりましたか(変わっていないなら、共有だけでは足りていません)
- 記録に「最近ふらつく」などの書き込みが、事前にありませんでしたか
- ⚠ その書き込みは、読まれていましたか(書いてあるのに読まれていない、はよくあります)
- 夜勤の人数は、その時間帯で足りていましたか
当てはまったら → ⚠ これは現場だけでは変えられません。管理者に上げる材料として、事実を並べてください。
確かめたことを、記録に残す
◎ 「当たらなかった」も書いてください。「ベッドの高さと靴は確認、問題なし」——これがあるだけで、次の人はそこを探さなくてすみます。答えが出なくても、確かめていない方向から探せます。
変えるのは、1つか2つだけ
「見守りを強化する」
「情報共有を徹底する」
「本人に声をかける」
誰が・いつまでに・何をするかが、ありません。忙しい日には元に戻ります。
「5時台のラウンドを、〇〇さんから回る(〇月〇日から)」
「ポータブルトイレをベッドの右側へ移した(〇月〇日・〇〇)」
「かかとのある靴に替えた(〇月〇日)」
物と時刻と期日があります。
まとめ
- ⚠ 1件ずつ見ていると、くり返しは見えません。月単位で並べてください
- ◎ 並べるのは3つ——①何時ごろか ②どこか ③何をしようとしていたか
- ◎ 偏っていれば、そこを変えればよい。偏っていなければ、②その方の変化を疑う
- ⚠ 薬の変更は、いちばん見落とされます。転倒が増えた時期と重なっていないか
- ⚠ 時間帯は「環境」です。早朝と夕方に多く報告されています
- ◎ ラウンドの順番を変えるのが、いちばん早い対策になることがあります
- ⚠ 「見守りを強化する」と書かない。4回書いても4回とも実行できません
- ◎ 確かめて当たらなかった方向も、記録に残す
やさしい 日本語(にほんご)
1 なにが おきますか
同(おな)じ 人(ひと)が、何回(なんかい)も 転(ころ)びます。
そのたびに 紙(かみ)を 書(か)きます。でも また 転びます。
2 なぜ わからないのですか
⚠ 1件(けん)ずつ 見(み)て いる からです。
5枚(まい)の 紙に 分(わ)かれて いると、5回とも べつの ことに 見えます。
3 やって みて ください
◎ 紙を 1枚(まい)だけ 出(だ)して、その人の 転倒(てんとう)を ならべます。
ならべるのは 3つ だけです。
① 何時(なんじ)ごろ ② どこ ③ 何(なに)を しようと して いたか
◎ これだけで、見(み)える ものが かわります。
「転倒 4回」ではなく
「朝(あさ)5時ごろ・ベッドの よこ・トイレに 行(い)こうと して 3回」
4 かならず 見(み)て ほしい もの
- ⚠ くすりが 変(か)わって いませんか。
——ここが いちばん 見(み)おとされます。転倒が ふえた 時期(じき)と、くすりが 変わった 時期は 同じですか。 - ◎ くつを 見て ください。かかとを ふんで いませんか。
- ◎ ベッドの よこに、物(もの)が ありませんか。——これは きょう どかせます。
5 これは 書(か)いても ダメです
⚠ 「見守(みまも)りを 強化(きょうか)する」
——だれが、いつ、何を するか が ありません。できません。
◎ こう 書(か)きます。
「5時の 見回(みまわ)りを、〇〇さんから 先(さき)に する」
※ この ページは 答(こた)えを 出(だ)す ための ものでは ありません。たしかめる 順番(じゅんばん)を つくる ための ものです。あなたの 事業所(じぎょうしょ)の きまりも、かならず 見(み)て ください。
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時間帯・場所・何をしようとしていたか。3つを並べるだけの形にしています。いずれも一例です。事業所に合わせて書き換えてお使いください。登録は要りません。
様式をダウンロード → 困りごとから調べるこの記事の使い方
- ①から順に見てください。①用具と③環境は、今日変えられます
- 当てはまったものを、全部書き出してください。1つに絞るのは、そのあとです
- 変えるのは1つか2つだけ。全部やろうとすると、何も実行されません
- 確かめて「当たらなかった」方向も、記録に残してください