誤薬が続くとき、どこから考えるか
誤薬が続く。そのたびに「確認を徹底する」と書く。ダブルチェックを増やす。それでもまた起きる。だんだん、誰も報告したくなくなります。
⚠ 人を見ているからです。◎ 誤薬は、工程で分けてください。受け取り・保管・セット・本人確認・与薬・記録——この6つのどこで起きているかが分かると、対策が変わります。
◎ 「セットの段階で起きている」と「本人確認で起きている」では、打つ手がまったく別です。そこを分けずに「確認を徹底」と書くから、同じことが続きます。
もくじ
人ではなく、工程で分けます
誤薬の報告書には、たいてい「確認不足」と書かれます。⚠ これは原因ではなく、結果の言い換えです。そこからは、何も出てきません。
◎ その月の誤薬を、工程べつに並べてください。
| 工程 | そこで起きること |
|---|---|
| ① 受け取り | 薬局・ご家族から受け取るとき。変更が伝わっていない |
| ② 保管 | 置き場所。他の方の薬と隣り合っている |
| ③ セット | ケースや配薬ボックスに入れるとき。ここで入れ違えると、あとで気づけません |
| ④ 本人確認 | 渡す相手を間違える。同姓・似た名前 |
| ⑤ 与薬 | 時間帯を間違える/落とす/飲みきれていない |
| ⑥ 記録 | 飲んだのに書いていない/書いたのに飲んでいない |
◎ 並べると、たいてい どこかに偏っています。偏ったところだけを直せば、対策は1つで足ります。
⚠ ダブルチェックを増やしても、同じ工程を2回見ているだけなら効きません。2人が同じ場所で同じように見ると、2人とも同じ見落とし方をします。
◎ 効くのは「別の工程で見る」ことです。セットした人と、渡す人を分ける。渡すときに薬袋の名前を声に出す。⚠ 見る回数ではなく、見る角度を変えてください。
5つの方向に分けて確かめる
| 方向 | 誤薬では、とくにここ |
|---|---|
| ① 用具・設定 | 薬袋の書き方・配薬ボックス・保管場所。今日変えられます |
| ② その方の変化 | 飲み込めているか・拒否・吐き出し・薬の変更が続いているか |
| ③ 環境 | ⚠ セットする場所と時間帯。中断が入る場所ではありませんか |
| ④ 手順 | ⚠ 6つの工程のどこか。ここがこの記事の中心です |
| ⑤ 体制・人数・伝達 | その時間の人数。中止・再開が伝わる道があるか |
① 用具・設定 — 薬袋とケース
◎ ここは今日変えられます。そして効きます。
- ⚠ 薬袋の名前は、離れて読めますか(小さい・薄い・手書きでかすれている)
- 同姓・似た名前の方がいませんか(⚠ いるなら、色を分けるなど、名前以外の目印が要ります)
- 配薬ボックスの並びは、居室の並びと同じですか(違うと、手が勝手に動きます)
- 朝・昼・夕・寝る前が、見て分かるように分かれていますか
- ⚠ 他の方の薬と、隣り合って置かれていませんか
- 中止になった薬は、どこに移しますか(同じ場所に残っていませんか)
- 頓服は、定時の薬と分けてありますか
- 一包化されていますか(バラの薬が混ざると、格段に難しくなります)
当てはまったら → ◎ 薬袋の名前を大きくする、ボックスの並びを居室順にする。今日できて、効きます。看護師・薬剤師にも相談してください。
② その方の変化 — 飲めているか
⚠ 「渡した」と「飲めた」は別です。
- 口の中に残っていませんか(ほおの内側・舌の下。あとから出てくることがあります)
- 飲み込むのに時間がかかるようになっていませんか
- むせていませんか(薬でむせるなら、嚥下の変化かもしれません)
- 拒否が増えていませんか。吐き出していませんか
- ⚠ 薬の変更が、この数か月で何回ありましたか(変更が多い時期は、誤薬も増えます)
- 自分で管理している方ですか(一部だけ自己管理、が混ざっていませんか)
- ⚠ ご家族が持ち込む薬はありませんか
当てはまったら → 看護師に伝えてください。⚠ 「飲めていない可能性がある」は、誤薬と同じくらい大事な報告です。 飲ませ忘れに気づいたとき
③ 環境 — 場所と時間帯
⚠ セットの事故は、たいてい「中断」で起きます。
- ⚠ 薬をセットしている最中に、呼ばれませんか(ナースコール・電話・来客)
- セットする場所は決まっていますか(人の通り道でやっていませんか)
- その場所は明るいですか
- ⚠ セットする時間帯は決まっていますか(いちばん忙しい時間に重なっていませんか)
- 配薬のとき、他の業務と同時にしていませんか(配膳と一緒になっていませんか)
- ⚠ 誤薬が起きた時間帯は、何時ごろに集まっていますか
当てはまったら → ◎ 「セット中は声をかけない」を、チームの決まりにしてください。物も人も増やさずにできます。
④ 手順 — 6つの工程のどこか
◎ ここが中心です。工程ごとに、決まりがあるかを見ます。
- ①受け取り——受け取ったとき、誰が、何を確かめることになっていますか
- ②保管——置き場所は決まっていますか。中止薬の置き場所は別ですか
- ③セット——⚠ セットした人の名前は残りますか(残らないと、どの工程かが分かりません)
- ④本人確認——⚠ 何で確かめることになっていますか(顔/名札/声かけ/薬袋の名前を声に出す)
- ⑤与薬——飲み込んだのを確かめてから離れますか
- ⑥記録——飲んだ「あと」に書きますか、先に書きますか(⚠ 先に書く運用は、危ないことがあります)
- ⚠ ダブルチェックは、どの工程でしていますか(同じ工程を2回見ていませんか)
- 中止・再開の指示は、どこを見れば分かりますか
当てはまったら → ◎ その月の誤薬を、この6つに振り分けてください。偏ったところが、直すところです。 本人確認のしかた
⑤ 体制・人数・伝達
⚠ 中止・再開が伝わらないのは、体制の問題です。個人の注意では防げません。
- その時間、何人で何人分の薬を扱っていましたか
- ⚠ 受診で薬が変わったとき、誰がどこに書きますか
- ⚠ 「中止」の指示が、配薬する人まで届く道はありますか(申し送りだけになっていませんか)
- 夜勤帯の薬は、誰がセットしますか
- 新しい職員は、いつから1人で配薬しますか(決まっていますか)
- ⚠ 誤薬を報告したあと、どうなりますか(責められる場だと、次から出てきません)
- ヒヤリハット(飲ませる前に気づいた)は、報告されていますか
当てはまったら → ⚠ これは現場だけでは変えられません。◎ とくに「中止の指示が届く道」は、管理者に上げる価値があります。
確かめたことを、記録に残す
◎ 誤薬の記録には、必ず「どの工程か」を書いてください。「確認不足」ではなく「セットの段階で、隣の方の袋から取った」。⚠ これがあると、次の月に集計できます。「確認不足」が10件並んでも、何も分かりません。
変えるのは、1つか2つだけ
「確認を徹底する」
「ダブルチェックを強化する」
「意識を高める」
どの工程を、どう変えるかが ありません。そして次も同じ言葉が並びます。
「薬袋の氏名を14ポイントに大きくした(〇月〇日)」
「配薬ボックスを居室の並び順にした(〇月〇日)」
「セット中は声をかけない、と決めた(〇月〇日から)」
物と数字と期日があります。
まとめ
- ⚠ 「確認不足」は原因ではありません。結果の言い換えです
- ◎ 6つの工程で分ける——受け取り・保管・セット・本人確認・与薬・記録
- ◎ 並べると、どこかに偏ります。偏ったところだけ直せば足ります
- ⚠ ダブルチェックは、同じ工程を2回見ても効きません。見る角度を変えてください
- ⚠ セットの事故は「中断」で起きます。「セット中は声をかけない」は今日決められます
- ⚠ 「渡した」と「飲めた」は別です
- ⚠ 中止の指示が配薬する人まで届く道があるか。申し送りだけになっていませんか
- ◎ 記録に「どの工程か」を書く。次の月に集計できます
やさしい 日本語(にほんご)
1 なにが おきますか
くすりの まちがいが つづきます。
そのたびに「かくにんを しっかり する」と 書(か)きます。
でも また おきます。
2 なぜ なおらないのですか
⚠ 「かくにん不足(ぶそく)」は、りゆうでは ありません。
おきた ことを、べつの ことばに しただけ です。
3 6つに 分(わ)けて 見(み)ます
① 受(う)け取(と)る ② しまう ③ ケースに 入(い)れる
④ その人(ひと)か たしかめる ⑤ わたす ⑥ 記録(きろく)する
◎ 今月(こんげつ)の まちがいを、この 6つに 分けて ならべます。
◎ どこかに かたよります。そこだけ 直(なお)せば いいです。
4 だいじな こと
⚠ 2人(ふたり)で 見(み)ても、同(おな)じ ところを 見て いたら 意味(いみ)が ありません。
2人とも 同じ ように 見おとします。
◎ ちがう ところで 見ます。
「ケースに 入れた 人」と「わたす 人」を べつの 人に する。
わたす とき、ふくろの 名前(なまえ)を 声(こえ)に 出(だ)して 読(よ)む。
5 きょう できる こと
- ◎ ふくろの 名前を 大(おお)きく する
- ◎ ケースの ならびを、部屋(へや)の ならびと 同じに する
- ◎ 「くすりを 入れて いる 人に、声を かけない」と きめる
6 ⚠ わたした = のめた では ありません
◎ 口(くち)の 中(なか)に のこって いないか、見(み)て ください。
ほっぺの 内側(うちがわ)、舌(した)の 下(した)。
※ この ページは 答(こた)えを 出(だ)す ための ものでは ありません。たしかめる 順番(じゅんばん)を つくる ための ものです。くすりの ことは、お医者(いしゃ)さん・看護師(かんごし)・薬剤師(やくざいし)に 聞(き)いて ください。
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この記事の使い方
- まず、その月の誤薬を6つの工程に振り分けてください
- 偏ったところだけを直します。全部やろうとしないでください
- ①用具と③環境は、今日変えられます
- 確かめて「当たらなかった」工程も、記録に残してください