転倒対策に「見守りを強化する」と書いてはいけない理由
事故報告書の「再発防止策」の欄。
「注意して見守る」「声かけを徹底する」と書いていませんか。
間違ったことは書いていません。けれど、次も同じことが起きます。
理由は、1か月後に「やったかどうか」を確かめられないからです。 確かめられない対策は、実行されません。そして、次の事故で人が責められます。
なぜ、効かないのか
事故報告書の「再発防止策」の欄に、いちばんよく書かれるのが、この4つです。
「注意して見守る」
「声かけを徹底する」
「職員間で情報共有する」
「本人に立たないよう説明する」
どれも、間違ったことは書いていません。けれど、次も同じことが起きます。理由は3つあります。
| 理由 | 中身 |
|---|---|
| ① 誰も実行できない | 「誰が」「いつまでに」「何を」が入っていません。 実行したかどうかを確かめる方法もありません |
| ② すでにやっている | 見守りも声かけも、事故の前からやっています。 「もっとやる」は、何も変えていないのと同じです |
| ③ 人のせいになる | 実行できなかったとき、責任はその場にいた職員に向きます。 そして報告が減ります |
「見守りを強化する」と書いた瞬間、次の事故の責任者が決まってしまいます。
その日、その時間にいた人です。環境は何も変わっていないのに。
人を変える対策と、仕組みを変える対策
対策は、2種類しかありません。どちらを書いているかを見てください。
見分け方は、ひとつだけです。
「1か月後に、やったかどうかを確かめられますか」
確かめられるなら、対策です。確かめられないなら、気持ちの表明です。
書き換えの例
同じ転倒に対して、書き方を変えるとこうなります。
| ✕ よく書かれる | 〇 書き換えの一例 |
|---|---|
| 夜間の見守りを強化する | 「2時・4時の訪室を追加する(担当:夜勤者、8/26から。訪室記録に時刻を残す)」 |
| 足元に注意するよう声かけする | 「足元灯を常時点灯に変更する(担当:◯◯、8/26まで)」 「ベッドからトイレまでの動線の物を撤去する(担当:◯◯、本日中)」 |
| ナースコールを押すよう説明する | 「ナースコールをベッド柵に固定する(担当:◯◯、8/26まで)」 「就寝時、本人にコールを握ってもらい、届くかを毎晩確認する」 |
| 立ち上がりに注意する | 「ベッドの高さを、足の裏が床につく高さに調整する(担当:◯◯、8/26まで)」 「起床時は、いったん座って30秒待ってから立つ手順にする」 |
| 薬の影響に注意する | 「利尿薬の内服を朝に変更できるか、医師に相談する(担当:看護師◯◯、9/1まで)」 「睡眠薬の内服時刻と転倒時刻を、1か月分照合する(担当:◯◯、9/25まで)」 |
| 履物に気をつける | 「かかとのある靴への変更を、ご家族に依頼する(担当:◯◯、次回面会時)」 「毎朝、かかとを踏んでいないかを更衣時に確認する手順にする」 |
| 情報共有を徹底する | 「転倒歴のある方の一覧を詰所に掲示し、月1回更新する(担当:◯◯)」 |
「担当:◯◯」を入れることを、責任追及だと感じる方がいます。 そうではありません。誰も担当でない仕事は、実行されないというだけのことです。 担当が決まっていれば、できなかったときに「なぜできなかったか」を話せます。 そこから、人員や物の話に進めます。
「なぜ動いたのか」から考える
対策を考える前に、ひとつ。その方は、なぜそこにいたのでしょうか。
- トイレに行きたかった
- のどが渇いた
- 痛くて、姿勢を変えたかった
- 人を探していた・不安だった
- 帰りたかった
- 退屈だった
- 排泄パターンを記録し、先に誘導する
- 手の届くところに飲み物を置く
- 痛みの評価を看護師に依頼する
- 見える場所に席を移す
- 夕方の関わりを増やす
- 手仕事・役割を用意する
理由を先に満たせば、危ない時間に立ち上がる必要がなくなります。 動きを止めるより、ずっと効きます。
やってはいけない「対策」
転倒を防ぐつもりで書かれる対策の中に、身体拘束にあたる場合があるものがあります。
| ✕ 書かれがちだが、拘束にあたる場合がある | 〇 かわりに検討すること |
|---|---|
| ベッド柵を4本にする | 柵はつかまるために1〜2本。低床ベッド+衝撃吸収マット |
| 車いすにベルトをつける | 座面の角度とクッションで、ずり落ちを防ぐ |
| 立ち上がれない、深くやわらかいいすに座らせる | 立ち上がりやすいいすにする |
| 車いすをテーブルに押しつけて出られなくする | 見える場所に席を移す |
| 「危ないから座っていて」と動きを止める | なぜ動いたのかを考える |
善意でも、違反になることがあります。
やむを得ず行うには、①切迫性 ②非代替性 ③一時性の3つがすべて必要とされ、
加えて記録・ご家族の同意・チームでの検討が求められます。
迷ったら、自分で判断せず、必ずリーダーに確認してください。
そして、忘れられがちなことがひとつ。 転倒を完全にゼロにしようとすると、その方を動かさない介護になります。 それは、別の害を生みます。 目標は「転ばせない」ではなく、「危険な転び方を減らす」「転んだら早く見つける」ことです。
Mục tiêu không phải là "không cho đi lại", mà là "giảm ngã và phát hiện sớm".カンファレンスで、対策を1つに絞る
対策をたくさん書くと、ひとつも実行されません。 1回のカンファレンスで決めるのは、1つだけにしてください。
| 時間 | やること |
|---|---|
| 5分 | 集計表を見る。誰が担当だったかは話さない。時間帯と場所だけを見る |
| 10分 | いちばん多いところを1つ選び、「その時間、そこで何が起きているか」を全員で出す。 夜勤の職員と外国人職員に必ず聞く Vào giờ đó, ở đó đang xảy ra chuyện gì? Xin cho ý kiến. |
| 10分 | 対策を1つだけ決める。「誰が」「いつまでに」「何を」まで |
| 5分 | 先月の対策が実行できたか確認。できなかったなら、なぜかを話す |
- 「なんで目を離したの」
- 「見守りって言ったよね」
- 「誰が担当だった?」
- 「ちゃんと声かけしてれば防げた」
- 「すぐ報告してくれて、ありがとう」
- 「動かさずに呼んでくれて、よかったです」
- 「その時間、何が起きていますか」
- 「これは環境の問題ですね」
転倒の報告が上がってくるのは、報告できる職場だという証拠です。 「なんで目を離したの」と言われた職員は、次から小さな転倒を報告しなくなります。 そして施設は、大きな事故の前ぶれを見つけられなくなります。 Cảm ơn bạn đã báo cáo ngay.
まとめ
- 「見守りを強化する」は、実行を確かめられません
- 見分け方は「1か月後に、やったかどうかを確かめられるか」
- 対策には「誰が」「いつまでに」「何を」を必ず入れる
- 変えるのは環境と仕組み。人の注意力ではありません
- 対策の前に「なぜ動いたのか」を考える。理由を満たすほうが効きます
- 柵4本・ベルト・立てないいすは、身体拘束にあたる場合があります
- 目標は「転ばせない」ではなく「危険な転び方を減らす」「早く見つける」
- カンファレンスで決める対策は1つだけ
ここに書いた書き換え例は、すべて一例です。その方にも、その施設にも、そのまま当てはまるとは限りません。 実際の対応は、所属施設の規程と、医師・看護師の判断に従ってください。
あわせて読む
根拠にした資料
- 厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」
- 厚生労働省「介護保険施設等における事故の発生又はその再発を防止するための指針」に関する基準・通知
- 厚生労働省「介護現場におけるリスクマネジメントに関する調査研究事業」報告書
- 厚生労働省「介護保険施設等における事故報告様式の統一化について」(令和3年3月19日 老高発0319第1号ほか)
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。