慢性硬膜下血腫 — 1〜2か月後に出てくる症状
「最近、この方、急に弱られましたね」
「認知症が進んだのかもしれません」
——その2か月前に、転倒はありませんでしたか。
慢性硬膜下血腫は、 頭を打ってから1〜2か月後に症状が出ることがあるとされています。 そのころには、誰も転倒と結びつけません。結びつけるには、記録が要ります。
なぜ、結びつかないのか
慢性硬膜下血腫は、 頭を打ってから1〜2か月ほどたって症状が出ることがあるとされています。
問題は、そのタイミングです。1〜2か月たつと、誰も転倒を覚えていません。
「最近、この方、急に弱られましたね」——ここで話が終わってしまいます。
転倒と結びつけるには、「いつ頭を打ったか」の記録が要ります。記憶では届きません。
いちばん多い受け取られ方が「認知症が進んだ」です。
ぼんやりする、失禁が増える、食べなくなる、歩けなくなる——
認知症の進行として説明がついてしまうため、そこで止まります。
この病気は、手術で回復することがあると言われています。 だからこそ、気づけるかどうかで、その方のこれからが変わります。
どんなサインが出るか
下は一般に言われている症状の目安です。診断は医師が行います。 職員の役割は、気づいて、つなぐことです。
| 現場で見えるかたち | 周りの受け取られ方(ここで止まりやすい) |
|---|---|
| 急に歩けなくなった 足が前に出ない、すり足になった |
「足が弱った」「リハビリが足りない」 |
| ぼんやりする 反応が鈍い、話がかみ合わない、眠りがち |
「認知症が進んだ」 |
| 失禁が増えた | 「おむつを替えよう」「排泄の失敗が増えた」 |
| 食べなくなった | 「食欲が落ちた」「嚥下が落ちた」 |
| 片側の手足が動きにくい 握力の左右差、片方の足が上がらない |
「疲れている」「痛みをかばっている」 |
| 頭痛・吐き気が続く | 「体調がすぐれない」 |
特徴として、しばしば挙げられるのが「急に」という点です。 認知症の進行は、ふつうもっとゆっくりです。 数日〜数週間のうちに、はっきり変わったときは、 「年のせい」で片づける前に一度立ち止まってください。
気づきやすい方の特徴
次に当てはまる方は、頭を打ったことが分かった時点で、記録に印をつけておくと役に立ちます。
- 抗凝固薬を飲んでいる方
ワーファリン/イグザレルト/エリキュース/リクシアナ など - 抗血小板薬を飲んでいる方
バイアスピリン/プラビックス など - お酒をよく飲んでこられた方
- くり返し転んでいる方
- 本人は「打っていない」と言った
- たんこぶも出血もなかった
- その日は元気だった
- 見ていない転倒だった
- 入院や外泊をはさんだ
- 担当職員が替わった
「打ったか分からない」ときこそ、記録に残してください。
見ていない転倒では、頭を打ったかどうかは分かりません。
「本人は否定。目撃なし。頭部打撲は不明」——これが正確な記録です。
「打っていない」と断定して書くと、1〜2か月後にたどれなくなります。
1〜2か月後に、たどれるようにしておく
転倒記録の中に書いてあっても、1〜2か月後には探せません。 探せる場所に置くのが、この記事のいちばんの中身です。
| やり方の一例 | ねらい |
|---|---|
| フェイスシートや個別の記録の見出しに日付を書く | 「2026/8/25 頭部打撲の可能性(目撃なし)」と1行。毎日目に入る場所に置く |
| 記録に再確認の予定日を書き出す | 「9/1・9/25・10/25に様子を確認」。日付があると、実行されます |
| 申し送りノートに継続項目として残す | 勤務が替わっても引き継がれます |
| 受診・往診のときの持参メモに入れる | 医師に「いつ頭を打ったか」が伝わります。ここがいちばん効きます |
医師に伝えるとき、日付が言えるかどうかで話が変わります。
「たしか、少し前に転んだと思います」ではなく、
「8月25日に転倒し、頭部打撲の可能性がありました。目撃はしていません」。
この一言が、検査につながることがあります。
気づいたときに、どう上げるか
職員が診断をする必要はありません。見たことを、そのまま伝えれば足ります。
「最近、◯◯さん、なんだか元気がないです」
「認知症が進んだみたいです」
受け手が「年だから」で処理できてしまいます。
「◯◯さん、先週から急に歩き方が変わって、失禁も増えています。
8月25日に転倒があって、頭部打撲は不明と記録に残っています。
抗凝固薬を飲んでおられます。受診を相談できますか。」
「変化」と「転倒の日付」を、同じ文の中に入れてください。 このふたつが並んだ時点で、話は「年のせい」から離れます。
ご家族にも、先に伝えておく
面会のご家族のほうが、変化に気づくことがあります。何を見ればよいかを先にお伝えしておくと、目が増えます。
お伝えする言い方の一例 「先日、転倒があり、頭を打たれた可能性がございました。 まれに1〜2か月ほどたってから、急にぼんやりする、歩きにくくなる、といった変化が出ることがあります。 ご面会のときに『いつもとちがう』とお感じになりましたら、遠慮なくお知らせください。 こちらでも、しばらく注意して見てまいります。」
まとめ
- 慢性硬膜下血腫は、頭を打ってから1〜2か月後に症状が出ることがあるとされています
- そのころには誰も転倒と結びつけません
- いちばん多い受け取られ方が「認知症が進んだ」
- 特徴は「急に」。数日〜数週間で、はっきり変わったとき
- 抗凝固薬・抗血小板薬を飲んでいる方は、とくに注意して見る
- 「打ったか不明」と書く。「打っていない」と断定しない
- 頭を打った日を、1〜2か月後に探せる場所に残す
- 上げるときは「変化」と「転倒の日付」を同じ文に入れる
この記事は、病気を見分けるためのものではありません。医学書でもありません。 書いてあることは一般に言われている目安で、診断は医師が行います。 実際の判断は、所属施設の規程と、医師・看護師の指示に従ってください。
あわせて読む
根拠にした資料
- 日本脳神経外科学会 一般向け疾患解説(慢性硬膜下血腫)
- 日本脳神経外科学会/日本脳神経外傷学会「頭部外傷治療・管理のガイドライン」の一般向け解説
- 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」および認知症に関する一般向け資料
ベトナム語 参考訳です。母語話者による確認は受けていません。誤りにお気づきの方はご連絡ください。